5G時代のキャリアとMVNOの関係はどうなる? 即日SIMロック解除に向けたガイドライン改正も(1/2 ページ)

» 2019年10月23日 06時00分 公開
[佐野正弘ITmedia]

 総務省は10月21日、有識者会議「モバイル市場の競争環境に関する研究会」の第19回会合を開催。10月1日に実施された電気通信事業法の改正によって、端末の過度な値引き販売や顧客の契約期間拘束などにめどが立ったことから、今回は主に5G時代における、携帯キャリアとMVNOのネットワーク提供条件に関する議論が進められた。

総務省 「モバイル市場の競争環境に関する研究会」の第19回会合より。5G時代におけるキャリアとMVNOのネットワーク提供に関する議論が進められていた

4Gと5Gとで異なる接続料、まとめるべきか否か

 第17〜18回の会合で実施されていた関係各社へのヒアリングや、有識者の意見などを踏まえ、総務省は5G時代のキャリアとMVNOとの関係について、時期によって異なる課題が存在すると指摘する。1つは4Gのコアネットワーク上で5Gを運用する「ノンスタンドアロン」での運用が主となる導入初期の課題、そしてもう1つは、全て5Gのネットワークで運用される「スタンドアロン」での運用が主となる中・長期での課題だ。

 初期の課題として挙げられるのは、1つにMVNOが5Gによるサービスを円滑に提供できるようにすること。キャリア各社は5Gのサービス提供開始と同時に、MVNOへもその機能を開放するとしているが、MVNO側がそれに対応するにはキャリア側から、5Gに関する必要な情報の提供が素早くなされる必要があり、キャリアに情報提供を促すための仕組み作りが求められるとのことだ。

 2つ目は接続料の問題だ。MVNOからキャリアからデータ通信のネットワークを借りる際に支払う接続料は、現在のところ4Gまでに対応した仕組みしか用意されていない。5Gは当初利用者が少ないため需要が小さく、そのコストを上乗せすると接続料が高くなることから、4Gと5Gの接続料を一体にするか、別々にするか検討を進める必要があるという。

 この点については、東京大学大学院 工学系研究科 教授の相田仁氏から「MVNOは安いサービスを提供するという観点からいうと、自社にはほとんど5Gのユーザーがいないから、(4Gの接続料を5Gと分離し)5Gより安い値段を設定してほしい、という意見が(MVNOから)あるのでは」といった意見が出た一方で、中央大学 法学部 教授の西村暢史氏は「5Gのサービスを提供する上では普及していかなければ意味がない」と意見するなど、有識者の間でも意見が分かれている。その方向性を決めるには5Gの普及と市場競争、どちらを優先させるかを検討していく必要があるようだ。

 そして3つ目は、キャリアが自社、あるいはグループ会社のMVNOを通じ、他キャリアのネットワークを借りてサービスを提供することの問題である。その問題を提起しているのはNTTドコモで、同社はキャリアとして新規参入を果たした楽天モバイルが、MVNOとしてドコモのネットワークを借りたサービスを継続し続けていることが、電波の有効利用や公正な競争の阻害要因になるなどの理由から問題視している。

 そうした意見を踏まえ、総務省は当面、競争を阻害する事象が起きていないかチェックしていくとしているが、それと同時に、MVNOとして他のキャリアから得た情報を、目的以外に利用することを防止するための仕組みなどを検討していく必要もあるとしている。

ネットワーク仮想化の進行で接続料の在り方自体が課題に

 スタンドアロン運用が本格化した後は、ネットワークの環境自体の変化にいかに対応するかが課題となる。というのも5Gではネットワーク仮想化技術などの活用によってコアネットワークの設備がクラウド化していく可能性があるのに加え、キャリアとMVNOの接続も設備自体を物理的に接続するのではなく、APIなどを通じて仮想的に接続する仕組みが増えていくと考えられているからだ。

楽天モバイル 「Rakuten Optimism 2019」より。楽天モバイルが全面的に導入しているネットワーク仮想化技術などによって、ネットワークの在り方自体が大きく変わることが、MVNOとキャリアとの関係性を考える上で大きな課題となってくるようだ

 その場合、キャリアが自社以外のクラウドを用いてコアネットワークを構築する可能性があり、設置する機器の対象がキャリアとは限らなくなってくる。そのため現在の接続料のルールを定めた「第二種指定電気通信設備制度」が適用されない可能性も出てきてしまうといのだ。

 そもそも、クラウドやAPIを活用したネットワークの接続料は、物理的な機器を対象とした現在の接続料の算定式で計算することが難しい。そうしたことからスタンドアロン運用となった5G環境では、接続料に関する制度全体を見直す必要が出てきており、そのための議論が今後求められている。

 一方で、5Gで導入されるネットワークスライシングなどの技術を活用することで、MVNOのネットワークに関する自由度が現在のキャリアに並ぶほど高まる可能性もある。それによってMVNOは多様なサービスが提供できるようになり、競争が促進されることも期待されている。

 そうしたことからAPIを活用したキャリアのMVNOへの機能解放をいかに実現していくか、開放する範囲をどこまでにするのか、そしてMVNO自身がコアネットワークを構築し、キャリアの基地局に接続して独自の付加価値を持つことができる「フルVMNO」をどうやって実現していくか……など、新しいネットワークをMVNOがいかに活用しやすくするかという仕組みの整備に関する議論も必要とされているようだ。

設備面だけでなく本人確認も課題となるeSIM

 もう1つ、議題として挙げられたのがMVNOのeSIM活用に関するもの。現在、eSIMを提供するには自社でHLR(Home Location Register)やHSS(Home Subscriber Server)などの加入者管理装置を持つ「フルMVNO」となり、遠隔でSIMの書き換えができるリモートSIMプロビジョニング(RSP)という仕組みを自社で用意する必要があるが、日本のMVNOでそれを実現しているのは、現在のところインターネットイニシアティブ(IIJ)のみという状況だ。

eSIM 「IIJmio meeting 24」より。MVNOがeSIM向けの通信サービスを提供するには、フルMVNOであることが求められるためIIJしか実現できていない状況だ

 それだけにMVNO側からは、キャリアが持つRSPを解放してもらうことでeSIMに対応したいとの要望が出ているという。そうしたことからキャリアがRSPを活用したコンシューマー向けのeSIMサービスを提供する場合は、MVNOにも同様のサービスができるよう、RSPの開放をするための取り組みやルール作りをしていく必要があるとしている。

 eSIMに関して、相田氏からはサービスを契約する際の本人確認に関する議論も必要ではないかという提案もあった。eSIMは訪日外国人のデータ通信サービスに向けた期待が高いが、一方で日本では犯罪防止の観点から、特に音声通話に対応したサービスの場合は契約に本人確認の厳格対応が求められており、それが外国人の利用を進める上で妨げになる可能性があるという。

 一方で情報通信消費者ネットワークの長田三紀氏からは「本人確認の厳格化が求められるようになった背景も考えなければならない。犯罪利用への対策をうまくしながらも簡単な方法を考える必要があるのでは」と、慎重な対応を求める意見も出ていた。それゆえこの点に関しては、今後警察庁などと相談しながら新たな方策の検討を進めていくとしている。

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