ガスリー氏の基調講演では、Microsoft Azureの最新状況が報告された。全世界の34リージョンでサービスが展開されており(34地域であって「34のデータセンター」ではない点に注意)、これはAmazon.comのAWSと比較しても2倍の規模だという。
またGartnerのMagic Quadrantの指標では業界他社のサービスを大きく引き離して17の分野でリーダーの地位にあり、エンタープライズ向けクラウドとしては他に大きく勝ると説明する。Fortune 500企業の採用例は85%を突破しており、比較対象がAWSというあたりに現在の業界地図が見え隠れするが、少なくとも大きな競争力を持ったサービスであることは間違いない。
Microsoftのクラウド戦略には、幾つか他社にはない大きな強みがある。
その1つが「ハイブリッドクラウド」という概念だ。AWSをはじめ、今日提供されている企業向けクラウドサービスはIaaSであれ、PaaSであれ、SaaSであれ、システムがクラウド側にあることが前提となっている。
一方で、企業ユーザーの中には社内のデータセンターやサーバルームで動いている既存のアプリケーションをそのまま使いたいというケースや、データを外部に出したくない(あるいは決まり上、外に出せない)というケースも少なくない。
この場合、Office 365を含む一部の生産性アプリケーションや新しいアプリケーションをクラウドで使い、既存システムはオンプレミス方式で内部で動かし、両者を連携させるという仕組みを採る。
この運用の柔軟性を実現するのがハイブリッドクラウドで、オンプレミス向けの製品を持つMicrosoftならではの戦略だ。クラウド側ではLinuxを動かすことも可能で、ガスリー氏は「Any platform, any language(どんなプラットフォームや言語でも大丈夫)」と強調する。
また同日には「Dockerコンテナ」や「Nano Server」の仕組みもサポートした「Windows Server 2016」と「System Center 2016」が正式に提供開始となったことも報告され、このハイブリッドクラウド戦略を後押ししている。
そして今回のIgniteでは、米Adobe Systemsとのクラウド分野での提携も発表された。ステージ上にはナデラ氏と、Adobeのシャンタヌ・ナラヤンCEOが登場し、Microsoft AzureとAdobe Marketing Cloud、そしてMicrosoft Dynamics 365を組み合わせたソリューションを提供していくという。
具体的には、Adobeが持つMarketing Cloud、Creative Cloud、Document Cloudといったクラウドサービス群向けの推奨クラウドサービスをMicrosoft Azureとし、Azure側からは各種コグニティブ(認識)サービスや機械学習サービスといった仕組みをAdobeクラウド側に提供するといった具合だ。またMarketing CloudをDynamics 365向けの推奨サービスとし、両者が密に連携する仕組みを模索する。
実は、この開催前夜にあたる9月25日に報道関係者やアナリストを集めたミーティングが行われ、事前に今回の発表内容が共有されていたのだが、このAdobeとの提携だけは発表内容がぼかされていた。それだけ両社にとって重要な意味を持つ提携だったのだと考える。
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