“虚”で“驚”だった2006年の中華IT山谷剛史の「アジアン・アイティー」(1/3 ページ)

» 2006年12月26日 08時00分 公開
[山谷剛史ITmedia]

 今年は日本に直接関係するニュースは「中国検索サイト大手の百度、日本上陸計画」や中国発「Microsoft Office互換オフィスソフト」がキングソフトイー・フロンティアからリリースされ、2005年のレノボに引き続いて「お、また中国企業が上陸か!?」と思った読者もいるのではないだろうか。その百度が2006年の後半は中国でふんだりけったりの状況であったのは興味深い。こんな中国の「複雑怪奇」なITニュースでこの1年を振り返ってみよう。

中華ITの2006年を一言でいうなら「新規格」

 中国の2006年のITニュースで最も重要と思われるのが「中国発の新規格ラッシュ」だ。2006年以前から準備されてきた、もしくは、すでに日の当たらぬ場所で販売されていた「中国発」の規格が、中国国内で頻繁にニュースで登場するようになったのだ。この話題は日本でもしばしば取り上げられている。

 その新規格の1つが、中国でBlu-rayやHD DVDのライバルになるといわれている「EVD」だ。2006年の年末には20モデル以上の対応プレーヤーが中国メーカー各社から発売されただけでなく、「何が何でもEVDを普及」させるために、現行のDVDプレーヤーについて2008年までに生産終了するいう「北京宣言」を発表した。さらに、HD DVDの規格では、中国政府の注文で別のコーデック「HD DVD-ROM Physical Specifications, Version 9.9 (for China Only)」を採用する(採用させられる?)ことが決まっている。

 無線LANのセキュリティ規格「WAPI」(Wireless LAN Authentication and Privacy Infrastructure)では、2004年に標準化を無期限延期としていたが、2006年の3月と6月にIEEE 802.11iとWAPIについて国際会議でファーストトラック投票をかけている。結局標準になったのはIEEE802.11iであったが、標準規格が決まる過程を中国メディアが詳しくニュースとして伝えたことで、「WAPIという規格が中国で開発され世界標準にあと少しでなるところだったのだ」という事実を中国国内に向けてアピールできた(実は開発当事者にとってここが最も重要)。

 ほかにも中国独自のRISC CPU「龍芯」を採用した中国版100ドルPCが2006年にその姿を現した。2007年前半の発売を予定しているそうだが「自国製品なら好きになれ」「そんな性能で、できることが限られていたら使えない」とネットユーザーには賛否両論である。

 多くの中国IT系メディアで「2006年における最悪な事件」と言われるのが、中国開発のDSP(Digital Signal Processer)「漢芯」の捏造事件だ。中国では「ES細胞」論文捏造で韓国を震撼させた黄教授捏造事件に相当する事件と捉えられている。独自の知材立国を目指す矢先に中国と中国の人々に怒りと絶望を与えた事件であった。この漢芯は1号から5号まで発表されていたが、2006年1月に清華大学の掲示板に「漢芯1号は捏造だ」という書き込みがあり、これがきっかけでメディアが独自調査を始めた。最終的には漢芯の開発機関が所属する上海交通大学の調査で、漢芯は1号から5号までのすべてがモトローラなど他社のDSPのリマーク品、つまり捏造であることが判明しただけでなく、開発当事者が研究費を着服していた事実まで明らかになったのだ。

 「チップ開発不祥事」はこれだけに留まらず、その後も、中国産RISC CPU「方舟」もプロジェクトを終了した。巨額の予算を浪費しながら何も成果を残せなかった方船の開発陣に対しても「これでは研究費を着服するだけ着服したのと同じではないか」という批判が上がっているという。

 これら一連の不祥事に、中国メディアだけでなく、中国政府当局は緊急調査を行い、研究の現場で腐敗が甚だしいことが判明した。愛国心を高揚するような研究結果だけを適当に発表すればいい、という開発プロジェクトの現状を、中国メディアは「面子工程」(メンツプログラム)という新語で揶揄している。

なんといっても、今年の中華IT連載で注目を集めたのは「方船沈没」の記事だった。DSPの虚偽疑惑とあわせて中国の半導体開発の信頼性を大きく揺るがす事件だったといえる
こちらは、別な意味で大きな反響があった「中国のリアルメイドさん」の話題。中国でメイドさん、というよりは家政婦さんを雇うのはずいぶんと大変なことなのだ

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