iPhone 8――10年目を締めくくる初期iPhoneの完成形(3/4 ページ)

» 2017年09月19日 20時00分 公開
[林信行ITmedia]

ARなど新時代の技術を支える「A11 bionic」

 同様にA11 bionic搭載のiPhone 8はARなどの利用においても理想のiPhoneとなっている。ARkitというiPhoneのAR基盤そのものは、2世代前のiPhone 6sで採用されたA9チップ以降を搭載しているiPhoneすべてで動作はするが、iPhone 8のほうがより快適な動作や高解像度な表示を楽しめる可能性が大きい。

CPU検証ソフトのGeekbench 4のトータルスコア。1つのコアでも32%、すべてのコアを使った時のパフォーマンスでは78%近い速度向上があった。ちなみに動作速度は2.06GHzとiPhone 7 Plusの2.34GHzより下がっている。差が顕著だった項目としては整数演算で91%、HTML 5のパースでも91%、ヒストグラム解析テストで91%、PDFのレンダリングでは98%、カメラでは109%、HDR処理が96%の速度向上を示していた。iPhone Xで目玉となる顔認識の速度向上は79%だったが、これはアップルによる顔認識のアルゴリズムと、このテスト用プログラム、Geekbenchでは顔認識のさせ方のアルゴリズムが違うかもしれない

 セカイカメラやポケモンGoなど、これらまでのARアプリは単純にコンパスやジャイロセンサーでiPhoneの向きを計測してコンピューターグラフィックスを表示する位置を決めていたが、ARkitでは部屋の大きさや机の天板の面をカメラを通して画像認識してその上で映像を重ねる。このためコンピューターグラフィックスとは言え、あたかも本当にそこに置いてあるかのようにしっかりと位置が固定されて見える。

 しかも、iPhoneを近づけると細部が大きく見えるといった特徴もあり、かなり精密なコンピューターグラフィックスも合成できる。ただし、これまでのiPhoneでは、処理が追いつかず間引いて表示されることもあるかもしれないので、ARKitのアプリを最良の状態で楽しみたいならA11 bionicを搭載したiPhone 8やiPhone Xが必要になる。

 ここからは少し難しいが、iPhone 8(とiPhone X)の頭脳となるA11 bionicについても解説したい。技術に興味がない人は「これだけでも乗り換える価値があるほど、圧倒的に高速で、」ということだけ覚えて、次の項まで読み飛ばしてもらってもかまわない。

 A11 bionicはiOSやアプリの実行を担うCPUと呼ばれる機能と、画像表示や機械学習を担うGPUと呼ばれる機能、iPhoneを持つ人の動きなどを検知するモーションプロセッサーと呼ばれる機能などを1つに統合した半導体チップだ。

 iPhone 7が採用していたA10 Fusionは、負荷の大きい処理をこなすコア(核)が2つ、負荷の小さい処理を少ない消費電力でこなす節電型のコアが2つの合計4コア構成だったが、A11 bionicでは高性能コアは2つのまま25%高速になっている。

 一方で、少ない消費電力で多くの仕事をこなす節電型のコアは倍の4個に増えており、しかも消費電力は低いまま70%も高速になっている。A11 bionicは、2種類のコアに仕事を振り分けるパフォーマンスコントローラも改善された第2世代のものに置き換わり、最大限の性能が必要なときには6つのコアを1つにまとめて処理に当てることもでき、これまでのA10 Fusionと比べて圧倒的な処理能力を発揮できるのだ。

 一方、高度なグラフィックスを多用するゲームなどはもちろん、画像認識など機械学習を用いるアプリでも重要なのがGPUのパフォーマンスだ。iPhoneのチップは、これまでImagination TechnologyのPowerVRという技術に基づいたGPUを搭載していたが、A11 bionicからはAppleが独自開発した、従来のものよりも30%高速な3コアのGPUを搭載している。

 またモーションプロセッサー更新のおかげかは不明だが、iPhoneに内蔵されたコンパスも正確さを増し、急激に向きを変えたときに(iPhone 7 Plusではしばらく方位が分かるまで針がふらつく)、iPhone 8のコンパスの針はピタリとすぐに向きが定まる。こうしたこともARなどを利用するときのパフォーマンスに大きな違いを生み出すだろう。

 コンパスの改善などについてAppleは公式に唱っていないが、A11 bionicやiPhone 8そのものには、このように表面では分からない繊細な調整もたくさん行われているのを感じる。その艶やかな表面仕上げと同様にソフトウェアの触り心地も艶を増している。

iPhone登場から10年の集大成

 冒頭でも触れた通り、iPhone 8はiPhoneが生まれた最初の10年の集大成だと思う。故スティーブ・ジョブズが「時折、革命的な製品が出てきてすべてを変えてしまう」と語って発表した初代iPhoneだったが、この製品はやがて、まさにその言葉通りの存在になった。

 日本では発売されなかった最初のiPhoneは、ポケットから取り出してどこでも快適にいつも見ているWebページが閲覧できるデバイスとして人気を高めた。これはおそらく今でも最もポピュラーなiPhoneの使い方だろう。このWebブラウジングも、iPhone 8では色再現性の高い大きな画面と4つの節電型コアで快適に楽しめる。

 iPhoneは動画を楽しむデバイスとしても人気を高めたが、これも大型で高解像度なRetina HDディスプレイや大音量のスピーカーでさらに楽しくなっている。2008年以降はApp Storeが誕生し毎日増え続ける新しいアプリをApp Storeへ探しに行くことが楽しみだった。ここしばらくはアプリが増え続けて、新アプリ発掘を楽しむ習慣もなくなってしまったが、iOS 11の刷新されたApp Storeでは毎日雑誌のようにしてアプリの使いこなしなどの情報を提供しており、再びアプリ新発見の楽しみを呼び戻そうとしている。

 iPhoneは世界で最も人気のデジタルカメラにも進化した。最初は解像度も低くトイカメラなどのアプリを使ってむしろ低解像度を楽しんでいたが、やがて一気に高画質化を果たし、巨大ビルボード広告サイズまで引き伸ばしたiPhone撮影写真が世界中の名所を埋め始めた(Appleの広告キャンペーン)。最新のiPhone 8では、解像度はそのままにカメラがさらに進化を果たし、多くのデジタルカメラを軽く凌駕(りょうが)する性能を持つに至った。特に被写体の起伏を形状認識して照明効果を加えるポートレートライティングのような機能がデジタルカメラに追加されることは今後もしばらくないだろう。

 ちょっとした操作を快適にサポートしてくれるSiriもiOS 11でさらに進化しているし、スマートホーム系およびヘルスケア系IoTをメーカーの壁を超えて共通の操作で扱えるホームキットとヘルスキットも進化している。端子部分をいちいちゴム蓋でふさがなくても大丈夫な耐水性も引き継いでいれば、クレジットカードやSuicaを登録してお財布いらずで決済ができるApple Payにももちろん対応している。

 1つApple Payについてうれしい話題がある。iPhone 7では日本で購入したiPhoneしかFeliCaという日本生まれの技術が搭載されておらず、Suicaの利用はできなかったが、iPhone 8以降(iPhone Xを含む)では海外で発売されるモデルにもFeliCaが搭載された。つまり、増え続ける訪日外国人観光客も、iPhone 8以降であれば、Suicaを登録して日本の快適な交通系電子マネー決済の魅力を享受できるのだ。

この薄いスマートフォンで美しい4K動画映像の撮影や表示を楽しんでいると、一体これはどんな魔法で動いているのだろう、と疑問に思ってしまう瞬間がある。iPhone 8は世界を変えたiPhoneのすべての魅力が最良の形で凝縮されたiPhoneとなっている

 これだけの充実な機能を持ちながら、本体はこれまで通り信じられないほど薄く、手に持った感触も心地よい。このiPhone 8を使って、巨大なプロ用カメラも顔負けな品質の4Kビデオを撮影したりしていると、まるで魔法を手にしたかのような不思議な気持ちに包まれる。

 iPhone 8は、これまでのiPhoneの集大成であり、完成形だと思う。

 なお、次ページ以降では、iPhone 8の驚くべき画質のカメラで撮影したさまざまなシーンでの写真サンプルを掲載している。そちらも是非参照してほしい。

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