iPhone 3G、スマートフォンそしてMVNO──2009年注目のキーワードは2008年の通信業界を振り返る(4)(2/4 ページ)

» 2009年01月05日 07時00分 公開
[房野麻子, あるかでぃあ(K-MAX),ITmedia]

iPhone 3Gがもう1キャリアから出たとしたら

Photo 「iPhone 3Gがドコモからも発売されることで、エコシステムの価値が向上し、多くのサービスやアプリが登場する」(神尾氏)

神尾 iPhone 3Gは日本でもエコシステムとしてはかなりいい形で成長してきているので、アップルには次のステップとして、ドコモへの対応で「潜在市場を増やす」ことを検討してほしいですね。またドコモも、「PROシリーズ」という受け皿をせっかく作ったのですから、そこにiPhone 3Gを加えてほしい。それはスーパー3G(LTE)時代の新しいコンピューティングを模索するドコモにとっても、とてもプラスになると思います。

 私はソフトバンクモバイルの孫社長がiPhone 3Gにかける情熱をすごく評価していますが、ソフトバンクモバイルだからiPhone 3G購入が選択肢に入れられない人は、けっこういるわけです。

石川 11月22日にリリースされたiPhone OSのバージョン2.2で絵文字に対応したことはすごいことだと思います。それだけアップルとしては日本市場を本気で見ているだろうし、ソフトバンクモバイルとしても、あのアップルを動かすのに相当な努力があっただろうし、これは大きな出来事だと思います。反面、アップルが手のひらを返して、もう1つのキャリアからiPhoneが出るようになったりすると、逆にソフトバンクとしては脅威なのかなという気もします。

神尾 私はむしろ、ドコモからもiPhone 3Gが出たら、ソフトバンクモバイルにとっても追い風になるのではないかと考えています。ユーザー数の底上げで、iPhone 3Gのエコシステムの価値が向上し、さらに多くのサービスやアプリが登場するわけですから。

石川 もしかしたら、今はソフトバンクモバイルで契約しているiPhoneユーザーが、ドコモにごっそり移動する可能性も十分あるわけですよね。それは大変なことだと思いますよ。i.softbank.jpのメールアドレスは、愛着があるものでもないですからね。

神尾 私の場合、MobileMeしか使っていません(笑)

石川 でしょう?

神尾 しかし、現在の番号ポータビリティ(MNP)制度の利用率を考えれば、iPhone 3Gが理由でキャリア移動するという人は少数派だと思いますよ。iPhone 3Gのクオリティは上がっていて、ドコモクオリティにどんどん近付いてきているので、ドコモが(提供キャリアに)加わることで、iPhone 3Gという興味深いコンセプトの裾野が広がればと思います。

Windows Mobileもがんばったが……

ITmedia 2008年に日本市場で攻勢をかけてきたWindows Mobileや、T-Mobileから製品が登場したAndroidなどのオープンOSの動きは動のようにご覧になっていますか? Windows Mobileに関しては、コンシューマーに対してずっとスマートフォンの普及促進を狙って来た割に、あっという間にiPhoneにお株を奪われてしまったような感もあります。

神尾 iPhoneとWindows Mobile、Android、BlackBerryって、それぞれ違う世界ですけどね。

ITmedia 簡単にひとくくりにはできないと思いますが、今までの日本型ケータイとはちょっと違うもの、という観点でお話しいただけますか。

Photo 「Windows Mobileはマイクロソフトがどう動くかで変わる。気持ちよく使えるOSになってほしい」(石川氏)

石川 Windows Mobile端末は、カスタマイズができて、一部のユーザーにはものすごくいい端末だと思うし、1つの世界観を作ってきたという点は評価できると思います。ただ、いかんせんマイクロソフトの腰が重いといいますか、動きが鈍いという話はよく聞きますよね。メーカーが「こんな仕様を盛り込みたい」「こういったサービスをしたい」と思ったら、マイクロソフトにお伺いをたてて、なんとかして動いてもらうという状態だそうです。それが結構大変な作業だとか。

 絵文字の対応についてアップルは答えをすぐ出してくれましたが、じゃあマイクロソフトはそういった答えを今後出してくれるのか、という点はよく分からないポイントだったりします。それが日本市場にとっていいのか悪いのかは別としても、なかなか状況は厳しいのかなと思いますね。

 それと、やっぱり“気持ちよく使えるか”という面で見ると、iPhoneはよくできています。T-Mobileの「G1」も、実際に触ってみると非常に気持ちよく使えます。片や今のWindows Mobileは、まだまだ気持ちよく使えるという領域には達していないことから考えると、もうちょっとがんばってほしいな、というのが感想です。

神尾 Windows Mobileは、スマートフォン市場に対する貢献でいうと、今年1年とてもがんばりました。六本木ヒルズでイベントをやったりと、彼らなりのスタンスで、がんばってスマートフォンを広げようとしています。

 ただ、石川さんがおっしゃるとおり、ユーザーの側から見たとき、特に日本語環境における使い心地では、明らかにiPhone 3Gに負けています。なぜ、資金も人材も豊富なマイクロソフトが、アップルの規模に負けてしまうのか。ここはもう少し反省すべきポイントだと思います。逆にいえば、そこは今後1年で徹底的に直してほしいところですね。

 Windows Mobileそのものが良くなれば、参加しているメーカーが多い分、ハードウェアの競争も活発になると思います。実際HTCの端末は、ハードウェアとしては、とても出来栄えがいいですよ。マイクロソフトにしてみれば、状況はけして悪くはないと思います。良くはなってきていますし、日本市場でコンシューマーに売ろうというスタンスになってきたので、その路線を強化していただきたいというところですね。

 あとWindows Mobile陣営には、使い心地というものをしっかり考えるような指標を作ってほしいなと思います。iPhone 3GはApple本社内にユーザビリティやユーザー体験のしっかりした指標を、経験則として持っているんですよ。日本の携帯電話メーカーも、やっぱり経験則を持っていますよね。だけど、Windows Mobile系のスマートフォンには、まだそれがないように思うので、うまく作ってほしいなと思います。

 脱線しちゃうんですけど、車の世界には「NVH」という指標があります。ノイズ(騒音)、バイブレーション(振動)、ハーシュネス(路面状態などによって生じる音や衝撃)の略なんですが、要は乗り心地を指標化しているんです。地域市場や道路環境ごとに、NVHのレベルをどう設計するかで、車ごとのプレミアムさを作っていくわけです。携帯電話の世界にも、NVHにあたる指標をしっかりと構築していく必要があるでしょう。

石川 そうですね。最初から多言語対応していれば、もっといろいろなメーカーが日本に参入してきやすいでしょうし。Windows Mobileは米国市場だけではなくて、世界を見てやろうよ、ということですね。

神尾 あと、Internet Explorer Mobileをどうにかせい、とも言いたいです。Safariに負けるなと(笑)

ITmedia 現状では、Windows Mobile機には必ずOperaなどの別のWebブラウザが入っていますね。

石川 それがオープンだといえば、オープンなのかもしれないですけど。

神尾 そこは「オープンに逃げるな」といいたいですね。最近のマイクロソフトはWindows Mobileの一般市場への普及に真剣に取り組んでいますし、そこは私も高く評価しています。だからこそ、マイクロソフトが提供する基本機能の部分は、もっとクオリティを上げてiPhone 3Gに負けないレベルにしてほしい。「ウチはオープンだから、メーカーやユーザーが自由にカスタマイズして使いやすくしてください」というのは、責任の放棄ですよ。

 私は一部のマニアックなスマートフォンユーザーが「Windows Mobileはユーザーがカスタマイズすれば使いやすい。そのまま使おうとするから使いにくいんだ」というスタンスなのもちょっと疑問なんです。オープンでカスタマイズできるのは確かにWindows Mobileの魅力ですが、それを全面に出すことでマイクロソフトを甘やかすことは、結果として将来的な“裾野の広がり”を阻害してしまいます。スマートフォンに未来のコンピューティングの大きな可能性があるからこそ、そこで重要な役割を担うマイクロソフトは「多くの人が、そのまま使っても安全で使いやすいWindows Mobile」を作らなければならなりません。

 今の携帯電話のように、PCやインターネットのことがまったく分からない人でも使えるスマートフォンが出てこないとダメだと思うのです。

石川 そこはAndroidに取って代わられないようにしないと、というところでしょうね。

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