運に導かれ運を築くオルタナティブな生き方 谷川耕一さん(3/3 ページ)

» 2011年03月03日 11時30分 公開
[聞き手:土肥可名子、鈴木麻紀,ITmedia]
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 オラクル時代はとにかく忙しかった。一時は広告やWebサイト、ショールームからホットラインまで僕の管理下にあったりもしました。初期のころにある製品を初めて日本市場に展開する仕事をしていたのですが、このときは本当に忙しくてストレスで口が開かなくなったこともありました。ちょうどそのときに、会社から「マネジャーに(昇進)」と打診されたのですが、今だってこんなに忙しくいのに、この上さらにマネジャーになったらもっと忙しくなるじゃないかと。「マネジャーが欲しいなら外から連れて来てくれ」と頼んだこともありました。あのときおとなしくマネジャーになっていたら、その後はもう少し出世できたかも知れませんね。それでもイベントで寸劇調のプレゼンをやってみたり、東京ビッグサイトを全館貸し切るような大規模なイベントの事務局で運営を仕切ったりで、仕事は楽しかったですよ。

 起業したのは1999年です。長崎時代の友人から「会社を作りたいから手伝ってくれ」と言われ、東京に家を持っていたのでそこを本社にして僕が社長で会社を興しました。

 当時、日本オラクルの就業規則には「他に雇用されてはならない」とはあるけれど「起業禁止」とは書かれていなかった。それならと会社を辞めずに友人2人と有限会社を立ち上げました。後に、オラクルで副業している人の調査があって、そのとき素直に申し出たのですが、調査の結果同じIT業界の仕事で利益相反になる可能性があるとのことに。それで、代表権はだめよという話になり社長を降りました。しかし、それ以上はとくにおとがめもありませんでした。さすがに今でもこんなことが通用するとは思いませんが。

 有限会社の資本金300万円は、経営者3人で1人100万円ずつ。その100万円を作るために、上場目前でしたが持っていた日本オラクルの株を売りました。その後の上場による株価の上昇を考えるとちょっともったいなかった? いや、株ではもうけられなかったけれど、そのお金が現在に生きているので、これでよかったのだと思います。この年は会社を作り、家を立て替え結婚までしたので、もうバタバタな1年でした。

オートバイは学生時代からの趣味。現在、OneTopiでオートバイのキュレーターも務めている

 昨年から電子書籍の制作を始めました。もともと紙の印刷物や本が好きだったので、そういう仕事ができれば楽しいなと思っていたんです。オルタナブロガーの佐々木さんと話をしているうちに、紙の出版社の敷居は高いけれど電子書籍であれば参入できるんじゃないかと。電子なら書籍といってもWeb系のテクノロジーを使っているわけですし。

 たまたま「JazzJapan」という雑誌の電子化の相談を持ちかけられたこともあって、昨年9月に佐々木さんの会社と電子書籍制作の企画・制作、コンサルティング業務を正式にスタートさせました。電子書籍用アプリの開発も自社で手掛けています。今年の1月にはオラクルの社員犬「キャンディ」の広報誌を作りました。企業が使うメディアの1つとしても、電子書籍の可能性はあると思います。

 今は売れる本というよりも、電子書籍らしい書籍――マルチメディア的な要素が価値になるもの、文字と写真以外にも動画があるとか、Twitterを連動させるとか、そういう電子書籍のメリットが、書籍の文脈のなかで生きてくるようなものを作りたいと思っています。

 電子書籍を作れば何でも売れるわけではない。売れるものが売れる、当たり前ですがコンテンツ次第です。今はまだWebサイトとの境界もあいまいな部分があるし、読む側のスタイルの問題もある。まだまだ過渡期の電子書籍ですが、これからフォーマットも端末もどんどんよくなっていくでしょうし、そのためには今から手掛けておきたいのです。

 起業してから十数年、オラクルを辞めて自分の会社一本にしてから6年位経ちます。それなりに順調に来たとは思いますが、そろそろ情報を出す側の人間になりたいですね。独立するとどうしても大手の下請けが仕事のメインになってしまう。自分たちが発信元になって自分たちが企画したものを世に出したいです。

 アイデアはいろいろあるんですよ。例えばバイク。僕がキュレータをしているオートバイのOneTopiには今フォロワーが1000人位いるので、彼らが所有しているバイクについてレビューしてもらって本にする。自分のバイクについてはいいことも悪いことも熱く語る連中ですから、これにまさるバイクカタログはないわけです。それを販売して制作に関する経費を引いた残りを育英会に寄付するとか。僕らはこれをソーシャル出版と名付けているんですが、そういう考え方があってもいいんじゃないかな。もうからないかもしれませんけどね(笑)。

「家には昔からいる猫だけ。僕はペットよりも自然の中にいる動物が好きなんだ」いつもにこやかな谷川さんは、動物の話をするとさらにニコニコになる

谷川耕一氏 プロフィール

谷川耕一

有限会社タルク・アイティー 代表取締役社長、ブレインハーツ株式会社 会長

システム開発エンジニア、IT雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報担当者などを経験。現在は、オープンシステム開発をおもなターゲットにしたソフトハウスの経営と、マーケティング支援、ITシステムの企画、開発を行う会社の代表を務める。ITmedia エンタープライズの記事を多数執筆するテクニカルライターでもある。

IT業界の話題、電子書籍、動物、ラグビー、エコロジーなどを、分かりやすくつづる『むささびの視線』は、ITmedia オルタナティブ・ブログ開設当時からの人気ブログ。


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