ポケットの中のエキサイティングなAI――林信行の新型「iPhone」発表イベント現地レポート(2/3 ページ)

» 2018年09月14日 16時19分 公開
[林信行ITmedia]

目いっぱい大きく広がった画面

 AI機能は、ここから始まる新しい時代の予兆ではあるが、今回のiPhone新ラインアップの、すぐ分かるもう1つの特徴が本体の端から端まで広がった大きな画面だろう。

 9月発売のiPhone XSは、2017年のiPhone Xと同じサイズで黒色をきれいに描き出す有機ELの5.8型ディスプレイを採用する。

5.8型有機ELディスプレイを搭載するiPhone XS

 10月発売のiPhone XRは、これよりも少しだけ大きく画面サイズも6.1型。ただし、ディスプレイは液晶で解像度もXSよりも低い。XSが1インチ辺り458ピクセル(ppi)の密度で2436×1125ピクセルなのに対し、XRは326ppiで1792×828ピクセルだ。

 一方、大型モデルのiPhone XS Maxは、定評があったiPhone 7 Plusや8 Plusの本体サイズとほぼ同じだが、ホームボタンをなくして画面を端から端まで広げた6.5型の有機ELディスプレイを採用する。これ以上大きいと持ちにくさが勝る、という本体いっぱいに画面を広げた、まさにMaxという名前がふさわしいデザインになっている。画素密度はiPhone XSと同じ458ppiで2688×1242ピクセルだ。

6.5型有機ELディスプレイを搭載するiPhone XS Max

 iPhone XS Maxは(横向きで持った場合に限り)、より音の広がりが感じられる新設計のスピーカーとの連動もあり、映像コンテンツやゲームなどの迫力が増すことに加えて、メールやメモ、連絡先などの標準アプリでも、画面を左右に分割して一覧表示と内容が同時に見渡せるスプリットビュー形式に対応するなど、PlusシリーズのiPhoneの魅力だった情報量の多い表示を、さらに情報増量で形にしている。

 この画面の大きさは映像の迫力や、より多くの情報を見渡せる快適さはもちろんだが、これからの時代のiPhone操作をより快適にする上でも重要な要素だ。

 2017年に登場したiPhone Xを触ったことがある人は、最初は慣れ親しんだホームボタンがなくなったことで「操作に戸惑うんじゃないか」と心配したものの、これまで通り普通かつ直感的に操作ができて驚いたかもしれない。

 確かにiPhone Xの操作は、これまでのiPhoneとほぼ同じ要領でできる。だが、Apple社内では「Fluid Interface」と呼ばれる新しい操作方法は、実はかなりよく練られた先進的なアイデアに基づいている。

 実は数年前にはアーティスト、Bjorkなどの映像演出なども手掛けた世界的活躍で注目を集めるメディア・アーティスト、Marcos Alonso氏らがAppleにヘッドハントされており、その開発に携わっている。これがどこまで深く細かく考えられた操作体系かは、2018年のWWDCの「Designing Fluid Interface」というセッションを参照してほしい。

 何げなく直感で実現できてしまっている操作の裏に、これだけ細かな配慮があったのかと驚かされる。逆に本当の使いやすさや快適さを実現するには、ここまで考えを巡らせないといけないのだ、といういい勉強にもなる必見の講義だ。

 「Fluid」とは流体、液体のこと。これまでのiPhoneのように画面上の項目のタッチを中心とした操作から、画面の上に縦横無尽に指を滑らせて、1つの情報から別の情報へとまるで波乗りをするように滑らかに移動していく操作、それがFluid Interfaceだ。

 2017年にiPhone Xで初めて形となったが、2018年、全ての新型iPhoneがこのX世代になり、ホームボタンを排除したことで、iPhone操作の主流はこれまでのタッチ操作からFluid Interfaceに変わっていくはずだ。そしてこの操作を心地よくこなすためには、本体の端ギリギリのところまで広がった大きな画面が重要だったのではないかと筆者は考えている。

成熟した会社ならではのイノベーション

 今回、筆者が特に感心したのがAppleで環境問題を監督するLisa Jackson副社長が紹介した内容だ。「環境問題」と聞いた途端に「自分には関係ない」と読み飛ばす読者も多いかもしれない。今はそれでいい。

 だが数年後には他のメーカーも無視できない状況が始まり、「そういえば、2018年のあの記事でそんなことを読んだな」と思い出すかもしれない。

「Apple Give Back」プログラムを発表するLisa Jackson副社長。自社電力の100%を再生可能エネルギーで調達するAppleが、今後は部材調達やリサイクルの分野でも環境問題への取り組みを加速していく

 AppleのiPhoneは既に累計で20億台を出荷し、今でも年間2億台を大きく上回るペースで売れている。他にも年間、数千万台から億台ペースで製品を製造しているメーカーがあるが、その規模での製造が進む度に、部品に使うレアメタルを求めて地球に巨大な穴が掘られ、水が汚れ、大きなエネルギーが消費される。

 もはや無視できない問題になり始めていて、最近ではビジネスの世界でも「SDGs」という言葉をよく耳にするようになった(国連加盟193か国が2030年までを目標に実現を目指す「持続可能な開発目標」)。

 その最先端を走っている企業の1つがAppleだ。同社は日常業務から、製品の製造、店舗の営業からiMessageでやりとりされる膨大なメッセージを交換するサーバの動作まで、その100%がAppleが賄う再生可能エネルギーで運用されており、環境負荷を気にせず安心して使うことができるようになっている(筆者はこうした取り組みを「エシカルIT」と呼んで日本でももっと関心を高めたいと思っているので、できれば読者の方々も応援してほしい。関連記事:製造業の転換点になるか――Appleが再生可能エネルギーで自社電力を100%調達)。

 Jackson氏はさらなる取り組みとして、将来的にはiPhoneなどの製造で一切、資源の採掘が不要になるモデルに移行したい、という目標を語り、まだそれができない現状においてはせめて部材を信頼のおける提供社から供給を受けるという宣言をしていた。

 実際にiPhone XSでは、メイン基板(ロジックボード)に一切品質を損なうことなくリサイクルされたスズを活用。これにより年間1万トンのスズの消費を抑えているという。さらに製品が長く使えるために取り組むこと、そして将来的には製品で使われた部材を完全にリサイクルできるようにすることを目標に掲げているとも宣言した。

 長く使える製品にする上で重要なのが、製品の頑丈さ。そのために原子レベルの加工によって実現したスマートフォン史上最強のガラスを開発し採用したり、医療に使われているものと同じグレードのステンレススチールフレーム、そして水深2mのところに30分置かれても大丈夫な耐水性能も実現している。

 ソフトウェアからのアプローチもある。iOS 12は5年も前のiPhone 5s以降のiPhoneに対応しており、しかも、動作を快適なスピードに引き上げるように工夫されている。つまり、最新の魅力的なiPhone XSやXRを買わなくても、5年も前のiPhoneを使い続けてOKだとアップルは言っているのだ。「なんだかんだいって1つの製品を長く使い続けることこそが地球環境には最も優しい」とJackson氏は念を押している。

 リサイクルに関しては、10種類の異なるiPhoneモデルを完全に部品レベルに分解してリサイクルパーツにしてくれるAppleのロボットアーム、「デイジー」が紹介されたのに加え、使わなくなった古いiPhoneをAppleの側で回収して、安価な古いモデルを必要としている顧客に提供するか、顧客がいなければ責任を持って完全にリサイクルをするという「Apple Give Back」というリサイクルプログラムも発表された。

ロボットアームの「デイジー」

 新iPhoneの開発アプローチはもちろん、こうした取り組みについても学ぶことが多い。なお、Jackson氏は語ってはいないが、製品を長く活用していく上でもう1つ無視できない要素は製品のモノとしての美しさではないだろうか。

 正面から見たときはほぼ全面がディスプレイのiPhoneだが、ステンレススチールの側面から背面のガラスまで、そのモノとしての美しさは、素材を生かし発色をよくするための特殊加工で実現している(電波を通すためのアンテナ部分を目立たなくする工夫など、細かなところの改良も多い)。

 これに対して、今回、形状的にも大きな進化があったのが「Apple Watch series 4」だ。特に新たに出たエルメスコラボモデルの2色混合バンドの美しさは、取材に来ていた女性記者たちを魅了していた。

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