夫を早朝派にすると妻にもこんなにいいことが――ピアニスト・合唱指導者の永井千佳さん:朝シフト仕事術
朝の時間を活用すると夫婦ともにメリットが――。今回は筆者・永井孝尚さんの妻である千佳さんがいかに夫を早朝派に仕立てて、妻として夫婦としてのメリットを得たかを紹介します。
私は、高校・大学と音楽専門の学校に通っていました。入学すると、まわりは小さいころからエリート教育を受けてきたような人たちばかり。私は9歳からのスタートで、他の人より遅れていたのです。
まずは、同年代の人たちに追いつかなくてはなりませんでした。そこで、朝始発に乗って登校し、学校のレッスン室を借りてピアノの朝練習を始めました。この方法がよかったのは、1日を2回使えることでした。朝練習して、授業を受ける。そこでいったん身体と頭をリフレッシュさせ、また夕方から練習を始めると、2回分に匹敵する練習内容が可能なのです。
朝練習は私に合っていたようです。大学2年のころからは、弾きたい曲がどんどん弾けるようになり、ピアノが面白くなってきました。できなかったことができるようになる満足感。人が弾けないような曲をクリアすることで「私でもできるんだ」という気持ちが芽生え始めたのもこのころです。
ピアノを練習する時間がほしい
結婚してからは、夫の勤務先が近所だったことで、朝が遅くなりました。ピアノは続けていましたが、家事や仕事の合間を狙って防音室にこもり、あせりながら立て続けに練習することが増えたとたんの腱鞘炎(けんしょうえん)。その後3年間、本格的にピアノが弾けなくなってしまったのです。
転勤のため、夫が片道2時間弱の遠距離通勤をしていたころは、夫の帰宅に合わせて夜9時以降の食事を続けているうちに、私はだんだんと太ってきました。今より体重が8キロも多く、上り坂を歩くと息切れしてしまうほど。
さらによくないのは、夫が出勤した後、家事や雑用、買い物を済ませ、ピアノを教えていたので、生徒のレッスンを終えるとあっという間に夕方。1日がサーッとすごいスピードで終わってしまうのです。
その後、夫が遠距離通勤に耐えかねて引っ越し。新たに借りたマンションでは、ピアノを弾く時間の制限が厳しく、夜は練習できません。腱鞘炎も治ったばかりで、ムリはできません。できれば朝と午後、1日を2回に分けて練習したいと思っていました。学生時代と同じように――。
そのために、一度「朝早く行って仕事したら効率がいいのでは?」と提案したことがありましたが、夫は「帰りも遅いし、早起きなんてできないよ」と一蹴しました。
そんな矢先、2日連続で事故による電車のストップ。夫は「仕事にならなかった」とがっかりして帰ってきました。私は「今だ!」と思いました。
「始発で行ってみたら? 事故にあう確率も下がるし、満員電車で痴漢に間違われるリスクも減るんじゃないかしら。痴漢に間違われて会社をクビになった人が新聞に出ていたよ。一生棒に振る人もいるんだって。怖いよね」
すると、夫は「ううむ……そうだね。やってみようかな」と言い出すではありませんか。ただ、早朝出勤になると、お弁当作りが大変ではないかと私に気を使い、躊躇(ちゅうちょ)しているようでした。アトピー性皮膚炎患者の夫には、体質に合った弁当を持たせる必要があるのです。最後は「私が先に起きて朝ご飯とお弁当を作る」のひと言で決まりでした。
早起きを続けるコツ――「薩摩式」で一発起床
朝起きるのって辛いです。根性で何日か続いても、あるとき「やっぱり疲れたから今日は寝てよう。1回くらいならいいや」と思ってしまうと、そこから続かなくなることもよくあります。
継続するには、まず寝る時間を決めること。私の場合は夜11時と決めています。夜のコンサートもありますし、食事のおつき合いは大好きなので、そういうときは遅くてもOKとします。でも次の日は必ず定時に起きる。そして、昼に仮眠をとって生活に支障のないように調整するクセをつけました。
次に「夫よりも先に起きること」。早起きの目的は夫に早く出社してもらって「自分の時間をつくること」。西郷隆盛さんが行っていたという「薩摩式」で一発起床です。時間になったらとにかく何も考えずに掛け布団を跳ね飛ばす。体に冷たい空気を感じることで目覚めを促します。それでもダメならばシャワーをあびて交感神経を刺激すれば、すっきりします。私が起きて弁当や食事の準備をしていれば、夫も寝てはいられません。すべては自分次第と思いましょう。
そして忘れていけないことがあります。それは、相手が起きてきたらとにかくほめること。「よく起きられたね、すごいね」と声をかけます。ほめられればうれしそうにしています。そのうち、こちらが起こさなくても自分で起きてくれるようになります。
そして「行ってきます」と夫が出かけた瞬間から、自分だけの時間がスタートします。朝.正午までは自分の持っている才能の3割増しと思い、インスピレーションを必要とするような作業を行うといいでしょう。どうしても集中して音楽づくりをしたいとき、誰にも邪魔されないように、電話線を抜いてしまったこともあります。
ピアノも声楽もブログも――朝シフトで広がる世界
私は腱鞘炎になったとき、ほとんどの音楽的な仕事を失いました。社会的な死――。これほど辛いことはありません。そのとき、もっと社会と関わっていたい、たくさんの人のためになるような社会貢献的な仕事がしたい、という思いを強くしました。
私は現在、合唱団の運営と指導をしています。そのために絶対必要なスキルが声楽でした。声楽は学生時代にやっていたのですが、声がサビついてしまい、使い物になりません。一からやり直すことにしました。ピアノに加えて声楽のレッスンも朝と夕方に分けて行うことで、声帯疲労の蓄積を防ぐことができます。今では、以前は歌えなかったような難しいオペラのアリアも歌えるようになりました。
朝から活動していると、思った以上に集中力が高まり、時間を効率的に使えます。そこでできた時間を使ってブログを書くことにしました。自分の音楽的な活動や知恵をオープン化し、敷居が高いと思われているクラシックや芸術文化の素晴らしさをみなさんに知ってもらい、豊かな人生への気づきを促すことが目的です。
新しい試みとして、合唱音楽を一般の方々にも味わってもらおうと「1時間でハモる合唱プレゼン」を始めました。初めての人でも、その場でいきなり合唱をして、ハモリの楽しさを体験します。最初、このアイデアを合唱関係者に話したら「そんなのムリだ。気でも狂ったの?」と言われたほどです。
早朝6時半から夫の主宰する「朝カフェ次世代研究会」(本書210ページ参照)にて合唱を行い、結果は大好評でした。そして組織のチームワーク作りにも有効であることが分かりました。今後もいろいろなところでこのプレゼンをしながら、合唱音楽の楽しさ、クラシック音楽がみんなのものであることを広めていくのが私の夢です。
連載「朝シフト仕事術」について
本連載は7月16日発売の書籍『残業3時間を朝30分で片づける仕事術』から抜粋したもの。“朝活”が大ブームの今、医者、起業家、脳科学者が書く朝活の本も売れているが、本書は日本IBMに勤務する現役ビジネスパーソンが現在進行形で朝時間を有効活用していることが特徴だ。その成果・効果を大公開。実体験を元に、朝は夜の6倍生産性があがる理由を分析した。
著者自身も20代30代のころは、仕事の忙しさが残業に反映されていると思い込み、“残業自慢者”でもあった。しかし、残業 → ストレス → 飲む → 寝坊 → 満員電車 → ぎりぎり出社 → 仕事の山という負のサイクルにどっぷりとはまっていたことに気づく。それをきっかけに、時間の使い方、仕事のやり方を研究しはじめ、朝時間にシフト。家族と過ごす時間、自分のための時間が増え、ライフワークをしっかりと楽しんでいる。そんな朝時間の有効性を共有する「朝カフェ次世代研究会」を主宰し、朝時間仲間をどんどん増やし、仕事とプライベートを充実させる啓蒙書。生活を見直したいと考えるビジネスパーソンにおすすめの1冊だ。
著者紹介 永井孝尚(ながい・たかひさ)
日本IBMソフトウエア事業部マーケティング・マネージャー。1984年3月、慶應義塾大学工学部卒業後、日本IBM入社。製品開発マネージャーを担当した後、現在、同社ソフトウエア事業部で事業戦略を担当。2002 年には社会人大学院の多摩大学大学院経営情報研究科を修了。朝時間を活用することで、多忙な事業戦略マーケティング・マネージャーとして大きな成果を挙げる。一方で、ビジネス書籍の執筆や出版、早朝勉強会「朝カフェ次世代研究会」の主宰、毎日のブログ執筆でさまざまな情報を発信。さらに写真の個展開催、合唱団の事務局長として演奏会を開催するなど、アート分野でも幅広いライフワークを実現している。主な著書に『バリュープロポジション戦略50の作法 - 顧客中心主義を徹底し、本当のご満足を提供するために』などがある。
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