現状、MNPを使ってキャリアを変更する場合は、転出元のキャリアで「予約番号」を取得して、転入先のキャリアで予約番号を提示して新規契約を行うようになっている。この方式は、手続きが2回必要なことから「ツーストップ方式」と呼ばれている。
しかし、ツーストップ方式では転出元キャリアでの「引き留め行為」が行われることがある。これがMNPの妨げになっているという指摘を受けて、総務省は4月1日付でMNPに関するガイドラインを改定し、転出元キャリアにおける引き留め行為を原則として禁止する。
今回の方向性案では、同省はガイドライン改定後の様子を見つつ、2年後(2023年)をめどに転入先キャリアでの手続きだけでMNPを完了できる「ワンストップ方式」を導入する方針を示している。ワンストップ化の方法は、論点案でも示された「API連携方式」を軸に検討を進める。部分的に可能な取り組みは「2年後」にとらわれずに実現することも盛り込まれている。
API連携方式では、転入先キャリアが転入元キャリアからMNP予約番号を自動取得して契約手続きを進めることになる。予約番号の発行には既存のMNPシステムを利用するため、開発にかかる手間や期間、費用を極小化できる。
ただし、MNPのワンストップ化には大きな課題が2つある。
予約番号を自動取得する機能を契約(顧客管理)システムに追加する作業は、各キャリアが行わなければならない。
大手MVNOの契約システムは、MNOの契約システムとのAPI連携を既に実装しており、契約情報のやりとりがほぼ自動化されている。API連携が実装済みであれば、MNP予約番号の自動発行機能も比較的容易に追加できると思われる。
しかし、中小のMVNOの契約システムでは、大手MVNOのようなAPI連携を実装していないことが多い。そのため、MNP予約番号の自動発行に対応するために、API連携機能を新規に開発しなければならないケースも少なからず発生するものと思われる。新規開発となると、契約システムの改修に相応の期間と費用が必要となる。
そこで、今回の方向性案では、当面の間「ワンストップ」「ツーストップ」の両方式を併存させることを盛り込んでいる。システムの開発や改修をすぐには行えない中小MVNOに配慮した格好だ。
ワンストップ方式で問題になるのが、転出元キャリアにおける解約時の「重要事項説明」だ。利用者目線に立つと、ワンストップ方式のMNP手続きでは転出元キャリアが介在しない。そのため、ユーザーが転出元キャリアを解約する場合の“不利益”を知る方法を何らかの形で用意しなければならないのだ。
そのため、今回の方向性案では、論点案と同様に2つの方法が盛り込まれている。その概要は以下の通りだが、準備期間やコスト面から「方法2」を軸に検討が進められる可能性が高い。
ワンストップ化するシステムの構築過程で、解約時の重要事項説明を転出元キャリアから取得できる仕組みを用意し、転入先キャリア(の代理店)が説明を代行できるようにする。ワンストップ化の方式案として提示された「スイッチング支援システム」から、重要事項説明の機能だけ抜き出したようなイメージだ。
ただし、この方法では解約時重要事項説明をやりとりするためのシステムを別途構築する必要があるため、準備に期間と費用がかかるってしまう。
利用者が転出元キャリアにおける解約時の重要事項説明を事前に読んでいることを前提として、ワンストップ方式のMNP手続きを利用してもらう。合わせて、転入先キャリアの重要事項説明では転出元キャリアを解約する際に生じうる一般論としての不利益の説明を盛り込むことも視野に入れている(小売り電力の事業者変更手続きと同様)。
ただし、この方法では利用者が十分に解約時の重要事項説明を読み込まずに手続きをする可能性を排除できず、そのことに起因するトラブルも想定される。そのため、この方法をとる場合はキャリアによる情報提供の充実や総務省の「携帯電話ポータルサイト」による情報提供によってフォローすることが必要とされている。
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