プレゼンの構想図を描いてみる――「図解プロット」で上司に新規事業を提案するプレゼンがうまい人の「図解思考」の技術

プレゼンのアウトラインを固めるために必要なのは、まず構想図を完成させること。今回のお題は「新規事業の提案」です。一緒に考えて見ましょう。

» 2011年05月24日 10時10分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]

 プレゼンのアウトラインを固めるために必要なのは、まず構想図を完成させること。これがないと、メッセージがブレブレになってしまいます。今回も前回と同様に、構想図のテンプレートを読者の皆さんと一緒に埋めながら、問題解決に挑戦してみたいと思います。今回のお題は「新規事業の提案」です。

 「現実」「理想」「提案」という三大要素(真ん中の四角いブロックの部分)をまず埋め、その詳細情報を枝分かれしたトピックの中に書き込んでいきます。

苦戦する老舗アパレル店のネットショップ、どうやって提案する?

 さて、今回のお題である「新規事業の提案」。私の会社では毎年、新人も含めて全員に新規事業の提案を行なわせています。その中の1つを次年度に事業として実際にスタートさせているのです。

 今回皆さんと考えたいシチュエーションはこんな感じ――。あなたは老舗アパレル会社の新規事情開発室のメンバーです。地元を中心に、品質の高さがウリで一時は大変な人気でしたが、最近は問屋経由で販売しているリアル店舗の売上が激減。昨年は前年度比で売上が半減し、とうとう赤字に転落してしまいました。

 経営陣も、このところの売上の落ち込み、流通業界全体の景気低迷を憂慮し、新たな突破口を見出す重要性は認識していますが、いまだ具体的なアクションに至っていません。そこであなたは、すべてのアイテムをネット通販で購入できるWebサイトを経営陣に提言します。

 あなたは、小売業においてネットを使った新規事業の事例をたくさん見ており、ここで決断しなければ後がないと判断しました。あなたはどのような提案を行ないますか? プロットを描いてみましょう。

 まずは、現実、理想、提案という三大要素の関係図をつくります。

「現実」「理想」「提案」という三大要素の関係図

 リアル店舗での売上減少と利益率の低下という現在の問題を、ネット通販の売上によって解消しようという提案です。提案の骨格は非常にシンプルですが、具体性はどうでしょうか?

現実と理想をドリルダウン

 次に現実のドリルダウンです。

 実店舗での売上が減少しているということですが、具体的にどの程度でしょうか? 調べた結果、前年比で5割ダウンでした。う〜ん、深刻。

 問屋や店舗の販売担当などにヒアリングした結果、特に地元では高価格帯の商品を買う顧客が激減したとか。首都圏では、それほど変化はないようですが、この会社は地元中心の店舗で販売されているため、影響が顕著だとか。粗利益率は調べたところ、この会社では問屋への卸値は定価の45%です。一方、商品原価は定価の30%ですから、この販売経路での粗利は15%しかありません。すなわち、実店舗流通の最大の問題点は、問屋経由だとなかなか儲からないという点につきます。

 売上が半減し、粗利が15%では本社機能など固定費がまかなえずに赤字に転落したということですから、これを元に戻すには、売上を倍増するか、粗利益率の高い商品あるいは販売チャネルでの売上を増やすほかありません。

「現実」に起こっている問題のドリルダウン

 「限られたエリアで問屋経由での販売」というビジネスモデルにそもそもの原因があるようです。提案では、そのあたりを解消するような内容を入れなければなりません。

 そして、理想のドリルダウン。

 通常は、現実の問題が解消された状態が理想になるはずです。安定した売上拡大と高い利益率という状態を理想としていますが、目標の達成度合いを測れるようにかならず数値で目標をたてる癖をつけましょう。

「理想」の姿を再確認。理想のゴールは数字で明記し、達成度合いを検証できるようにしておく。

提案内容は提供機能と実現方法を考える

 「現実」と「理想」のドリルダウンが完了したら「提案内容」の詳細です。ネット通販サービスを構築するというのが提案の概要ですが、これを提供機能と実現方法の2つに分けて、ドリルダウンしましょう。

 まず提供機能の部分ですが、オンライン販売自体はそれほど珍しいものではありません。あなたの会社は中堅で地元以外では知られていないため、全国的な知名度にする必要がありそうです。地元で人気の商品であることをアピールし、これまで商品を知らなかった非顧客に買ってもらいましょう。品質が高いのが売りですから、100%返金保証をつけて自信のほどを表すという提案にしてみます。また、顧客の囲い込みを行なうためにポイント制も導入します。

 次に実現方法です。ここでは誰がどのようにネット通販の環境を構築し、さらにそれをどう運用していくのか、という点がポイントです。もちろん、それに必要なコストがいくらかかり、どのタイミングでサービスを始められるのか、ヒト(体制)、モノ(サイト)、カネ(予算)、時期などの視点で詳細をつめていきます。

提案内容のドリルダウン

 効果と実現性が提案内容の評価ポイント。この場合は、返金保証やポイント還元などによる会員の満足度アップを基軸に、サイト構築に必要な人(運営体制)、金(予算)、時間(スケジュール)などの詳細情報を付け加えます。

 こうして、できあがったのが以下の図解プロット(構想図)です。

 全体を見渡しながら、提案内容は現実的か? ほんとうに現実と理想のギャップを埋める可能性を持っているか? 現実の問題や理想の状態は数字などを使い、具体的かをチェックします。

 提案内容を考える際には、既存サービスや従来のアイデアとどこが違うのか、差別化のポイントが問われます。アイデア創出については、別途マインドマップなどの思考ツールを使うか、ブレストなどを行い、既成概念を打ち破るアイデアを作り出しましょう。

 現実と理想のギャップは何か? その大きさはいかほどか? どうなれば目標達成といえるか? あらためて提案内容の背景にあたる部分をしっかり押さえておきましょう。提案する内容には、これまでとは一味違う、具体的かつ新しいアイデアが欲しいところ。フレームワークなどを使った効率的な発想技法も多々あるので、別の機会に紹介したいと思います。

集中連載『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』について

『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』 『プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術』(永田豊志・著、中経出版・刊、A5判/208頁、本体1500円)

 パワポの前に「図」で考える――。ベストセラー『頭がよくなる「図解思考」の技術』の第2弾となる本書は、プレゼンテーションの根幹とも言える「メッセージをどう作り、どのように伝えるのか」を図で整理する方法を解説しています。

 「見栄えのいいスライドを作ること」や「説得力のある話し方をすること」も当然大事ですが、プレゼンの目的(メッセージ)そのものが洗練されていなくては、聞き手の心には届かないからです。営業プレゼンテーションや講演に限らず、ちょっとした説明や商談、または報告などにも応用可能で、あらゆるビジネスシーンで活躍するはずです。


目次

  • 第1章:残念なプレゼンは、なぜ眠たくなるのか?…面白いプレゼンの秘密とは?
  • 第2章:考えがスッキリまとまる図解プロットの技術…自分の考えを整理する方法
  • 第3章:「合体ロボ作戦」でシナリオに磨きをかける…プレゼンの流れを作り出す
  • 第4章:魅力的なスライドラフを描いてみる…ハイクオリティなラフ描きの技術を公開
  • 第5章:図解プロットに挑戦!…実際に、考えをまとめ、シナリオを作り、ラフを描く
  • 第6章:魅力的なアイデアを作り出す10のテクニック…使えるアイデア発想法

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

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 知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。

 リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。

 近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。

連絡先: nagata@showcase-tv.com

Webサイト: www.showcase-tv.com

Twitterアカウント:@nagatameister


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