表現をPC用ディスプレイやテレビ、スマートフォンに縛り付けられるのは、もはや窮屈だ。そのためか最近、「ホログラム」という言葉を使った映像表現が増えている。しかし、そのほとんどは本当はホログラムではない。
では、ホログラムとそうでないものは何が違うのか、「本物のホログラム」と「ホログラム的なもの」は、それぞれどういった世界を目指そうとしているのか、解説してみよう。
冒頭で述べたように、ちまたでホログラムと呼ばれているもの、特に最近、映像表現として使われているもののほとんどは、実際にはホログラムではない。
例えば、Microsoftのヘッドマウントディスプレイ「HoloLens」とそのプラットフォームである「Windows Holographic」も、「ホログラフィックエンターテインメント」をうたい文句にしているDMMの劇場施設「DMM VR THEATER」も、本来の定義から言えばホログラムとは全く異なるものである。
こうした映像表現をホログラムと呼ぶのは、映像が空間に浮かび上がっているからだろう。SFでいうなら、「スター・ウォーズ エピソード4(新たなる希望)」でR2-D2から表示されるレイア姫の映像であり、「スタートレック」シリーズの「The Next Generation」以降で登場する「ホロデッキ」もそうしたイメージだ。紙幣やクレジットカードには「虹色でキラキラした印刷」が貼り付けられていて、見る方向で映像の見え方が変わり、立体的に見える。これもホログラムと呼んでいる。
だが「空間に浮かび上がったり、重なったりするもの」は、あくまで「ホログラムを思わせる表現」ではあるものの、本来のホログラム・ホログラフィック技術とは異なるものである。本当にホログラムと言えるのは、むしろ「虹色でキラキラした印刷」の方だ。
では本来のホログラフィック技術とは何か?
実はそもそもホログラフィックとは、映像の表示方法ではなく、記録方法を含む技術を指すものなのである。
通常の映像では、光の強さと色が記録される。光の色とは光の波長の違いだし、強さとは振幅の大きさなので、映像は「光の振幅と波長を記録したもの」なわけだ。一方ホログラムでは、振幅と波長に加え「位相」が記録される。
もうちょっと分かりやすく言おう。通常の映像は、物体に光が反射したものが記録媒体(写真の場合にはフィルムやセンサーであり、人間の目なら網膜だ)に映ったものを記録している。すなわち「平面の映像」を記録しているわけだ。人間が立体的に感じるのは、目が2つあり、それぞれで受け取った映像を脳内で処理しているからである。
ホログラムでは、通常の光に加え「参照光」というものを使う。すると、記録媒体には両者の光の干渉縞を記録することになるのだが、結果、1枚の記録媒体に、物体の像を平面の影としてでなく「立体」として記録できる。それを表示すれば、人が見る方向を変えることで写っている物体が「立体的」に見える、という仕組みだ。
ホログラムの「Holo」とはギリシャ語で「全て」という意味であり、写真=フォトグラフィーから転じて、全てを記録する、というような意味合いで「ホログラフィー」という語が生まれた。
2枚の映像から得られる立体は、情報量が少なくても立体に見える、という利点がある一方で、ある視点から見た場合の立体像にすぎないため、例えば回り込んで横から見ることはできない。だがホログラムでは立体像として映像が記録されているため、動いてもきちんと立体に見える。
一方で、ホログラムは原理上データ量が増えるうえに、より高い解像度を再現できるディスプレイデバイスがないと、カラーかつ動画のホログラム映像を記録するのは難しい。高精度なホログラムはまた、記録にも再生にもレーザー光を使うため、機材も特殊で大きくなりがちだ。
ちなみに、紙幣などに使われているのは「レインボーホログラム」と呼ばれるもので、自然光だけで表示できることを前提としたものだ。その原理上、左右もしくは上下どちらかでしか視野を変化させられない。偽造が比較的難しいため、カードや紙幣で使われている。
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