「数を打っても当たらない」ひな型メールの弊害とはアラフォー起業家の“継続拡大”人脈術

横のつながりのあるコミュニティで、誰でもいいからとひな型メールを送り続けると自分の価値も下がってしまう。できる限りの“合理化”が逆効果になってしまうことも多いのだ。

» 2009年11月11日 12時38分 公開
[加藤恭子,Business Media 誠]

 先日、見ず知らずの人から「ご講演をお願いできないでしょうか?」というメールが送られてきた。文面は丁寧なのだが、名前だけを入れ替えて大量送信をしているひな型メールであると推測できた。講演料などの条件も合わない上に、その人のことをネットで検索してみると、お受けしないほうが良いと思われ、丁寧にお断りをした。その後、同じ依頼が知人のところにも行ったといううわさを小耳に挟んだ。もちろんその知人も、依頼者とは会ったことがないという。

 結局のところ、ITに関わる人たちのコミュニティは比較的狭いので、その手の情報はすぐに広まってしまう。相手のことも調べずに、ひな型メールを大量送信しては、かえって自分の評価が下がってしまい、人脈作りにはマイナスに働いてしまう。

 10年以上前の話だが、「今度○○のコンサートに一緒に行きませんか? チケットがあります」とメールを使って、片っ端から女性を誘っていたある男性を思い出した。「私も誘われたよ!」と給湯室や女子トイレの雑談で彼は有名となっており、「あの人は一緒にコンサートに行ってくれれば、結局は誰でもいいんだよね」という人だと思われてしまっていた。その男性にしてみれば、コンサートの開催日が近づき、焦っていて、片っ端からひな型メールで女性を誘ったのかもしれないが、それが逆効果になってしまい、皆からのお断りにつながってしまったようだった。

 話を講演に戻すと、最終的にこの講演は、その依頼メールを受けたある人がすることになったのだが、その人も適任の講師とはいえない感じで結局は集客ができず、講演自体が中止になったということをTwitterで知ることとなった。その人にたどりつく前に、きちんとターゲットを絞って丁寧に依頼をしていたら、結果は違ったかもしれない。

 横のつながりのあるコミュニティで、誰でもいいからとひな型メールを送り続けると自分の価値も下がってしまう。

 もし、知らない相手に講演を依頼するのなら、簡単なメールで打診した後に、実際に会ってみてお互いに疑問点を解消して――というほうが望ましいし、そもそも事前のコミュニケーションがひな型メールだけでは厳しい。実際に何度か会えば、その人との「人脈」作りにも効いてくる。最初から、あなたの取り分と私の取り分や、キャンセルになるときの条件などを機械的に送っては、相手は講演する気持ちにもならないのではないだろうか。

 一度のメールだけで講演者を見つけたい、手っ取り早く効率よく手間をかけずに講演料を稼ぎたい――という理屈は分かるが、ひな型メールだけでは気持ちは伝わらず、かえって今後のビジネスに不利に働く可能性が高い。できる限りの“合理化”も結構だが、合理化を進めるにしても人間の「気持ち」「礼儀」「丁寧さ」など「感情」に関わってくる大事な部分まで省略しないようにしたいものだ。

著者紹介:加藤恭子(かとう・きょうこ)

 IT誌の記者・編集者を経て、米国ナスダック上場IT企業の日本法人にてマーケティング・広報の責任者を歴任。外資系企業ならではの本社へのリポートの方法や、離れた地域にいる国籍の違う同僚とのコミュニケーションを通じて、効率よく実施する仕事のノウハウを高める。現在は、その経験を生かし、IT企業・組込み系システム企業のマーケティング・PR(広報)のコンサルティングを行うビーコミの代表取締役として活動。日本PR協会認定PRプランナー。

 日経BP社、翔泳社、アイティメディア、ダイヤモンド社、アスキーなどで連載や記事も寄稿。インターネットを活用したコミュニケーションも研究しており、複数の学会などでブログコミュニケーションやネットPRに関する発表をしているほか、「CGMマーケティング」(伊地知晋一著、ソフトバンククリエイティブ刊)の編集協力も務めた。青山学院大学国際政治経済学研究科修士課程修了。現在は某大学院の博士課程に在籍し、引き続きコミュニケーションを勉強中。


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