では今後、SIMロックはどうなっていくのだろうか。SIMロック原則禁止を定めた「移動端末設備の円滑な流通・利用の確保に関するガイドライン」の改正案によると、その適用は2021年10月1日からとされている。
このガイドラインが現状案のまま改正されれば、2021年10月1日以降に販売される端末は基本的にSIMロック解除された状態で販売されることになる。ただし割賦で端末を購入する際、支払いを継続できない可能性があると判断された人に端末を販売する場合に限り、総務省の確認を得てSIMロックをかけることが認められる。
総務省はSIMロックをなくすことで、大手3社のメインブランドの高額なプランから、MVNOなどが提供する低価格の料金プランへと乗り換える際のハードルを減らし、通信料の低価格競争が一層促進されることを狙っている。それだけに一連の施策が、SIMのみでサービスを提供するMVNOや、「povo」「LINEMO」などのオンライン専用プランにとって有利に働くことは確かだろう。
一方で、SIMロックの原則禁止が必ずしも全ての消費者のメリットになるとは限らないことも覚えておく必要がある。1つは、端末によって対応する周波数帯が違っているため、他社のSIMに変えることで端末本来の通信性能を発揮できなくなる可能性があることだ。
そもそもキャリアはiPhoneなど一部の端末を除いて、自社ネットワークで快適に利用できるよう、自社が免許を持つ周波数帯だけに対応させていることが多い。それゆえ、他キャリアのSIMを挿入すると一部の周波数帯が対応しておらず、通信が利用できない場所が生じるといった問題が発生しやすい。
そうしたことから携帯各社は、販売する端末の対応周波数帯をWebサイトに掲載するなどの対応を取ってはいるのだが、消費者がそうした知識を必ずしも持っているわけではない。それだけにこの点はトラブルのもととなりやすく、解決には消費者のリテラシー向上が求められるところだが、総務省からその具体的な策が打ち出されていないのは気になる。
いくつかの総務省の有識者会議を傍聴していた所、この問題について有識者からは「キャリアが自社の周波数にしか対応させていないのが悪い。全キャリアの周波数帯に対応した端末を出すべきだ」といった旨の意見も出ていたように記憶している。だが多くの周波数帯に対応させるほど端末側のアンテナ構成が複雑になり、その分端末価格が上がってしまうことを忘れてはならないだろう。
そしてもう1つは、総務省がSIMロックを前提とした端末値引きそのものを規制してしまったことで、スマートフォンを安く買えなくなってしまったことだ。SIMロックがあっても端末を安く買いたい人には明らかに不利な市場環境となってしまったというのはもちろんだが、5Gのように新しい通信方式に対応したスマートフォンをいち早く普及させる上でも弊害となっている。
またSIMロックを前提とした値引きができなくなったことで、キャリアが端末値引きで在庫を一掃するといった措置を取れなくなってしまったことから、在庫リスクを恐れてキャリアが調達する端末が売れ筋のものに偏る傾向にある他、独自性のあるオリジナル端末のチャレンジも減少するなど、端末の魅力低下につながるという弊害も起きている。近年、携帯各社の端末発表イベントが縮小傾向にあることが、それを物語っているといえよう。
これまでの総務省でのSIMロックに関する議論を振り返ると、国内市場の公正競争の追求に熱心なあまり、規制がもたらすデメリットについてはあまり議論されていない印象も受ける。SIMロックの原則禁止、そして端末値引き規制は5Gの普及阻害要因となり、国内の端末メーカーにも大きなダメージを与えるなど産業面では大きな影響を与えているだけに、通信産業の競争力強化という観点に立つならば、規制によるデメリットとその対処についても議論が必要ではないかと筆者は感じている。
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