さて、ミラーアップしたままで固まってしまっているOM-2 SP。ここで気をつけなければならないのは、決して無理してミラーを下げようとしてはいけないということである。ミラーアップしたままということは、長時間露出の状態で固定されている事と同じなので、無理矢理こじ開けても、どこかのピンやレバーを折ってしまうだけだ。
新しい電池に替えて、モードレバーをガチャガチャと切り替えてるうちに、ミラーが降りた。何度か空シャッターを切ってみたが、マニュアルなら問題なく動くようである。いろいろ組み合わせを試した結果、どうもAUTOモードのときだけミラーアップしたままになってしまうようだ。モードレバーの接点が甘いのかもしれない。
さてそれでは軍艦部から開けていこうと思ったのだが、OM-2 SPは数がそれほど多くないこともあって、ネットで調べても分解の情報が見つからなかった。旧OM-2の資料はあるのだが、いきなり開けたところから始まっていたりして、最初のとっかかりが見つからない。
実は接着剤で貼ってあるだけだった
フィルム側の開け方は、まあどのカメラも同じなので簡単なのだが、巻き上げレバーをはずそうにも、ネジらしきものが見当たらないのである。最初は何もないつるんとした部分をゴムで回そうと試みたが、全然回らない。
ルーペで観察したら、飾りネジと思った部分はただの段差で、中心部はキャップみたいに一体成形であることが分かった。この頃のOLYMPUSは製造の合理化からか、結構ゴーカイに接着剤止めを採用している。この部分もなんのことはない、単に接着剤で止まっているタダのフタだった。
結局難しい部分は全部接着剤止めだった
ようやくねじ穴が出てきたので、分解開始。もう一つの難関は、ISO感度ダイヤルである。ほかの部分はあらかたネジを外したのだが、この部分を外さない限り、軍艦部が外れそうにない。もしかしてここもそうかと思い、思い切って表のカバープレートをはがしてみると、やっぱりここも接着剤止めで、中からネジが出てきた。OLYMPUSは時々こういう罠がある。
さて懸念したモード切替部は、簡単なツメが接点を撫でるタイプのスイッチになっていた。目に見えて錆びている感じはないが、一応綺麗に磨いた。また接点となるツメも、きっちり触れるように少し起こし目にしておいた。
モードダイヤルの接点部分
このOM-2 SPはプリズムに腐食もなく綺麗なファインダだったが、それはそのはずである。腐食の原因となるモルトが、内部にほとんど使われていない。OM-2では、プリズムとファインダ接眼部の間を大量のモルトで囲ってある。おそらく光漏れ防止のためだと思われるが、OM-2 SPの場合、プリズム部にまるで屋根のように大きなフレキ基板が乗っているので、これで光漏れ防止の役目を兼用しているのではないだろうか。
プリズム部分にモルトが使われていない
接眼部も外して裏側から掃除してみたが、OM-10のように接眼部にCdSは使われておらず、別の方法でマニュアル時の露出を計っているようである。
あちこちひっくり返しながら探したところ、ミラーの奥にもう1階層設けて、そこにかなり大きなセンサーを配している。ハーフミラーを通り抜けた光を、ここでセンシングすることで、マニュアル時の露出を決めているものと思われる。
ミラーの裏側に大きなセンサーが
接点をクリーニングしただけで、なんとなく動くようになってしまった。ただAUTOの1/4秒以下の超低速になると、やはりミラーアップしたままになってしまう。だが普通そこまで低速では撮らないし、マニュアルモードなら全速でちゃんと動くので、OKということにした。
最後に、文字部分のクリーニングの仕方を書いておこう。カメラやレンズボディには、数値を記した小さな文字部分が沢山ある。この文字がくすんでいると、なんだか妙に古ぼけて見えてしまう。こういうところは、掃除のつもりでほじくっているとキリがない。そこで筆者がいつも使うのが、いわゆる「毛穴パック」である。
最近は鼻に貼るためシート状になっているものが主流だが、大きなドラッグストアに行くと、コーヒー用のミルクのようなパックに入ったジェル状のものがある。これを文字盤の上に、やや多めに塗布する。多めにするのは、地肌が金属なので、時間が経つとジェルをはじいてしまうからである。
固まるまでおよそ30分。パリパリッと剥がすと、細かい汚れまで、文字の形で綺麗に取れる。簡単で手間もかからず、新品同様の文字の輝きが再現できる。文字盤以外にも、絞りリングのギザギザ部分など、いろいろな部分で使える技だ。知恵を使ったクリーニングもまた、カメラレストアの楽しみである。
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
- 第19回:OM再び。今度はOM2でも……
いろいろ手をかけたOM-10も出番が少なくなってきた。「何かほかの面白そうなカメラを」と探すと、そういうときに限ってOMシリーズの程度のいいヤツが見つかる。というわけで、OM-2のリファインモデル「OM-2 SP」である。
- 第18回:お得にマクロ、接写リングの魅力
地味ながら人気があるマクロ撮影。それを手軽に実現できるのが、接写リングだ。このアクセサリー1つで、1本の標準レンズでも撮影のバリエーションが大きく広がる。
- 第17回:人気がないにもワケがある? OM-10の実写
本体を修理し、レンズも入手したところで早速OM-10での撮影。小型が魅力のOM-10だが、シャッター半押しのAEロックなどなく、全面測光のため露出補正が面倒。さらに自動電源OFF機能が“じっくり撮影”には致命的で……。
- 第16回:ホコリと格闘するOM-10の修理
OM-10の修理は光学系の掃除から。ファインダ、プリズムとキレイにして、スクリーンはEOS用のを加工して装着。これで本体はなんとかなったが、レンズも“ワケアリ”を購入したために……。
- 第15回:一眼レフを身近にしたOLYMPUS 「OM-10」の悲劇
いつかは手に入れたいと思っていたカメラ OLYMPUS OMシリーズ。人気のない入門機「OM-10」のジャンクを3000円で見つけたので、買ってみた。ファインダ内の汚れがひどかったが、外装は美品。丁寧に扱われていたカメラのようだ。
- 第14回:優秀なレンズが揃うM42マウント
豊富なレンズ群が魅力のM42マウントを採用した「ZENIT-E」。ツァイスなど一流ブランドレンズも選べるM42マウントだが、日本ならアサヒペンタックスのレンズ群が豊富。ボケ足が綺麗な明るいレンズでさっそく撮影してみた。
- 第13回:厚い壁に阻まれた? ZENIT-Eの修理
前回はロシアカメラの話で終始したが、今回はいよいよZENIT-Eの修理に入っていく。順調に分解が進むかに見えたが、固くて外れないネジが行く手を阻み……。
- 第12回:平凡の中に潜む非凡、「ZENIT-E」
旧ソ連製カメラ「ZENIT-E」を3150円で手に入れた。安値には必ず秘密があるもの。このカメラの場合、露出を算出するダイヤルが普通の値を示さなかった。
- 第11回:カリッとした描写が魅力、さすがはマミヤセコール
メンテナンスも必要ないぐらい状態が良かったMAMIYA ZMを持って、早速撮影に出かけた。描写がカリッとしているのがMAMIYAのレンズの特徴。さて、撮影の結果は……。
- 第10回:ミモダエする週末、「MAMIYA ZM」
中古カメラとの出会いは、ほとんどが運命。MAMIYAの35mmカメラ「MAMIYA ZM」に出会ったのは、たまたま車で通りかかったハードオフのジャンク品コーナー。探している人から見れば、畳の上でミモダエして悔しがるだろう逸品だった。
- 第9回:「OLYMPUS XA」の撮影
簡単な修理で直ってしまった「OLYMPUS XA」。早速撮影に出かけてみた。露出がアンダー気味な点や、最短焦点距離が長めなど若干の不満はあるが、スナップカメラと割り切れば、その気軽さが旅をより楽しくしてくれそうだ。
- 第8回:キカイだけで理想を具現化してみせたXAの中身
ジャンクで購入した「OLYMPUS XA」の初期症状は、シャッター不良。フェザータッチのシャッター部を分解してみると、動作原理はあくまでもキカイ式であった。
- 第7回:場違いなほどの完成度――「OLYMPUS XA」
OLYMPUS PEN、PEN F、OM-1など数々の名機を世の中に送り出してきた天才設計者が、現役で手がけた最後のカメラ「OLYMPUS XA」。プロもサブカメラとして愛用したというこの名機は、ポケットから取り出してどこでも本気で絵作りができる。
- 第6回:「EXA IIa」の撮影
シンプル・質実剛健・軽快ボディの「EXA IIa」でさっそく撮影してみた。レンズは、円形絞りなどていねいな作りが魅力のZeiss Jena(ツァイス イエナ)50mm/F2.8。さて、このレンズの撮り味は?
- 第5回:「EXA IIa」の分解と修理
軽快ボディが魅力の「EXA IIa」を、さっそく分解してみることに。懸案のシャッター部には、経年変化によって固着した機械油を洗い流す“魔法のオイル”を施してみた。
- 第4回:シンプルかつ質実剛健、「EXA IIa」
部品取りのために買った「EXA IIa」を修理することに。世界初一眼レフカメラ「EXAKTA」の廉価版という位置づけのEXA IIaだが、中古カメラ市場では人気がない。だが、EXAKTAよりも軽快に使えるボディは魅力だ。
- 第3回:VITO BLの撮影
掃除しただけで直ってしまったVoigtlaender VITO BL。ちゃんとアングルを決めて距離を測って花や人物を撮ると、しっとりとなかなか美しい描写をするカメラだ。
- 第2回:VITO BLの分解と修理
クラシックカメラの世界から始まった「-コデラ的-Slow-Life- 」。前回に引き続き、VoigtlaenderのVITO BLをいじっていく。直るかどうかは分からないが、とりあえず中を開けてみることに……。
- 第1回:壊れたカメラは美しい
+D Styleのコラムに、小寺信良氏が満を持して登場。10日に一度の“スロー”な連載、急がないテーマで“ゆっくりゆっくり”進めながら、「小寺的SlowLife」を楽しんでもらいたい。まずは「クラシックカメラ」の世界から……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.