経営陣からすれば、先行きが読めないのに、利益剰余金頼みの経営をするわけには到底いかない。売上高がなかなか元に戻らないとすれば当面のコスト圧縮に乗り出すことになる。
今は、政府は雇用調整助成金の制度を拡充し、従業員を休ませた場合の人件費を助成している。ただ、この仕組みもいつまで続くか分からないし、店舗を開ければ従業員を休ませるわけにはいかない。早晩、コストを圧縮するために、仕事が減った社員を解雇するなどリストラに着手せざるを得なくなるだろう。
もともと百貨店業の伝統的なビジネスモデルは行き詰まっている、といわれてきた。持株会社の下での統合を進めてきたのも、経営を効率化して生き残りを図ってきたためだ。一部ではオンラインショッピングなど、従来の百貨店の殻を打ち破る取り組みも行われているが、大手のオンライン通販サイトなどにむしろ食われている。
百貨店はただ単にモノを売るだけでなく、日本の文化や伝統を守る役割も果たしてきた。急速に廃れつつあるとはいえ、お中元やお歳暮などの贈答文化の一翼を担い、高付加価値商品などを供給するチャネルとして機能してきた。最近では地方の良いモノを発掘して都会の人に知ってもらい、地方と大都市を結ぶ商品流通も担ってきた。
訪日旅行客が東京や大阪の百貨店を目当てに日本を訪れたのも、単に値段が安いからではないだろう。そうした日本の百貨店文化を高く評価し、それに惹(ひ)かれたからに違いない。
新型コロナの蔓延を克服し、「ポスト・コロナ」の時代も百貨店が存続していけるかどうかは、単に「モノを買う場」にとどまらない機能を多くの消費者に支持してもらえるかにかかっている。
磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP )、『2022年、「働き方」はこうなる 』(PHPビジネス新書)、共著に『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP )などがある。
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