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» 2012年07月18日 16時08分 UPDATE

SoftBank World 2012:8000台のiPad導入は“すべての改革のスタート”――野村證券が賭ける「個の力」への可能性 (1/2)

国内最大規模となるiPadの導入を決めた野村證券。“コミュニケーション能力”と“引き出しの多さ”が試される営業現場で、スタッフの「身体的な負荷を下げつつ、能力を最大限に解放する」ためのツールとして役立っているという。

[柴田克己,ITmedia]
Photo 野村證券、執行役会長の多田斎氏

 アップルの生み出した「iPhone」そして「iPad」という製品は、登場から5年もたたないうちに、多くの人々と情報との関わり方を変えてきた。多くの消費者が個人的に利用する情報デバイスとして、これらの製品を使い込んでいく中で、その可搬性の高さや情報アクセスの容易さ、ユーザビリティの高いインタフェースによる生産性の高さといったメリットを、ビジネスの中で生かし、競争力の強化に役立てたいというニーズも生まれてきた。

 こうした、スマートデバイスの潜在的な能力をビジネスの向上に役立てようという取り組みは、当初、試験や試行的な意味合いで進められていた。しかし現在では、その段階を終え、全社規模での本格的な導入と具体的な成果の獲得を目指すフェーズへと進む企業も増えつつある。

 野村證券では、iPadの導入を2011年から試験的に進めていたが、その成果を受け、全国のリテール事業の全営業担当者に対してiPadを支給することを決定。8000台のiPad(3G+Wi-Fiモデル)の導入を決めた。

 7月11日に開催されたソフトバンクテレコムの企業ユーザー向けイベント「Softbank World 2012」には、野村證券で執行役会長を務める多田斎氏と、国内IT戦略部長の藤井公房氏が参加し、野村證券が国内最大規模となるiPadの導入を決めた背景と、現状の具体的な活用方法、今後の計画などについて講演を行った。

「ネット」と「対面」、両者の強みを生かしたモデルの構築

 多田氏はまず、野村證券のビジネススタイルに変化が求められている背景として、外部環境として、社会のフレームワーク自体が急速かつ大規模に変化している点を指摘した。この変化は、メディア、グローバル化、マーケティング、人間の行動などの広範な側面におよび、それに伴って企業としてのマーケティングにどう取り組むべきかも変わってきたとする。

 「社会のフレームワークが変化することで、企業と顧客の情報の非対称性は破れ、世界空間は小から極小へと変化した。いわばこれは『個』を中心とした世界への変化だ。こうした世界の形成に大きな役割を果たしているITの変化は、予測不可能なほどに早く、変化自体が常態化している。自らビジネスの想定範囲を広げていかなければ、世の中のスピードに追いつけない」(多田氏)

 同社ではこれまでも、こうした変化に追随することを目指したさまざまな取り組みを行ってきたという。ITの側面においても、「3D仮想世界での研修」など、いくつかの試験的な取り組みを行ってきた。しかし、ツールが統一されていなかったことで、めざましい成果は得られなかったとする。また、IT面での革新だけでは証券会社の顧客である投資家の行動に抜本的な変化を起こすことはできないとも多田氏は言う。

 「すべての投資家が利便性や高利率性だけを求めているわけではない。現実に、商品ラインアップについては伝統的な証券会社とネット証券との間で決定的な違いはないが、預かり資産の獲得額はネット証券が大きく上回るというわけではない。『ネットに強み』『対面に強み』といった視点ではなく、ネットと対面、両者の力を融合させたモデルが重要になる」(多田氏)

 こうした背景のもと、営業担当者に求められるのは「顧客の抱えている問題を見つけ出すためのコミュニケーション能力と、悩みを解決するための引き出しの多さ」であると多田氏は言う。一方で、多彩な商品情報や、さまざまなニーズを抱えた個別の顧客と、円滑なコミュニケーションを図るために必要な情報量の多さは、ときには1人の営業担当者のキャパシティを超えるものになり得るという課題もある。この「大量の情報」を、個々の営業担当者がいかに円滑にハンドリングするかという視点で選択されたデバイスが「iPad」であったという。多田氏は、これを「『個』客とのコミュニケーションを盛り上げるツールとしてのiPad」だと表現した。

Photo 多田氏はiPadを「『個』客とのコミュニケーションを盛り上げるツール」と表現した

 野村證券で、営業担当者による活用を主眼としたiPad導入プロジェクトが開始されたのは2010年の4月。それから現在までの間に、さまざまな用途に向けた試行や、導入規模の段階的な拡大を行ってきており、その中で既にいくつかの目に見える導入効果が生まれてきているという。

 数値として最も分かりやすい例は「営業担当者が外交に持ち運べる資料の種類」だろう。個人が常に持ち歩ける、いわゆる「紙資料」の量には限界がある。iPad導入以前には1人あたり約30種類の資料を常備するのが限界だったというが、他の荷物も含めたカバンの総重量は実に「約7キロ」に達していたという。iPadの導入により、営業担当者が常に参照できる資料の種類は300種類以上にまで増えた。もちろん、重さはiPadの重量(662グラム)となる。これによって、営業担当者の身体的な負荷を下げつつ、能力を最大限に解放するための環境が整えられたとする。

 また顧客との「コミュニケーション」活性化の面でも、iPadは成果を上げているという。会話の中で顧客にとって必要な情報を迅速に引き出し、その内容を「同じ画面を見ながら」検討するという過程のスムーズさは、例えば旧来のノートPCや携帯電話では実現が難しかったという。

 さらに、営業担当者の業務効率性向上の面でも成果は生まれている。例えば、アップデートが行われた資料の差し替え、営業のための準備作業、知識向上のための勉強といった外交以外の部分で必要とされる業務について、本社側でシステムを通じてサポートできる範囲が広がったという。多田氏は「これにより、営業担当者は、よりお客様の問題に専念してビジネスを行える。個人の潜在能力が今まで以上に発揮できる環境が実現している」と話す。

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