フランクリン・プランナー・ジャパンに聞く「人生が変わる手帳の使い方」元祖成功手帳!?

1990年代に日本に登場した手帳『フランクリン・プランナー』。「優先項目」「ミッションステートメント」など独自のスタイルが注目を集めた。今回は、このフランクリン・プランナーを販売するフランクリン・プランナー・ジャパンに取材した。ナカバヤシグループの一員になったことのシナジー効果や今後の展開どうなるのだろうか。

» 2010年11月25日 11時00分 公開
[舘神龍彦,Business Media 誠]
フランクリン・プランナー・ジャパンの赤荻さん

 1990年代に日本に登場した手帳『フランクリン・プランナー』は、バインダー式のシステム手帳の中に「優先項目」「ミッションステートメント」などの独自の記入項目を持つスタイルは、それ以前の手帳にはなかったものとして注目を集めた。

 今回は、このフランクリン・プランナーを販売するフランクリン・プランナー・ジャパンに取材。日本上陸から現在の展開、そしてナカバヤシグループの一員になったことのシナジー効果や今後の展望を、同社の赤荻聡氏(プランナーデパートメントチャネル・デベロップメントチームマネージャー)に聞いた。

知る人ぞ知る手帳――研修プログラムの教材

元々は研修用の手帳だったが
スタンダードなバインダータイプ。見開きに1日の予定を書き込む

 フランクリン・プランナーは、今でこそ夢を実現するための手帳としてその名が浸透しており、文具店や書店などで普通に売られている。だが以前は今とは少し違ったものだったという。

 「最初は、企業研修用プログラムの教材の1つだったのです」(赤荻氏)。フランクリン・プランナーと言えば、フランクリン・コヴィーだ。『7つの習慣』などでも有名なフランクリン・コヴィーではマネジメント層向けの研修を行っている。フランクリン・プランナーはこうした研修の教材だったのである。

 従って、当初手帳としては一般には販売していなかった。それでも手帳を生産し続けたのは、1年ごとに必要となる消耗品だからだ。研修時に渡した手帳は1年たつと使い終わる。そこでリピートがかかるというわけだ。研修を受けた人だけが使い続ける、まさに知る人ぞ知る手帳だったのである。

 それが変わったのは、手帳だけを売ってほしいという声が大きくなったためだ。1990年代後半から、フランクリン・プランナーは紀伊國屋アドホック、ロフトなどでの扱いが始まった。

 手引き書も登場した。2002年の書籍『人生は手帳で変わる』最新版)がそれだ。この書籍は、当時使い方が単体では分からなかった、フランクリン・プランナーの格好のマニュアルとなった。同書は書店よりも文具店で売れたそうだ。独自のコンセプトをこれは「マニュアルがあるから大丈夫」という安心感が原因なのだろう。

 また、タイトルもインパクトがあった。フランクリン・プランナーのユーザーならばよく知っているように、この手帳は単なる時間管理ではない。後述するように、より上位の考え方である人生のミッションを実現するための道具として作られている。そしてそれを表現したのが同書のタイトル『人生は〜』というわけだ。

 もっともそういう考え方は、フランクリン・プランナーの知名度がまだ低かった登場当初は、かなりインパクトがあったようだ。赤荻氏はこんなエピソードをおぼえているという。それは文具店の店頭でのことだった。赤荻氏がフランクリン・プランナーや書籍の陳列を確認すべく店頭を見ていると、1人の若者のびっくりしたような声が聞こえた。「ええー、人生が変わる手帳だってよ!」

 これは登場当初のフランクリン・プランナーがいかに大きなインパクトをもって受け入れられたかが分かるエピソードではないだろうか。「手帳は、あくまでスケジュールを管理するもの」というイメージしか持っていなかったその若者にとって、「手帳」=「人生を変えるもの」という響きは驚きに値したのであろう。

 ちなみに同書は、現在3回目の改訂版に向けて制作が進んでいるという。

夢実現は第三世代

 夢を実現する、成功する手帳の先駆として語られることも多いフランクリン・プランナーだが、赤荻氏によるとそれは一種の誤解だという。「いわゆる成功をするとか年収が上がるというのは、夢の実現かもしれません。でもそれは、わたしたちの考えでは第三世代の手帳なんです」

 フランクリン・プランナーでは、手帳をその役割ごとに世代で定義している。それは次のようになる。

  • 第一世代:メモ帳によるチェックリスト。やることを忘れないためのツール
  • 第二世代:手帳で時間を管理する。スケジュールを記入する
  • 第三世代:目標管理。目標を設定しそれを月、週、日それぞれのステップに分解して実現を目指す。
  • 第四世代:自らの考える価値観を明確化し、その実現のためのツールとして使う。

 ――つまり「夢の実現」は、第三世代だという。「フランクリン・プランナーが考える第四世代は、価値観やミッションの実現をその機能としています」

 “価値観”や“ミッション”というキーワードを理解するためには、これを会社の社是/社訓と置き換えてみればいいだろう。会社にとっての価値観を具現化したものが社是社訓だが、これを個人の人生に置き換えて考えたものが価値観やミッションとなる。そしてこれを実現するのが第四世代手帳であるフランクリン・プランナーというわけだ。

 夢というと、とかく他人へのあこがれや物的欲求に終始しがちだ。そしてそれは具体的な数値目標の達成や、その結果としての商品の購入になるのだろう。その段階=第三段階ではなく、より上位の概念であるミッションの実現。そのためのツールが、フランクリン・プランナーである。夢ではなく価値観の実現というキーワードは、フランクリン・プランナーという手帳をきちんと理解する上で無視できないものだろう。

 フランクリン・プランナーにはこのように独自のキーワードがいろいろある。またそれゆえ、上記のような手引き書があっても「使いこなしが難しい」「成果の実感が得られない」という声が寄せられることもあるという。

 だがそこまで難しく考えなくてもいいのだ。「2割(の使いこなしで)で8割の成果が出ていればいい」と赤荻氏。要するに、すべてを使いこなそうとするのではなく、使っている効果を実感するところから徐々に使いこなしていけばいいのだ。


赤荻さんの手帳。ToDoがたくさん書いてある日もあれば、そうでない日もある。「2割(の使いこなしで)で8割の成果が出ていればいい」

綴じ手帳“オーガナイザー”も登場

時間管理コンテンツのベース、スターター・パック(システム手帳タイプ)
こちらはオーガナイザー。ウィークリータイプが新鮮だ

 発売当初はバインダー型のみであったこともあり、バインダー型の印象が強いフランクリン・プランナーだが、ここ数年は綴じ手帳タイプも発売している。それが一連の『オーガナイザー』シリーズだ。2007年にはA5版、B6版を発売。今年はB6のウィークリー版を2種類発売している。それが『フランクリン・プランナー オーガナイザー』『フランクリン・プランナー オーガナイザー「7つの習慣」』だ。

 「最初に綴じ手帳タイプを発売したのは2003年です。それまでのユーザーからは、バインダー型の利便性を評価する声と同時に、面倒さも指摘されていました」

 バインダー型の手帳はリフィルを組み合わせる楽しさや便利さがあるが、綴じ手帳にはないリフィルの入れ替のわずらわしさもある。「そこでポケットに入るものがほしいという要望があり、ドレスシャツのポケットサイズのものを2003年に出しました」。これが現在の綴じ手帳タイプにつながっている。

 綴じ手帳は「“フランクリン”は使いたいけれど重いものは使いたくない」ユーザーを想定したが、実際にはバインダー型を使っているユーザーが併用する例が多かったという。そういう意味では、オーガナイザーは必ずしもエントリーモデルというわけでもなさそうだ。

 また重視しているポイントも違う。バインダー型がフルセットだとすると『オーガナイザー』は時間管理を、『7つの習慣』は同名の書籍のエッセンスを、それぞれ重視したものだ。とくに後者はバインダー型で定番の『7つの習慣』リフィルを綴じ手帳化したものだという。

ナカバヤシとのシナジー効果を期待

 さて、フランクリン・プランナーのユーザーであれば気になる話題がもう1つあるはずだ。フランクリン・コヴィー・ジャパンが2010年5月に、老舗文具メーカーであるナカバヤシにフランクリン・プランナー事業を譲渡したことだ。詳細はこちらの記事をご覧いただくとして、赤荻氏はこんな話をしている。

 「ナカバヤシには、フランクリン・コヴィーにはない、法人向けの販売チャンネルがあります。ここに対して提案をしていきたいと考えています」。ナカバヤシには法人向けに培った、名入れやオンデマンドなどの技術がある。これとフランクリン・プランナーのコンテンツや手帳とのシナジー効果もこれから期待できる方向性といえるだろう。

 日本で作る利点も生かすという。例えば、バインダー型用の月間リフィルだ。このリフィルは、PP(ポリプロピレン)素材の両面に紙を貼って作った。月間タイプはバインダーにとどまる期間が長く、補強する必要性が高い。「この作りなら、それまでにあった(補強用)パッチが不要になるんです」

 本国アメリカでは、法人を中心として数百万人のユーザーを擁するフランクリン・プランナー。このコンセプトの進化と、日本メーカーの製造技術や市場に関するノウハウとのシナジー効果で新たな製品が生まれてくるかもしれない。

著者紹介 舘神龍彦(たてがみ・たつひこ)

 アスキー勤務を経て独立。手帳やPCに関する豊富な知識を生かし、執筆・講演活動を行う。手帳オフ会や「手帳の学校」も主宰。主な著書に『手帳進化論』(PHP研究所)『くらべて選ぶ手帳の図鑑』(えい出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『システム手帳の極意』(技術評論社)『パソコンでムダに忙しくならない50の方法』(岩波書店)など。


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