インタビュー
» 2018年12月30日 14時18分 公開

フィル・シラー×林信行が振り返るAppleの2018年、iMacからの20年 (1/3)

Appleのワールドワイドマーケティング担当上級副社長であるフィル・シラー氏に林信行がインタビュー。2018年のAppleを振り返る。

[林信行,ITmedia]

 フィル・シラーといえば、Appleの製品発表会で重要な製品の発表に合わせて登壇する人物。彼の役職はワールドワイドマーケティング担当上級副社長だ。Appleの重役の中では最古参で、初代iPodのホイール操作の発案者としてもよく知られている。

 同氏は毎年12月に日本を訪れ、年末商戦に向けて、その年の新製品の素晴らしさを振り返るのが慣習だ(ここ数年は来日していなかったが)。この冬休みに改めてAppleの本質を掘り下げ、2019年のモチベーションにしてもらえればと思う。今回、Apple重役のインタビューとしては異例なことに、カメラメーカーの方々へのアドバイスももらった。

変化の多かった1年、20年変わらない軸

 フィル・シラー上級副社長の年末インタビューは「今年も最強の製品ラインアップがそろった」というお決まりの文句で締めくくられる。だが、その言葉を聞くまでもなく、2018年のApple製品はこの数年の中でも、最も変化とチャレンジに満ちていて面白かった。

 iPhoneは端から端まで画面が広がったiPhone X世代へと完全移行を果たした。iPadもまずはiPad Proから同様の変化を始め、外観のディテールも引き締まった。このまま消滅かと思われていたMacBook AirとMac miniはフルモデルチェンジを果たし、かつてない魅力をまとってよみがえった。

2018年9月の新製品発表イベントで「iPhone XS」と「iPhone XS Max」を紹介するフィル・シラー

 ハードだけではない。膨大な手間とコストをかけ作られ無料配布されている電子書籍「Everyone can Create」も登場した。さらに責任ある老舗のIT企業として、それまでのIT業界のやり方に一石を投じるAppleからのメッセージ発信も多かった。プライバシーの保護と環境への取り組みだ。

無料の電子書籍「Everyone can Create」

 こうした取り組みができるのは、もちろん、Appleが大成功しているIT企業だからこそだ。21年前、いつ潰れてもおかしくない状態のAppleからは想像もつかなかった。

 だが、20年前に発表した1つの製品、初代iMacの発表によってAppleは大きく生まれ変わった。まさかここまでの大変貌を遂げるとは、Apple社員ですら想像していなかっただろう。最古参重役のシラーは、この20年の成功をどう振り返るのか。

 「そのことについてはよく考える」とシラー。この成功は、Appleの根っこにある「テクノロジーは人のために使われて初めて価値を持つ」という考えによる部分が大きいと語る。

1998年、今から20年前に登場した初代「iMac」

 「Appleは最先端のテクノロジーをより多くの人々が使える形で提供することを目指す会社だ。ここで大事なのは『使える形』の解釈で、ただリリースしておしまいということではない。実際に人々がどう使えばいいかを理解し、一人一人の日常生活の中で役立てられる形にして出すことで初めて意味がある。もっとクリエイティブに、もっと自由に、そしてやりたいことがもっとできるように、それに必要な道具を提供する。テクノロジーの提供が目的ではなく、人々に力を与えることが目的なのだ」

 この考えはこの20年間、Appleの根底の揺るがない基盤として存在し続け、常にmission(使命)でありpassion(情熱)の対象であったという。

 「では、この20年で変わったのは何かというと、テクノロジーの側だ。テクノロジーは絶え間なく、加速しながら大きく変化を続けている。そのために、ある領域では『ユーザーの役に立ってこそ』と言う考えが、これまで以上に重要になっている。私たちは常にテクノロジーの動向を見て、どのように活用すれば人々の暮らしに一番大きな価値を加えられるかだけを考え続けてきた。そうした成果の多くは、多くの人々にとってはそれまで考えもしなかったことながら、実際に使ってみると『まさにこうあるべきだ』と思えることだ」とシラーは話す。

 「こうした私たちの姿勢は、最もシンプルな製品で体現されていることが多い。最新のテクノロジーを凝縮したiMac Proなども、もちろん誇るべき製品だが、私がAppleのユーザー中心の姿勢を一番強く感じるのはAirPodsやApple Pencilのようなシンプルな製品だ。どちらもボタンもなければ、スイッチもない。モードの切り替えもない。ただ手にとって使うだけだ。何も考えず、ただ手に取れば自然にテクノロジーの恩恵を受けられる。そして耳にしていたAirPodsを取り出すと、自動的に映画の再生も一時停止する。とても自然だ。見方によってはAirPodsはあなたの両耳に収まる完全ワイヤレスのコンピュータといえる」

 「私たちはその2つの、ディスプレイもマウスもないコンピュータに、両耳で完全に音を同期させ、消費電力も管理させた上で、ユーザーのために、さらにいろいろなことをするように指示している。これは実際にやろうとしてみると非常にチャレンジが大きく、非常に先進的なことでもある。だが、モノとして見てみると極めてシンプルに仕上がっているんだ」

AirPods

 シラーはAirPodsのような製品は、20年前、10年前はもちろん、5年前ですら作ることができなかったという。実現を可能にしたのは技術の進歩の恩恵もあるが、もう1つ忘れてはならないものがある。

 「それはジョニー・アイブ率いるデザインチームの存在だ。彼らには『こんなものを作りたいんだ』と切り出す力がある。どうやったら作れるかは分からない。でも、その後、その製品を実現するまでの長い道のりの最初の一歩を踏み出す力が、そして次の大いなる挑戦、新しいハードルを見つけ出す力も」

 シラーは、この質問の答えをこう締めくくった。

 「と言うことで、私たちの目指すものはこの20年で変わっていないし、その実現のために注ぐ情熱も変わりはない。テクノロジーの部分だけが常に新しく変わり続け、私たちを新しい方向へと誘ってくれているんだ。だからこそ今でも、Appleの仕事はとてもエキサイティングなんだ」

 シラーが情熱的にそう語るのを聞きながら筆者は少し感動していた。彼は知るよしもないが、筆者はこのインタビューの1カ月前に、雑誌「AXIS」(2018年12月29日発売号)のために、Apple最高デザイン責任者のジョニー・アイブを取材していた。その最後で、同様にこの20年を振り返ってもらった。語り口は異なるものの「成功の根っこには揺るがない価値観」と同様のことを話しており、この話にものすごいリアルさを感じたからだ。

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