そもそもなんで手帳なの?2009手帳特集“超”入門編

2009年も手帳を購入する時期になりました。今年は『手帳進化論』『システム手帳新入門!』などを書いた舘神さんにナビゲートしてもらいます。それでは2009年手帳特集の始まりです!

» 2009年11月05日 14時30分 公開
[舘神龍彦,Business Media 誠]

 ここ数年、手帳ブームになっている。毎年秋になるとビジネス雑誌はこぞって特集を組む。誠 Biz.IDでも手帳の注目度は高いようで、検索キーワードのトップを占め続けている。有名人プロデュースの各種手帳も話題だ。学者や経営者、評論家、クリエイターなどが手がけた手帳は必ず話題になり、手帳を製作・発売する有名人は増えるばかりだ。

銀座・伊東屋本店の手帳売り場。今年は判型の大きなサイズが売れているという

 さて、ではなぜ手帳なのだろうか。

 PCやWebスケジューラー、スマートフォン携帯電話など、スケジュール管理に利用できるツールはほかにもいろいろある。これらはデジタルであることで、データの検索や蓄積、それにファイルへのリンクなどの機能を持っている。これらデジタルのメリットを捨ててまで、アナログで手書き手帳にこだわらなければならない理由は何なのか。

 今回の特集では、これから手帳を初めて手にとる人や手帳に挫折してしまった人を対象に手帳の使いこなしを考える。主に仕事用ツールとしての機能から、そしてPCなどのデジタルツールとの比較も織り交ぜつつ考えていきたい。

 キーワードは「手軽さ」「時系列の記録」「一覧性」――である。

手軽な記録メディア

 まず手軽さだ。

 最初に思いつくのは、手帳が最も手軽な記録手段ということだ。メモ帳やノートなどもそうだが、手帳なら取り出して開けばすぐに記入できる。PCのように起動を待ったり、スマートフォンや携帯電話のように何らかの機能を起動させる必要もない。

 ペンで書いた字は、PCでのファイルのような検索性とは無縁だ。だがテキストファイルや単なるWordのファイルにはないような、情報としてのリッチさを持っている。筆致の勢いであったり、追記したときのペンの色の違いといったアナログな情報は、特定のフォントで並ぶ文字列より雄弁だ。それは書いたときの状況や気持ちを呼び起こさせるトリガーを細部に宿していると言える。

 手帳は、

  • a:長期間の予定の一覧性があり
  • b:持ってさえいればいつでも見られる

 のが特徴だ。一方、PCや携帯電話は上記のaまたはbのどちらかしか備えていない。OutlookのようなPIMソフト(または「Googleカレンダー」のようなWebスケジューラー)は表示期間を切り替えることで長期予定の一覧性を確保しているが、起動に時間がかかる。また持ち運びには適していない。携帯できるモバイルPCであっても、起動時間の問題は残る。

 携帯電話は電源が入っている状態が普通なので、bのいつでも見られるという特徴は満たしている。だが液晶画面は大きさに制約があり、長期間の予定を一覧するのに向かない。

 スマートフォンは起動時間の問題も、液晶画面のサイズの問題もクリアしているが、後述するセキュリティポリシーのような問題の解決策とはなりえない。

時系列と一覧性

こちらは東京・丸善本店。手帳関連の小物売り場

 次に時系列の記録であること。

 PCには時計が内蔵されており、そこに保存されるファイルは必ずタイムスタンプ(保存時、更新時)の情報を持っている。手帳はこれをもっと原始的かつおおざっぱに、しかしながら先取りした形で実現している。それがページごと、記入欄ごとの日付だ。

 手帳を開いて11月4日の欄に書かれているのは、その日の予定やその日に起こったことのはずだ。そして紙のノートの形で1年間の蓄積を見ることができるのが手帳なのである。手帳の本質は、メモや予定が時系列に並び、紙の形でぱらぱらとめくることができるその点にもある。

 そして、一覧性だ。

 手帳は見開きの1カ月、1週間などの単位でスケジュールを一覧できる。携帯電話などの端末は画面が(昔に比べて大きくなったとはいえ)小さい。その日の予定を確認するには十分かもしれないが、1週間、1カ月といった長期間をながめてスケジューリングを決めるという一覧性はないのだ。

 PCならば、OutlookやWebスケジューラーで簡単に一覧できるかもしれない。ただ必ずしもPCをすぐに開けるかどうかは不安だ。情報漏えいの危険性からPCの持ち出しを禁止している会社も増えている。個人のPCであっても一般的なPCの場合、起動にそれなりの時間がかかるのが普通だ。そういう意味でも、すぐに一覧できるという点は手帳に軍配があがりそうだ。

主体性のあるスケジュール管理に

 手帳が注目を集めているのは、以上のようなアドバンテージだけではない。

 2003年の個人情報保護法制定以降、企業では情報漏えいへの対策を行なうようになった。その結果、個人のノートPCやPDA、場合によってはカメラ付き携帯電話などが特定の領域や客先に持ち込むことができなくなったケースも多い。

 もちろん手帳も落としたりすることはある。だが記載された情報は、デジタルな情報ではないので、コピーして大量に複製することが難しい。機密情報などの情報の取り扱いという意味では手帳だって配慮すべきだが、大量にコピーして犯罪に利用され得るデジタル端末とは別に手帳がスケジュール管理ツールとしても見直されることになっているのだ。

 もう1つメリットを挙げておこう。

 取材先のある経営者がこんなことを言っていた。「グループウェアだと勝手に会議の予定を入れられて予定が狂っちゃうことがあるんだよ」

 これはありがちなことだ。会社にとって経営者は貴重な人的リソースであり、その“利用予定”をグループウェア上でフィックスできるのはとても効率がよい。だがそもそも自分の予定は自分で決めるのが、たとえ経営者といえど望ましい状態ではないだろうか。

 デジタルではなくそれゆえ共有されておらず、しかも仕事のツールである手帳は、自らの予定を自らが決定し記入できるのだ。グループウェア上のデータをマスターにするのもやり方だが、手帳の予定をマスターにすることで、グループウェアにしばられない主体的な時間管理ができる――かもしれない。

著者紹介 舘神龍彦(たてがみ・たつひこ)

 アスキー勤務を経て独立。手帳やPCに関する豊富な知識を生かし、執筆・講演活動を行う。手帳オフ会や「手帳の学校」も主宰。主な著書に『手帳進化論』(PHP研究所)『くらべて選ぶ手帳の図鑑』(えい出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『システム手帳の極意』(技術評論社)『パソコンでムダに忙しくならない50の方法』(岩波書店)など。


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