コラム
» 2016年06月19日 06時00分 UPDATE

誤解だらけの「ホログラム」 それっぽい映像表現との違いは? (2/2)

[西田宗千佳,ITmedia]
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「ホログラムっぽい」表現もそれぞれ一長一短

 立体で記録し、映像も立体として再生できるホログラフィーが、今の一般的な映像と同じクオリティーを備える日が来れば、われわれの生活は一変する。しかし現状、それはまだまだ先のことで、現在、多くの研究者が課題解決に取り組んでいる。

 しかし、それを待っていられない事情もある。「ホログラムっぽい」表現を求められるシーンは増えており、別のアプローチで「それらしい」ことをする例が増えている。現在ホログラムと呼ばれるもののほとんどは、ホログラムが持つ「空中に映像が浮かび上がる」表現を求めたもので、決してホログラムそのものではない。ホログラムの研究をきちんと進めるためには、そうしたものにホログラムという言葉を使うのは正しいことではなく、本来は別の表現を使うべきか、とも思う。

 一方で、技術的な厳密さではなく「SFの中で見たあの風景の再現」という観点で言葉を見るなら、ああいう表現になるのも分からない話ではない。世の中の映像表現がディスプレイパネルの枠の外に飛び出そうとしている現在、ああした表現を指す適切な言葉が生まれるべきか、とも考える。

 では、「ホログラムっぽい表現」には、どのような種類があるのだろうか?

 最も多いのは「ペッパーズゴースト」の応用である。ペッパーズゴーストとは、別の部屋にある物体に光を当て、その光がガラスなどに映り込む様子を使い、ガラスの奥にある部屋に、映像として映り込んだものがあるように見せかける手法だ。ディズニーランドの「ホーンテッドマンション」でも使われていて、非常に古典的だが、演出によっては極めて効果的なやり方である。

ペッパーズゴースト DMM VR THEATERの仕組み。ペッパーズゴーストの手法を利用している

 同様に増えているのが、舞台に貼った半透明なスクリーンに映像を投射する方法だ。これは「マジカルミライ」などの初音ミクコンサートやPerfumeのライブなどでも使われている。強い光は通すが若干の反射はあるスクリーンに映像を前からプロジェクターで投射し、後ろにはアーティストやバンドなどを配置して位置を合わせることで、空間に映像が浮かんでいるような状況を再現している。

 この手法は極めて融通が利くもので、投射するプロジェクターやスクリーンのサイズ、種類を変えると表現に幅を持たせやすい。1枚の膜ではなく、霧や水の膜に投射する方法もある。ステージのように大きなものから、卓上の小さな機器まで使える。「仮想のキャラクターと一緒に暮らせる」として話題になったウィンクルの「Gatebox」も、内部ではこの仕組みを使っている。

 一方で、ペッパーズゴーストにしてもプロジェクション方式にしても、欠点は「実は立体映像ではない」「見る方向が限定される」「光の当て方に制限がある」ことだ。結局、映像を平面の投射幕に映し、それを見ているわけで、劇場的にある方向から見るならホログラムに似た効果を得られ、映像の解像度も上げやすい。開発も容易で、コンテンツの中身により時間をかけられる。しかし、どこから見ても同じ効果が得られるわけではない。だから、用途を選んで使うことが重要になる。

 より自由度が高いのが「Augmented Reality(AR)」技術を応用する方法である。ARでは、実景にCGを合成する。CGならばデータは立体だから、見る方向を変えても問題ない。HoloLensはまさにこの方法である。シースルーのゴーグルに網膜投影型ディスプレイを組み合わせて、実景に映像を重ねて表現する。CGの位置合わせは、赤外線センサーとカメラの組み合わせで物体の位置を把握することで行う。

 カメラで外界の映像そのものを取り込み、CGを合成してしまって映像をヘッドマウントディスプレイで見せる、という手法もある。これなら、見かけ上は「SFで見たホログラム」に近いものが得られる。MicrosoftはHoloLensでこの手法を「Mixed Reality(MR)」とも呼んでいる。

 問題点はもちろん、機器(ヘッドマウントディスプレイ)をかぶらないといけないこと。また、実景とCGの位置合わせや遅延の少ない表現などにも工夫が必要である。今のHoloLensは網膜投影ディスプレイの制限もあり、視野の中央にしかCGが重ねられない。また、ハイクオリティなCGを表現するには、機器側のパフォーマンスの問題もある。

 全く新しいディスプレイとして開発が進められているのは、「ライトフィールドディスプレイ」と呼ばれるものだ。「ライトフィールドカメラ」で撮影した映像を表示するためのものだが、物体の形と色だけでなく奥行き情報も記録しているという点では、ホログラムと似ている。記録手法が異なるが、現実空間の立体像を写像ではなくそのまま記録する、という点では同じ目的である、とも言える。

 ライトフィールドカメラだと、立体像を見るだけでなく、撮影後に写真のフォーカスを変えることもできる。ライトフィールドカメラの代表例は「Lytro」だが、あれはまさに「フォーカス変更」に特化した例だ。

 ライトフィールドディスプレイは、ライトフィールド記録したデータの表示を行うためのディスプレイで、実現方法は幾つもある。例えば情報通信研究機構(NICT)・ユニバーサルコミュニケーション研究所が手掛けている「fVisiOn」は、円すい形のスクリーンを取り巻く形で大量のプロジェクターを並べ、視聴する方向に合わせてライトフィールド記録された映像を見せる、というものだ。

 これはいわゆるホログラムではないが、ホログラムの目指すものを実現しようとしている、1つの好例である。ただし現状、ライトフィールドディスプレイは解像度が低く、映像の明るさにも問題がある。fVisiOnの場合にも、テーブルの上で立体像を見るような用途にはよいが、劇場的な使い方には向かない。

 現状、どれも一長一短ではあるが、「ディスプレイの枠を超える映像表現」であることに変わりはない。「ホログラム」という言葉の安易な使い方には気を付けるべきかと思うが、こうした技術による表現の広がりは、間違いなく、われわれの生活を豊かにしてくれるだろう。

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ホログラム | ディスプレイ | 3D映像


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