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» 2015年06月16日 04時00分 UPDATE

国内ユーザー向けの“One more thing”:アップルは日本語デジタル化に再び革命をもたらすか?――林信行のOS X「El Capitan」世界先行レビュー(前編) (1/3)

ついに姿を現した次期OS X「El Capitan」。この最新OSには国内ユーザーに対してだけの「One more thing」が隠されていた。

[林信行,ITmedia]

国内ユーザー注目!「El Capitan」の隠し球

 WWDC 2015で発表されたMac用次期OS、OS X「El Capitan」。実はこのOSには、日本のMacユーザーに対してだけの「One more thing」(もう1つの重大な発表)が隠されていた。それは日本語関連の機能の大幅な進化だ。

og_elcapitan_001.jpg WWDC 2015で発表された次期OS X「El Capitan」

 El Capitanの概要については、WWDC 2015の現地リポートで簡単に触れた。肝はMacの「パフォーマンス」と「体験」の向上だ。アプリの起動や切り替えから始まり、画面表示全般、PDFの表示などすべてが現行のOS X「Yosemite」よりもキビキビしている。

 それに加え、分割ビュー(スプリットビュー)という機能も加わった。OS Xには、1つの作業に集中できるようにアプリケーションのウィンドウを画面いっぱいに広げる全画面表示モードという機能がある。分割ビューは同時に2つのアプリだけを表示しておくという機能で、例えば、画面をメールとカレンダーで分割表示して最近のメールに書かれていた予定がカレンダーに登録されているか確認する、といった使い方にも便利だ。

 「メモ」アプリも、どんな情報でも貯め込められるように大幅な進化を遂げた。総じて派手な機能は少ないが、日々の生活や仕事の中で大きな恩恵を受けそうな地味な改良が多数施されている。

 アップルは、何か大きな跳躍をしようとする前によくこういった地味なメジャーアップデートを行う。筆者は勝手にこうしたアップデートを「洗練版リリース」と呼んでいる。

 ケーキ作りに例えれば、派手にトッピングのフルーツやデコレーションを考えるのではなく、小麦粉であったり、水や牛乳の選び方であったり、混ぜ方だったりを見直すOSであり、じっくり噛みしめた時に感じる本質の味を左右するOS。次の大きな跳躍をする前に、足下の地盤をしっかり整えておくリリースであり、それだけにこれからの新しい方向性の起点になるOSだとも言える。

og_elcapitan_002.jpg 地味ながらも“かゆいところに手が届く”改良を施されたOS X「El Capitan」

 こういうOSのよさは実感するのが難しい。使い始めてしばらくの間は、「マシンの動作が軽快になった」であるとか、「これは快適」と感動している機能も数日経てば使い慣れてしまう。

 こうした「洗練リリース」のOSのよさが本当に分かるのは、しばらく経った後(1週間でも十分だ)あえてほかのMacなどで古いOSを触ってみることだ。すると「あれ? こんなに遅かったんだっけ? こんなに表示が違ったんだっけ? この機能はないんだっけ?」と驚かされる。

 知らない間に新しい使い心地に慣らされ、それなしではいられないくらいに自然とそれを活用してしまっている。そういう意味では、このOSに触れたことでYosemiteは筆者にとって徐々に居心地の悪いOSに変わりつつある。

 そして我々、日本のMacユーザーにとって「すごくて最初は感動するものの、すぐに慣れて当たり前になり、それでいて昔に戻れなくなる改善」の筆頭とも言えるのが、El Capitanの隠し玉、日本語の扱いの改善だろう。OS X El Capitanは、日本語の入力面と表現の面で大きな進化を遂げたOSだ。

考え抜いたうえで厳選した10種類の美しい標準フォント

 アップルというと「米国の企業」ということで、日本語関連の機能が弱いと勘違いをしている人をたまに見かける。実際はその逆どころか、デジタル時代の日本語文化を常にけん引してきた存在と言ってもいい。

 つい最近の功績で言えば、今日、多くの人が最も効率的な日本語入力手段として愛用しているスマートフォンのフリック入力を発明したのもアップルだし、日本人が意地の張り合いで標準化できずにいた「絵文字」を国際標準にして世界に広めたのもアップル(とグーグル)だ。

 これは氷山の一角で、日本語DTPから文字のスタンダードまで、コンピューター上での日本語の扱いが大きく変わりそうなとき、常にその中心にいたのがアップルだ。

 アップルはテクノロジー業界において、唯一、新しい文化を生み出し続ける稀有(けう)な会社だ。テクノロジー関係のイベントにはあまり顔を出さないが、このような人類の文化を左右する分岐点には深い関わりを持っていることが多い。ただし、この辺りの話を細くすると本題からそれるので、その話は末尾にてコラムとしてまとめた。

 日本語のデジタル化で常に最前線を走ってきたアップルがEl Capitanで行ったことは2つ。まず、文字の入力では「ライブ変換」という新しい日本語入力方式が採用された。一方、文字の表現においては新日本語フォント4種類が加わり使用できる日本語フォントが合計10種類にまで増えた。

og_elcapitan_003.jpg 打ち込んだ文字が次々と漢字に変換されていく「ライブ変換」

og_elcapitan_004.jpg 日本語フォントのバリエーション

 言葉にしてしまうとたった2つだが、これら2つが日々、Macを使って行う作業に与える影響の大きさの蓄積は計り知れない。

 人によって仕事も異なれば、パソコンの使い方も異なるので、あまりその部分に感じない人もいるかもしれないが、フォントは非常に重要だ。筆者の個人的な経験で語らせてもらうと、2007年にiPhoneショックという本を書いていたとき、一度、途中で筆が止まってしまって書き進めなくなってしまったが、画面表示に使っていたフォントを切り替えただけで急に気分が変わり、再び筆が進むようになった。

 人間というのはメンタルな生き物だ。何かの作業をする際、機能以上に使う側の気分がものをいうことがある。そしてポプリの香りを嗅いだりとか、フォントを変更するだけで気持ちが切り替わり、書く内容まで大きく変わることもしばしばある。

 ちなみに本稿はアプリにはPagesを使い、フォントにはEl Capitanに付属の「クレー」フォントを使っている。ミディアムでもかなり細身に見える硬筆体で、モダンさを感じさせながらも、どこかに伝統の折り目正しさを感じさせる気品にあふれたフォントだと筆者は感じた。

 EL Capitanには、これ以外にこれまではiBookに付属する形で使われていた游明朝、游ゴシック系のフォントとA、B、2種類の筑紫丸ゴシックフォントが用意されている。

さらに「ヒラギノ角ゴシック」フォントに関しては従来3種類だけあったウェイト(太さ)がなんとW0からW9までの10段階に増えた。

og_elcapitan_005.jpg ヒラギノ角ゴシックはウェイトが10段階になった

 もはや欧文フォントにおけるHelveticaフォント的な立ち位置を獲得した十分な美しさを備えつつ、守備範囲が広いヒラギノフォントから、書籍など長文を読ませるのに適した游明朝、游ゴシック、目を引くポップさエレガントさを備えた筑紫丸ゴシックとクレー。これだけの多彩なフォントが標準搭載となったことで、El Capitanは素のままでも、かなり多彩な日本語表現ができるOSに進化した。

 ただフォントが美しいだけではない。せっかく美しいフォントを搭載したからには、そのフォントが最も美しく表示、印刷されるようにハードウェアレベル(Retina display)でも、ソフトウェア的な描画エンジンのでも最善を尽くす。この姿勢がアップルの日本語表現を他者とは一線を画したものにしている。

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