リン氏は米国の制裁を受けてから、「Huawei社内の団結力が一気に高まった。これは創業当時にも劣らないほどだ」と話す。Huaweiには、社員がオフィスにマットレスを敷いて昼寝をする「マットレス文化」があるそうだが、米国の制裁後は昼夜を問わず働くことが増えたようで「朝も夜も疲れたときに休むために使っている」という。
一方、11月18日に米商務省は、Huaweiの輸出を一時的に許可する有効期限を90日間延長した。その理由(の1つ)についてリン氏は「Huaweiの機器を採用している、米国の小規模な通信事業者の利益を守るため」とみる。またHuaweiの輸出許可の延長は2019年8月にも行われており、今回が2回目の延長となる。
「商務長官は先週末、メディアに対して、Huawei機器の供給を再開してほしいというリクエストを300通受けており、自分の想像を上回るほどだと語っていた。商務省は、4分の1(の米国企業)に対して、輸出を許可したという報道もあった。本当に国家の安全に関わるものなら、米政府が食い止めていたはず。自由貿易はそれほど簡単に分断されるわけではない」(リン氏)
米国の制裁による経済面での影響について、長井氏は「間接的な効果が大きい」と話す。その影響は日本にも及ぶという。その日本は3キャリアが5G基地局にHuawei製品を採用しない方針だが、日本はどうすべきなのか。
津上氏は「米国からの要請は、安全保障から立脚している。安全保障と言われると弱いが、経済的には大きなダメージを受ける。ボイコット型の政策が広がったら、電子産業は息の根が止まると思う。ただ、米国に陳情して泣きに行っても聞く耳を持たないだろう。皆で知恵を出していくしかない」と難しい問題であることを話す。一方「米国はブレるし間違うことも多いが、間違ったと気付くと修正力は高いと思う。うまくいかないと気付けば、軌道修正が起きると思う」と期待を寄せた。
Huawei側も、日本での基地局ビジネスを諦めたわけではない。「日本政府が、通信費を削減する方針を打ち出している中で、同じベンダーの機器を使えば、コストメリットがある」とリン氏は述べる。
もちろん安ければいいわけではない。「先進国では、25kgの機器は2人以上で運ばないといけないが、基地局をより小さく薄く作れば、1人で作業できる。日本のパートナーとの努力により、Huaweiの基地局は25kg以下を実現した。(作業員を)1人減らせれば、コスト削減になる」と労働力の面でもメリットがあることを話す。この基地局は強度も確保しているそうで、「時速320kmの台風に耐える」(リャン氏)という。災害の多い日本をはじめ、世界各国の自然対策に有用な基地局になると、リン氏とリャン氏は自信を見せていた。
「Huaweiは有事の際、中国政府の意向に従わないといけない立場。ここが他国の懸念点なのでは?」という質問に対して、リン氏は丁寧に説明した。まず、そもそもそのような意志がないことを強調する。「Huaweiの年間売り上げは1000億ドルに上る。われわれが、各国の法律に違反すること、ビジネスの常識に外れることをやったら、次の日に破産してしまう。現実問題として、やる必要がない」と同氏。
日本のサイバーセキュリティ ワーキンググループ委員長の検証によると、「5G基地局では、4Gよりもはるかに厳しい信号の暗号化が図られている」(リン氏)という。「通信のパイプを使っているが、Huaweiが通信のデータを保持しているわけではない」ことから、「漏らしたくても漏らせない」と同氏は訴える。
「(Huaweiの機器を)批判しているのは政治家であり、技術のエキスパートが機器に問題があるという話を聞いたことがない。いたずらに排除すると、競争がなくなり、かえってサイバーセキュリティの投資に不利益。排除ではなく技術的な検証をすべき。それによって初めて安全かどうかが分かる」(リン氏)
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