5年前にはDXという言葉もほとんどなかったはずだ。
南社長は「100年来、Face to Faceで生きてきた銀行で、発想、業務プロセス、それを支えているシステムは対面での業務を円滑に回すために構築されてきました。デジタルを入れることに際し、最初はリアル側をDXしようとしたのですが、大変でした」と本音を語る。
そこでリアル側ではなく、新しい販売チャネルとしてグループアプリにフォーカスを置いたという。
「今までは対面で100万人のお客さまと会うビジネスでした。グループアプリは431万ダウンロードがなされ、次は1000万ダウンロードをめざしています。顧客との接点が増えるという結果が見え、実績を積むと推進にドライブがかかるのです」
このような状況になると社員の間に「『既存のものもデジタル武装しようという考えがしみわたっていく』というのを途中で気付きました」と話す。山を登るルートが1つでないのと同じで、デジタル化を推進する時に、少し異なるアングルから実行したことが功を奏したようだ。
グループアプリは430万人分と“非接触で接触できる”最高のツールとなり、アプリ経由の収益では1人1日あたり3.5円から3.6円に増加。アプリの継続利用率は75%に上り、平均アクセスは1カ月あたり12回以上に達するなど効果が上がった。
今の若者はデジタルネイティブでありグループアプリのユーザーにおいて20代、30代は圧倒的に多い。一方、60代は45%がアプリをダウンロードしていない。
「iPhoneは07年に登場しています。60代の方々が40代の時に手にしていますから、スマホに親しんでいないわけではないのです。スマホという手の平で振り込みや住所変更ができる体験と気付きがあれば、お客さまが変わっていく要因になるでしょう」
ただ、「アプリ使用の1歩目をどう踏み出してもらうのが難しいです」と課題も話す。逆にいえば、1度体験してもらえれば、アプリの利用をし続けてもらえるという自信もうかがえた。
金融デジタルプラットフォームの取り組みについて聞いた。21年7月には日本IBM、NTTデータとプラットフォームの共創に関する覚書を締結。12月にはパナソニック、大日本印刷、JCBと顔認証技術を使った業界横断的なコンソーシアムを設立した。
「ベーシックなインフラを構築したいのです。これにより新しい価値創造もできますし、業務の裏側では圧倒的なコストダウンにつながるからです。その中でオープンAPIという枠組みを開発しまして、異業種や地域金融機関と連携をしながらこの数を一気に加速させたいのです。ネットワーク効果を狙って数を追いたいですし、価値が価値を呼ぶ状況に早くもっていきたいです。
また機能としても、これからの時代を考えたときに顔認証で本人確認できるのは価値があります。なぜなら、業務プロセスの中で本人確認はなかなか難しいものがあるからです。これは銀行だけではなく、異業種でもそうです。これまではスマホ本体に顔認証の情報が入っていると思いますが、これを通信でやることによって利用シーンが広がると思っています」
既にりそなのバンキングアプリやファンドラップでは、地域金融機関が取り扱いをスタートしている。めぶきフィナンシャルグループではバンキングアプリが44万ダウンロードされているほか、横浜銀行ではファンドラップの取り扱いが265億円にのぼっている。また、京葉銀行、百十四銀行とも提携を結んだ。今後も外部と連携を通じてエコシステムの拡大を目指す。
15年に発足した地方銀行のアライアンスである「TSUBASAアライアンス」も「TSUBASA FinTech共通基盤」を開発。法人、個人事業主向けにAPIの提供を始めている。
「私たちは勘定系ではなく、UIに近い部分を手掛けていくというスタンスです」
最近は、オミクロン株という変異株が突如現れ、ワクチン接種が進んで楽観的になりつつあった世界に、まだ新型コロナは終息する気配をみせてないことを見せつけた。コロナ禍での経営について話し、南社長はインタビューを締めくくった。
「第6波が到来し、不確実性が高まっているので、最悪の事態を想定しながら準備を怠らないことが大事だと思っています。コロナはお客さまの常識や価値観を揺さぶったと思っています。顕在化していなかったニーズが顕在化され、コロナがあぶりだした課題と新しいビジネスチャンスが相当あると思うので、お客さまに役立つソリューションを数多く提供できるかが勝負の別れ目です。それには先ほど述べたように、私たちが早く変わることが出発です。お客さまの側に立つことを見失わない。そのことを忘れないようにしたいです」
15年に公的資金を完済したりそながここまで来たのは、さまざまな変化をしてきたからだ。南社長も、時代に合わせてグループが変わっていくことについて全く恐れていない。変化をし続けていく限り、りそなはコロナといった天変地異的なことがあっても生き残る企業になるはずだ。
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