ビジネス業界が映像業界に熱視線をおくっている。
企業が映像に存在意義を感じ、距離を縮めようとしている、と言ってもいいかもしれない。
2019年の末に話題になった1本の映像がある。『100 YEARS TRAIN』という相模鉄道の都心直通を知らせるものだがテレビCMではない。二階堂ふみと染谷将太の出演で3分半をかけて、さまざまな時代の車内が描かれる映像で、文字情報は「100年の想いを乗せて」「相鉄は都心直通」の2つだけ。公開されるとすぐにSNSで話題になり300万回再生を超え、ポジティブな感想で溢(あふ)れた。相鉄のブランディングに大きく貢献したと言っていいだろう。
この映像は、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(以下SSFF)の1部門・BRANDED SHORTSに出品されている立派な“ショートフィルム”でもある。
SSFFは、俳優の別所哲也氏が主催し、21年で23回目を迎えた国際短編映画祭だ。企業のブランディングを目的とした映像だけを集めた部門として16年に設立されたBRANDED SHORTSには、コンサルティングブランドであるデロイト デジタルが今年からパートナーとしてスポンサードしている。
企業がブランディング手段としての映像に着目し、そこにコンサルティング会社までが、その可能性を見いだしている。ショートフィルムに魅了され、SSFFを長年続けている別所哲也は昨今のこの潮流の変化をどう感じているのか。そして、デロイト デジタルを展開するデロイト トーマツ コンサルティングの代表執行役社長・佐瀬真人氏は何を期待しているのか――それぞれに話を聞くことで、ビジネス業界と映像業界との距離の変化を捉えていきたい。
20年以上、日本でのショートフィルムとの接点の場としてSSFFを続けてきた別所哲也はこう語る。
「ショートショートフィルムの祭りをやっていると映像の未来地図が見えるんです」
別所とショートフィルムの出会いは90年代後半にまでさかのぼる。1998年のサンダンス映画祭に参加した別所は、従来の映画祭とは集まってきている人の種類が変わってきていることを感じていた。
「日本ではまだメアドというものを名刺に書き始めた時代」に、シリコンバレーの人々が、動画配信について話したり、ショートフィルムの配給権をその場で5000ドルのペイチェックを切って買ったりする様子に衝撃を受けたという。
ショートフィルム自体は、最初は「画家でいうデッサン画、ミュージシャンでいうデモテープ」のような形でクリエイターには登竜門的な形で浸透。ティム・バートンは『フランケンウィニー』や『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の原点となるようなものを、もともとは短編映画として作って才能が認められていった。
だがネット社会になって、登竜門的な位置付けだったショートフィルムに変化が起きる。「長編では表せないことがある」と著名監督がショートフィルムに戻ってきたり、ジョン・ウーがBMW出資のネット上のダイレクト・マーケティングツールでマドンナを主人公にショートフィルムを作ったり……別所自身「コンテンツビジネスに変化した」感覚があるという。
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