「斬新なアイデア」はなぜつぶされるのか――整えたい2つの環境最強フレームワーカーへの道

日本は基本的に減点主義的だ。「何でも良いから面白いことやれ!」という風土ではない。面白いアイデアが浮かんだときに、それを実現するための環境をきちんと整えよう。

» 2010年02月23日 11時00分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]

 さる2月19日に「ASP・SaaS・ICTアウトソーシングアワード2010」という、いささか舌を噛みそうな名前のイベントがあり、うちの会社がエントリーしていた「ナビキャスト フォームアシスト」という入力フォームの離脱防止サービスが、「Application分野・支援業務系」のグランプリを受賞した。

 この賞は、業務をサポートしたり、情報提供を行ったりするASP・Webサービスのうち、独自性や事業性、社会への貢献などを判断して、優秀なサービスに贈られるものである。

 受賞したナビキャスト フォームアシストの特徴は「逆転の発想」。通常はWebサイトに来る客を増やす(=集客)ことに一番の重きを置く。しかし、うちがフォーカスしているのは「商品を買ってくれそうだったのに、最後の最後でなぜか買わなかった客」だ。この途中離脱の客を逃さないために、買わなかった理由、原因を見つけ出し、カイゼンし、成約率(コンバージョン率)を高めるというニッチなサービスなのだ。

例えば、メールアドレスフォームに入力した文字を自動で半角に変換したり、文字郵便番号を途中まで入力すると住所の候補一覧を表示したりすることで、最後の入力フォームの段階での離脱を防ぐ

 と、ここまで書くと何やら自慢めいた話のようだが、本質はそこではない。うちも含めて137社が応募し、授賞式に集まった、非常にユニークで独自のASPを展開する事業者を見るにつけ、日本も負けてはいないな、もっと頑張れるな、と思ったのだ。

 Google、Twitter、YouTube……と世界標準となるWebサービスの多くは米国生まれである。しかし、優秀な技術者を誇る日本がもっと頑張れないはずはない。自動車や電機メーカーの世界進出を見れば、むしろ国産ASPがもっと世界に羽ばたいていてしかるべきだ。

 しかし、実際に現在はそうはなってはいないわけで、だからこそチャンスが残されているともいえる。今日の本題は、日本発の面白いテクノロジーが、もっと世界標準で使われるようになってほしいという希望を込めて、「新しいアイデアを実現する環境づくり」について考えてみたい。

 わたしが思うに、会社のさまざまなシガラミを超えてアイデアを実現するには、外的環境と内的環境の2つを整備する必要がある。

 外的環境は、面白いけれど実現性に乏しいアイデアを、周囲がつぶさないこと。

 日本は基本的に減点主義的だ。「何でも良いから面白いことやれ!」という風土よりは「失敗しないように」「皆と歩調をそろえて」という面を重視しがち。そうなると、面白いアイデアが頭に浮かんでも、「バカバカしい」「実現できっこない」「笑われる」などと自己完結してしまい、アイデアはどこかへ消えうせてしまう。

 ブレインストーミングを行う際の事前の約束事を思い出そう。「絶対に他人のアイデアを否定しないこと」。この約束を知っている人は多いが、実際には経験豊かな人ほど、わけ知り顔で「面白いけど、こういう理由で実現性に乏しい」とうまくいかない理由ばかりをピックアップする。組織のトップやリーダーは、こういう輩をのさばらせてはいけない。プロというのは「こういう理由でうまくいかない」ではなく、「実現させるためにこうすべき」に頭を振り絞るものだ。

 もう一方の内的環境は、アイデア発案者自身もビジネスプランニングを修練することだ。

 日本は、学校や社会人の初等教育で事業計画(ビジネスプラン)の作り方や、投資家への説明手順、資本政策などを学ぶ機会がほとんどない。米国では、MBAはもちろん、多くの学生が自分のアイデアを実現するための事業計画を作り、投資家たちにプレゼンテーションを行うことを考えれば、日本はまだまだノウハウ取得や実践の機会が少なすぎる。

 かくいうわたしも会社を始めた後で、まともな事業計画や資本政索を考えるようになった口だ。何しろ経験もなければ学ぶ機会もなかったため、大変苦労した。学生時代に、あるいは社会に出て働き始めたもっと早い段階で、こうしたビジネスを行うためのノウハウを学ぶ機会があったら、どんなによかったことかと思う。

 この外的環境と内的環境の整備は、革新的なアイデアによって日本の産業を活気づけるための重要なアプローチだ。利益とリスク管理しか頭にないタイプの人は、大胆な発想を許容する勇気を持つべきだし、アイデアを持った起業家は、その大事なアイデアが世間の厳しい目にさらされても信念がブレないように、事業性を説明できるクールな視点を持つべきなのだ。

 面白いアイデア、独創的なサービスや商品は、創業者や企業に利益をもたらすだけでなく、社会を変えるというとてつもなく大きな知的興奮をもたらすだろう。Apple、Googleなどのイノベーターは莫大な利益を生み出しているが、一方で洗練されたアイデアを実現し、世界を変えている。

 わたしは、スティーブ・ジョブズがかつて、ペプシ(米PepsiCo)の幹部ジョン・スカリーをAppleのCEOに引き抜くときに言い放った誘い文句が大好きである。

 「残りの人生も砂糖水を売ることに費やしたいか、それとも世界を変えるチャンスが欲しいか?」

 もちろん、答えは「世界を変えたい」だ。

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

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 知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。

 リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。

 近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。

連絡先: nagata@showcase-tv.com

Webサイト: www.showcase-tv.com

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