本当にその期間中だけのサービスというものも少なくないが、キャンペーン中だから何でも得かというと、けっしてそんなことはない。
毎週のように会場を変えて、
「5日間限りの……」
と銘打って、1年中同じ物を同じ値段で売っているといったケースもあれば、キャンペーン中だけの価格というのに偽りはないが、キャンペーン以外の場で契約したという人の話を聞かないというケースもある。
キャンペーンや特別セールのために、独自につくられた商品というのもある。そうした商品はキャンペーンや特別セール以外の場で売られることはないのだから、キャンペーン中の特別価格というのに偽りはない。だからといってお買い得かどうかは分からない。なにしろ通常価格などないのだから。
キャンペーン中しか売らない商品を作るにあたって、売って損をするようなキャンペーン価格をはたしてつけるだろうか。ちょっと考えれば、答えはすぐ出るはずだ。
「先着……」
「本日だけの」
「お1人様○○限り!」
「キャンペーン中だけの……」
このようなうたい文句の裏に流れるメッセージにつられないよう注意が必要だ。裏メッセージは偽りであろうと、買い手が勝手に言外の意味を汲み取るわけだから、売り手には何の罪もないことになる。
「あわてて契約を結んだけど、全然得ではないではないか」
と目くじらたててもあとのまつり。得だと勝手に思い込んでしまったのは自分なのだから、欲に目がくらんだほうが悪いということになる。
金額のはる買い物や契約にあたっては「今しかない。この機を逃したら手に入らないかもしれない」などとあわてることなく、冷静に対処したいものである。
(次回は、押しつけがましくなく押しつける「両面提示法」について)
榎本博明(えのもと・ひろあき)
心理学博士。1955年、東京生まれ。東京大学教育心理学科卒業。
東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、現在、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした企業研修・教育講演等を数多く行うとともに、自己心理学を提唱し、自己と他者を軸としたコミュニケーションについての研究を行うなど、現代社会のもっとも近いところで活躍する心理学者である。
著書に、『「上から目線」の構造』『「すみません」の国』(日経プレミアシリーズ)、『「上から目線」の扱い方』(アスコム)、『「俺は聞いてない!」と怒りだす人たち』(朝日新書)、『心理学者に学ぶ気持ちを伝えあう技術』(創元社)など多数。
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