退職者を社外ファンにする――去る人に記念イベントをしっかり:アラフォー起業家の“継続拡大”人脈術
ある会社の最終出勤日、社長がわたしを自宅まで車で送ってくれたことがあった。自分が送り出されるときを考えてみると、手厚くしてもらった経験がよみがえる一方、残業でタクシー帰宅が続いたこと、展示会で数日間立ちっぱなしで辛かったこと――など嫌な記憶は薄れている。辞めるときには会社都合と自己都合があるわけだが、いずれにせよきちんと送り出してもらえると辞めた側も気持ちがよいし、実は送り出す会社側にとっても大きなメリットがあるのだ。
以前、会社を転職する場合の心得を書いた。今回は送り出す側のこと。わたしは会社を退職したことが何度かある。外資系IT企業はたいてい3年周期くらいで会社の面子の大半が入れ替わる。製品の流行り廃りも激しく、ほかの企業からの引き抜きやリストラも頻繁(ひんぱん)に行われる業界で、専門のヘッドハンターもいる。ほかの業界や、特に日本の大企業の人にとっては感覚的に分かりづらいかもしれないが、数回の転職など当たり前のことなのだ。
ある会社の最終出勤日、社長が自宅まで車で送ってくれたことがあった。社員同士でプレゼントを買ってくれたり、花束をいただいたり、送別会を開いてくれたりなど、いろいろな体験をした。自分が送り出されるときを考えてみると、手厚くしてもらった経験がよみがえる一方、残業でタクシー帰宅が続いたこと、展示会で数日間立ちっぱなしで辛かったこと、怖いお局様に苦労したこと――の記憶は薄れている。「終わりよければすべて良し」なのだろう。
辞めるときには会社都合と自己都合があるわけだが、いずれにせよきちんと送り出してもらえると辞めた側も気持ちがよいし、実は送り出す会社側にとっても大きなメリットがあるのだ。
辞めていった人はライバル企業に入ったり、取引先などへ就職しようと面接を受けたりする。また、酒の席などで「前の会社どうだったの?」と聞かれたりもする。
会社の秘密は漏らさないという守秘義務の書類にサインをしているはずなので、積極的に秘密を漏らそうという人はいないと思うのだが、企業によっては面接官が誘導尋問でかなりの内容を聞き出したりもする。情報が漏洩しなくても、嫌な辞め方をしたり、最後に気持ちのよい「締め」(記念イベント)がなかったりすると、退職者からネガティブ情報が出回ってしまうことがあるのだ。このあたりの情報は業界が狭いので、すごい勢いで広まってしまう。
わたしが知っているある企業は、退職者に手厚い。退職者も呼んでの大きなパーティを開催したりもする。その結果、
- 退職者から企業のネガティブ情報が広まりにくい
- 取引先などに転職した退職者が引き続き外からビジネスを盛り立ててくれている
- いったん退職をした人が、次の会社でパワーアップし、再度入社している(複数)ため、採用コストや社員研修コストが圧縮できる
ということが起きている。きちんと退職時に「記念イベント」を行ったことや、退職ですべてが終わるのではなく、退職後もイベントに呼んだりすることで、退職者がファンになってくれているのだ。極端に言えば、退職した人にはもう給料は払わなくていい上、その人が外から会社を盛り立ててくれるというわけである。それは非常にありがたいし、これはまさに会社に残るものと、出て行ったものとの「継続人脈」だと思う。
「あの人、どうせ辞めちゃうから送別会はやらなくていいよ」「辞めたらもう会わないし、解雇だから花とかあげなくていいよね」「こんな忙しい時期に急に退職なんて、迷惑な人だよね。送別会出たくないなあ」なんて言っている人は、もう一度考え直したほうがいいかもしれない。
著者紹介:加藤恭子(かとう・きょうこ)
IT誌の記者・編集者を経て、米国ナスダック上場IT企業の日本法人にてマーケティング・広報の責任者を歴任。外資系企業ならではの本社へのリポートの方法や、離れた地域にいる国籍の違う同僚とのコミュニケーションを通じて、効率よく実施する仕事のノウハウを高める。現在は、その経験を生かし、IT企業・組込み系システム企業のマーケティング・PR(広報)のコンサルティングを行うビーコミの代表取締役として活動。日本PR協会認定PRプランナー。
日経BP社、翔泳社、アイティメディア、ダイヤモンド社、アスキーなどで連載や記事も寄稿。インターネットを活用したコミュニケーションも研究しており、複数の学会などでブログコミュニケーションやネットPRに関する発表をしているほか、「CGMマーケティング」(伊地知晋一著、ソフトバンククリエイティブ刊)の編集協力も務めた。青山学院大学国際政治経済学研究科修士課程修了。現在は某大学院の博士課程に在籍し、引き続きコミュニケーションを勉強中。
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