小中学校の学校現場で授業を補完する教材などを長年にわたり提供してきたベネッセ。同社が、デジタル教材を活用して生徒に寄り添った学びのサポートを進めようとしている。
「教育や介護事業は形やモノではなく、その理念が重要」と強調する小林仁社長に、デジタル時代の教育事業に在り方について聞いた。
――DXを経営の重要課題に据えて事業を展開してきた理由は。
DX推進やデジタル化はかなり前から取り組んできました。世の中の動きから見ると、これまで教育、介護事業で進めてきたものを、これまでより一段上に進めなければならず、より個別性が求められています。その意味でDXを手段にして、お客さまにいかなるソリューションを届けられるかがカギで、そのソリューションを高めるためにはDXの推進が非常に重要です。
2021年4月にDIP(デジタル・イノベーション・パートナーズ)という約100人の組織を作りました。デジタルを推進するための組織や人がバラバラになっていたので、デジタル、IT、人材育成、DXコンサル部門をひとつにまとめて、会社全体と各部門の推進を一緒にやることにしました。
IT人材は外部からの採用もしますが、この人材は今は取り合いで需要と供給が合っていません。そういう中で人材の引き留め(リテンション)をして、再教育(リスキル)することが重要なので、内外の人材教育をDIPの組織を作りながら強力に推進してきました。この取り組みが評価されて経済産業省が東京証券取引所と共催している「DX銘柄」に選ばれたのだと思います。
――社内でのDIPの役割は何なのでしょうか。
DIPをDX推進の中心に置いたことで、社内のDXはかなり進みました。DIPができるまでは、中途採用の人材をDX推進のトップに置いていました。その後、DIPのトップをベネッセの事業と理念をよく理解した生え抜きの人物にし、各部門からITとDXの人材を集めました。
ベネッセは「たまごクラブ」のような妊娠出産から「進研ゼミ」をはじめとした教育、介護に至るまで、多くの事業を展開しているので、各事業とDXがかけはなれてしまうと、うまくいきません。
DXといってもひとまとめには言えないので、事業のフェーズに沿って部門ごとにDXを推進していく必要があり、事業部門とDIP部門が一緒になって進めています。このためDIPのスタッフが、いまは各部門に社内出向しています。
――ベネッセはそれぞれの事業の理念を大事にしているようです。
ベネッセは理念ドリブンの会社です。一つ一つの事業への思いがある中でDXをのせていかないと、当社の場合はうまくいかないと思います。何を顧客に提供したいか、そのためにデータをどう使うかが重要です。当社はパーパス経営をしようとしていますが、ベネッセは何のために存在しているのかを常に考えています。
いま学校現場には大きな変化が起こっています。変化の中で一番困っている人に寄り添わないといけません。教育、介護はカタチやモノではありません。教育という分野でベネッセと接点を持ったことによって、子どもたちに5年、10年後に何を感じてもらうか。介護の場合は最期の時にどう寄り添うかです。
そういうことを大切にしながらDXを推進しています。
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