『AKIRA』大友克洋の初監督作品も上映 「角川映画祭」が新たなファンを獲得する理由アーカイブビジネスで収益化(2/2 ページ)

» 2021年12月03日 18時37分 公開
[田中圭太郎ITmedia]
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伝説のアニメ映画『迷宮物語』を上映

 映画祭ではアニメの上映も話題を呼んでいる。りんたろう監督による角川映画アニメ第一弾の『幻魔大戦』や『カムイの剣』、平田敏夫監督、真崎守監督、やまざきかずお監督の作品をラインアップ。また、りんたろう監督、川尻義昭監督、大友克洋監督の日本を代表するアニメ作家3人によるオムニバス作品『迷宮物語』が上映されている。

 『迷宮物語』は1986年に製作。1987年に「東京国際ファンタスティック映画祭」で初めて上映され、同年にビデオソフトも発売された。しかし、その内容のマニアックさから、なかなか一般公開されず、1989年にようやく劇場で観ることができた伝説のアニメ映画だ。

 『迷宮物語』を構成する3つのオムニバス作品の1つである『工事中止命令』は、漫画家から映画監督へと活躍の場を広げた大友克洋氏のアニメ初監督作品でもある。11月28日の上映後には大友克洋氏のトークショーが開催され、大友氏の話を直接聞ける貴重な機会にファンや多くの映画関係者が詰めかけた。

 「大友監督の初監督作品が角川映画だったのは、当時の角川のスタッフが新人の監督を起用して、新しいことを試みたことの結果ではないかと思います。『迷宮物語』のような作品があるのも、角川映画の財産ですね」

「『AKIRA』を描いて、次の1週間で『工事中止命令』を作っていた」

 トークショーでは、大友克洋氏が『工事中止命令』を製作していた当時のエピソードを披露して、会場は盛り上がった。初監督した経緯について大友氏は、『幻魔大戦』で初めてキャラクターデザインを手掛けたあと、「1本やってみないか」と声をかけられたことがきっかけだったと明かした。

 「幻魔大戦が終わった後に、眉村卓さんの原作を映画にする話があるので、短いのを1本やってみないかと言われました。機会があればやってみたいなと思っていましたし、15分くらいなので短くていいんじゃないかと。

 この時、『AKIRA』を連載しているんですよ。1週間で『AKIRA』を描いて、徹夜明けで自転車に乗ってマッドハウス(制作会社)に行って、1週間ほどアニメを作っていました。当時『AKIRA』は隔週連載でした。よくやっていましたね。でもアニメーションを作るのが楽しかったですね」

 『工事中止命令』は、大友氏が監督・脚本・キャラクターデザインを手掛け、原画も描いた。描き込まれた背景は、当時のアニメとしては斬新だった。

 この作品を作った後、大友氏は『ヤングマガジン』で連載していた漫画『AKIRA』のアニメーション映画を自ら監督する。映画『AKIRA』は製作期間3年、総製作費10億円と破格の労力がつぎ込まれたクオリティーの高い作品で、『工事中止命令』のスタッフが中核になって製作した。『工事中止命令』は『AKIRA』につながる作品として観ても興味深い。

 「それまでのアニメーションの美術はあまり描き込んでいませんでした。どんどん描き込んでいってばかじゃないのと言われましたけど、自分なりにSFの中でやってみたかったのかもしれませんね。次の『AKIRA』になると、いろいろな実験をしています。

 『工事中止命令』はあまり観ていないので、僕も観たかったです。映画館のスクリーンで観るのはいいですよね。皆さんに楽しんでいただければ」

 自社が所有する過去の名作を、映画祭として提示する角川映画のアーカイブビジネス。原田氏は「特別なことをしなくてもお客さんがきっちりキャッチしてくれます」と手応えを感じている。どれだけ時間が経っても鑑賞に耐え得る作品の力が、新たなファンの獲得につながっている。

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