国家の計画――も出すだけなら出せる樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

海外経験の長い筆者は、過去に駐在した国々で国家規模の計画を練ってきた。実現できるかどうかは別だが、計画だけなら提出できるのである。

» 2009年11月02日 17時40分 公開
[樋口健夫,Business Media 誠]

 筆者は海外駐在20年を過ごした。滞在した国々は,

滞在国
ナイジェリア(ラゴス) 1973年〜1977年
サウジアラビア(リヤド) 1977年〜1985年
ベトナム(ハノイ) 1994年〜1996年
ネパール(カトマンドゥ) 1999年〜2004年

 である。これらの国々で異なったプロジェクトを担当したが、滞在している間に自分の担当しているプロジェクトとは別に、その国の未来に関心を持ち、開発計画を頼まれもしないのに勝手に立案していた。

“鉄ちゃん”的計画――ナイジェリア時代

 “鉄ちゃん”になったのはナイジェリア時代。駐在した1975年の当時、ナイジェリアの国鉄は多数の蒸気機関車を立派に現役で使用していて、筆者を魅了したのだった。

 ナイジェリアは大きな国だ。国土は四角い形で、西南の頂点付近にある旧首都のラゴスから東北チャド湖に近い都市マイドゥグリまで、当時は鉄道で3泊4日の旅だった。さすがに3泊4日もできなかったが、途中までの小旅行に鉄道を使って出かけたこともある。その時に、筆者はナイジェリア国鉄の未来計画を立てた――。

 ナイジェリアの地図を見てほしい。広大な国土を持っている。

  1. ナイジェリア国土を周回する路線はどうだろう。特にラゴスと東部をつなぐ鉄道はナイジェリアの多民族国家にとって大切ではないだろうか。※実現していない
  2. ラゴスの外周を回る山手線のような市街電車。当時ラゴスは(きっと今も)最悪の渋滞に悩まされていて、毎日の通勤が2時間以上の人もざらだった。※実現していない
  3. 地中海からギニア湾までの西アフリカ南北鉄道の計画と、ナイジェリアからアフリカ・東海岸のケニアまでの横断鉄道ができれば、人と物資の動きが大きく変わるだろう※現在、リビアの政治姿勢が変わったのであり得ると思う

 これらの未来計画を英語で書きあげた筆者は、商社の仕事で知り合った国鉄の技師長に提出した。当時、国鉄からはお礼のコメントの手紙をもらったが、肝心の提案書も国鉄からのコメントも保存していない。まだアイデアマラソンを開始していなかったことから、ノートも残っていない。残念なことだ。

30年後を夢見た――サウジアラビア時代

 続いては8年半滞在したサウジアラビア。国家計画は米国の巨大コンサルタント会社が中心となって策定していた。そんな中、筆者は勝手にサウジアラビアの30年計画を立案したのだった。「1980年から2010年」という壮大な計画だったが、よく考えれば来年で2010年ではないか! 筆者はこの計画書を知り合いのサウジアラビア商務省次官に渡した。主な中身は、

  1. 2010年には原油価格が1バレル100ドルを超す。※2008年にこの予測が前倒しで当たった
  2. ティグリス・ユーフラテス川とナイル川からの淡水パイプライン。※実現していない
  3. ホルムズ海峡、エルデブマンデブ海峡の海底トンネル。※まったく見込みなし
  4. クウェートからサウジアラビアを経由して、UAE(アラブ首長国連邦)からオマーンまでの鉄道。※ようやく計画が始まった
  5. サウジアラビアの砂漠に雨を人工的に降らすこと。※実現していない

 30年計画を立てた時は自分でも眉に唾を付けたものだったが、結果として原油価格などは当たっている(?)ではないか。

首相に直談判――ネパール

 ネパール最大の問題は道路。山また山の大盆地である首都カトマンドゥから南のテライという平原に出る道路が、山と川に沿ってくねくねと走っていて、雨季には土砂崩れで数カ月間も通行できなくなることだ。この問題はしかし、カトマンドゥから南の山中にトンネルを掘れば一気に解決する。筆者が立てた計画は、

  1. カトマンドゥから南に10キロ程度のトンネルを3本掘る※実現見込みまったくなし
  2. トンネル内部は鉄道と道路が並走。試算では現在5時間近くかかっているカトマンドゥまでの時間が40分足らずに※実現見込みまったくなし
  3. 南の平原に新首都を建設。カトマンドゥを観光と遺跡の都市にする※実現見込みまったくなし
  4. 南の平原に空港を建設し、東アジアと中近東のハブとする※実現見込みまったくなし

 このような計画の図面まで作って、ネパールの首相に直談判したこともある。当時の首相は、トンネルに関しては「資金と技術があればぜひとも実現したい」と乗り気だった。まあ、資金が一番の問題だったりするのだが。

 相手にたとえ無視されても、計画マンの筆者は断固として提出を図った。どんなに大きなコンサルタント会社でも、計画を実際に作るのは、結局そのコンサルタント会社の社員、つまり個人であり、個人の発想力では負けないと自信があったからだ。

今回の教訓

 ベトナムは次回――。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら


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