実際、Surface Bookの紹介記事が多くのニュースサイトに掲載される傍ら、Microsoftの大きな方針転換に懸念を寄せる意見が出たり、あるいは今後のPC業界の変化を考察する記事が出始めている。
筆者も幾つか記事を読み比べてみたが、中でも米Wiredの「Microsoft’s Surface Book Will Redefine How PCs Are Made」という記事がうまく現状と周囲の反応をまとめ、今後の変化をうまく予想していたので紹介しておきたい。
Microsoftが初代Surfaceを発表した際、いまは亡きWindows RTを搭載した初のハードウェアとして「Surface RT」をWindows 8の発売日である2012年10月26日に投入した一方で、従来のPCの延長線上である「Surface Pro」については発売まで90日以上の猶予期間を置いており、「OEMのビジネスを食う」との懸念を払拭すべく一定の配慮を行っていた。
後続の「Surface Pro 2」も「Surface Pro 3」も最新プロセッサ採用タイミングを外したり、商戦期から微妙にずれてのリリースだったりと、それほど他社と積極的に競合したいという意志は見せていない。最近ではDellがSurfaceの再販ビジネスに乗り出すなど、むしろOEM商材の1つとして活用されるケースさえあったくらいだ。
しかしSurface Bookは事情が異なる。DellやHPといったメーカーのプレミアラインと呼ばれる高価格帯ノートPCと明らかに競合し、Microsoftがパートナーの市場を取りに来た製品となっているのだ。
米WiredはMoor Insights & Strategyのパトリック・ムアヘッド氏によるコメントを引用して「MicrosoftがApple製品に対抗するため、ハードウェアからソフトウェア、サービスまでを融合する必要性を強く認識している」と分析している。ゆえにタブレットやスマートフォンでは飽き足らず、MacBookのようなノートPC領域まで視野に入れ始めても不思議はないというのだ。
ただ、Microsoftが積極的に市場開拓を始めたことで、穏やかでないのはOEM各社だろう。仮にMicrosoftをけん制するためにWindows以外のOS採用を模索しても、“PCとして売れる”製品はやはりWindows搭載マシンだからだ。つまりOEM各社は、片手でMicrosoftと握手しながらも、もう片方の手では殴り合いをすることになる。
だが先ほど名前を挙げたDellなどは比較的冷静で、今回の動きに対して「Microsoftは偉大なパートナーであり、われわれとは多くの分野で協業する一方でライバルでもある」とコメントしている。
また、米Wiredにコメントを寄せたForrester ResearchのアナリストであるJ.P.ガウンダー氏は「DellはITサービスやセキュリティなどPC以外にビジネスを拡大している」と述べ、単純にハードウェア製品1つで両社の関係を図るのは難しく、既にビジネスの舞台は広く拡大していることを指摘している。
実際、米Wall Street Journalが10月7日付の報道でDellと(ストレージベンダーである)EMCとの合併交渉を伝えるなど、DellはもはやPCメーカーの枠を超えた存在になりつつあるようだ。
ガウンダー氏はこうした一部OEMのビジネス拡大によるMicrosoftとの競合の影響最小化を伝える一方で、それ以外のメーカーの「PC事業撤退」の可能性も指摘している。実際、販売規模をスケールすることで他社を圧倒しようとするLenovoや台湾系ベンダー、エンタープライズを中心にソリューションでビジネスを拡大するDellやHPら大手は問題ないだろう。ただ、「二番手メーカーの中には生き残れないものも出てくるかもしれない。今回は大きな変革のタイミングだ」と同氏は述べている。
これは筆者の予想だが、世界各地域に存在する地場の国内メーカーは同様に等しく岐路に立ちつつあり、恐らく日本のPCメーカーにとって厳しい時代が到来しつつある。
VAIOが米カリフォルニア州ロサンゼルスで2014年に開催されたAdobe MAXのイベントにて「VAIO Z Canvas」をプレビュー発表し、翌2015年10月に同イベントで製品を展示して米国販売を開始した翌日、Microsoftが同じくペン利用を想定したハイエンドノートPCのSuface Bookを発表して会場で展示するなど、明確に市場を取りに来ていることが伺える。
MicrosoftはSurface Pro 4とSurface Bookともに、2015年第4四半期は供給が限られてOEM各社が入手に苦労していた第6世代Core(Skylake)を全面採用して市場投入しており、調達力の弱い中小メーカーでは勝負しにくい環境にあるかもしれない。
さらに利益率の高いプレミア価格帯に製品を積極投入してくるとなれば、それを上回る魅力を製品に盛り込むか、Microsoftでは直接入りにくい分野や特定分野に特化した製品でない限りは、生き残りが難しいだろう。
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