「いつの時代にもぶら下がり社員はいたではないか」と思う人もいるだろう。
確かにそのとおりで、昔からぶら下がり社員はいた。
会社に来てもまじめに仕事をせずにぐうたら過ごし、遊びには熱心で、17時になるとさっさと遊びに行くような、『釣りバカ日誌』のハマちゃんのようなタイプである。
今まではこういうタイプは50歳を過ぎ定年退職が近くなった社員に多く見られた。何十年も働いてそれなりに成果を出してから部下に丸投げして楽をしているのか、ポストに恵まれないまま会社人生を終えそうなので腐っているのか、どちらかだろう。いずれにせよ、少数派だったので会社側も目をつむっていられた。
本書の対象となる新・ぶら下がり社員は、ハマちゃんのようなやんちゃなタイプに比べればおとなしく、まじめである。上司にとっては扱いやすいありがたい部下でもあるだろう。そこに落とし穴がある。
新・ぶら下がり社員は、次のような問題点を抱えている。
繰り返すが、新・ぶら下がり社員はいいかげんではなく、むしろまじめである。
与えられた仕事はきちんとこなすし、遅刻やサボリもなく、残業も必要であればする。上司の言うことは素直に受け入れ、逆らったりはしない。一見、従順な社員である。
この与えられた仕事はこなすというのが厄介なのである。
例えば営業担当に「今月は先月より新規顧客を5件増やせ」と指示を出したら、その指示を従順に受け入れ、新規顧客を増やそうと行動し始める。
問題は、言わない限り動かないという点である。自分から仕事を増やそうとも、仕事のハードルを上げようともしない。新しい提案などはまったくしない。いつまでたっても受身のままである。
しかも最短距離で達成する方法を選び、困難な方法は避けて通る。リスクやトラブルを避けるのは賢い選択のように思えるが、成長が止まり、思考も止まる。自分の頭で考えられない社員になっていくのである。
これは、そこそこできていればいいと70%の力しか出さないから起きる現象である。頑張っても頑張らなくても給料は同じなら、そんなに頑張らなくてもいいだろうと、30%分の力を出し惜しみする。決して仕事の能力がないわけではなく、むしろ能力はあるのに押さえ込んでいる場合が多い。
あきらかに仕事の手を抜いているのなら注意しやすいが、そつなくこなしている場合、育成する側も困るだろう。
新・ぶら下がり社員は、冒頭のAさんのように現状維持を望んでいる。
つまり昇進(上)を目指すわけではなく、転職(横)をするわけでもない。
昇進すれば仕事も増え、責任も重くなる。いままでは、ステップアップにやりがいを感じ、いつまでも部下としてマネジメントされるのではなく、マネジメントする側に回りたいと考えるのが自然な流れだった。
それをやりがいではなく、重荷に感じるのが新・ぶら下がり社員である。人を育成するのは面倒、責任を取るのは嫌だとネガティブにしかとらえない。昇進を約束しても、拒否する可能性もある。
そして今の職場に満足はしていなくても、転職もしない。この不景気では社員を募集している企業も少なく、転職できても今より悪い待遇になる恐れもある。リスクを冒したくないから今の会社にとどまっているという消極的な理由なのである。
残業や休日出勤を嫌がり、上司が頼んでもきっぱりと断る人がいる。残業代や休日出勤手当てを満足に出せないのなら嫌がられても仕方ないとは思うが、支払われるのに嫌がるのは、自分の時間を持ちたいのが理由だろう。仕事に熱意を注げないから、プライベートに入れ込むのである。
最近は、総合商社に勤務している人の中でも、海外への転勤を断る社員がいるという話をよく聞く。これでは何のために総合商社を選んだのか分からない。家庭を持ち保守的になっているのかもしれないが、仕事でのチャンスを逃すのを惜しいと思わないのは、仕事にそれほど生きがいを感じていないのだと考えられる。
次回以降は、新・ぶら下がり社員とどう向き合い、課題を解決していくかを探っていく。
株式会社シェイク代表取締役社長。大阪大学基礎工学部卒業後、住友商事株式会社に入社。通信・放送局向けコンサルティング、設備機器の輸入販売を担当。新事業の立ち上げなどにもかかわる。2003年、創業者森田英一の想いに共感し、株式会社シェイクに入社。営業統括責任者として、大手企業を中心に営業を展開する。2009年9月より現職。
現在は、代表取締役として経営に携わるとともに、新入社員からマネジャー育成プログラムまで、ファシリテーターとして幅広く活躍する。ファシリテートは年間100回を数え、育成に携わった人数は6000人に上る
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.