スポーツ業界にもアプローチ SAPは「BtoBtoC企業に」SAPPHIRE NOW Orlando 2013 Report(2/2 ページ)

» 2013年05月15日 12時55分 公開
[伏見学,ITmedia]
前のページへ 1|2       

スポーツファンを取り込め!

 では、BtoBtoCに事業戦略をシフトするためにSAPはどうするのか。その1つの取り組みとして、同社が新たに注力するのが「スポーツ&エンターテインメント」産業に向けたソリューションである。これまで同社は、業種に特化した知識やベストプラクティスを活用すべく、自動車や銀行、小売など24カテゴリーの業種別ソリューションを提供してきた。そこにこのたび25番目の業種としてスポーツ&エンターテインメントが加えられた。スポーツやエンターテインメントにかかわる企業の顧客である、いわゆる“ファン”が利便性を向上させたり、満足度を高めたりするようなソリューションを打ち出していくというわけだ。

 その強い決意を示すかのように、マクダーモット氏のキーノート後半では、米National Basketball Association(NBA) Deputy Commissioner兼COOのアダム・シルバー氏、アメリカンフットボールチームのSan Francisco 49ersでCEOを務めるジェド・ヨーク氏、スポーツウェアメーカーの米Under ArmourでCEOを務めるケビン・プランク氏といった、米スポーツ業界の著名人たちを集めたパネルディスカッションが行われた。

パネルディスカッションの様子(写真提供:SAP) パネルディスカッションの様子(写真提供:SAP)

NBAの選手データベースを支えるHANA

 今や多くのスポーツにとってITはなくてはならない存在だといっても過言ではない。例えば、小説「マネー・ボール」に代表されるような選手のデータマイニング、試合のストリーミング配信、モバイルでのチケット購入など、ITの活用は多岐にわたる。

 シルバー氏は「NBAは世界中にファンがいるスポーツだが、実際に試合会場に来ることができるのは一握りだ。それ以外のファンは試合の模様をスマートフォンやタブレット端末で楽しむことができるのだ」と説明する。「49ersのファンたちはソーシャルメディアなどを利用してあらゆる情報にアクセスし、試合に参加した気になることができる。たとえインドにいても中国にいてもサンフランシスコにいても、リアルタイムで同じ経験をすることが可能だ」とヨーク氏も続く。

 49ersは現在、2014年のオープンを目指して新スタジアムを建設中である。実に数十億ドルもの投資を行い、巨大なスコアボードや4K解像度のビデオカメラを設置したり、キャッシュレス、チケットレスの仕組みを設けたりする。「例えば、試合中にビールが飲みたくなった場合、席を立たずにその場で自動的に購入できる方法など、ファンが希望していることを提供できるスタジアムを作らなければいけない。これが優れた顧客体験につながる。従って、ハード面ではなくソフト面でいかに対応するかが重要なのだ」とヨーク氏は説明する。

 SAPはその新たなスタジアム設立のためのパートナー企業として役割を果たしている。具体的には、チームの公式サイト「49ers.com」やFacebook、Twitterなど、チームとファンとのあらゆるデジタルタッチポイントにおいて、ビッグデータ分析やモバイルソリューションなどの知見を提供している。加えて、チームの人材強化や効果的な採用を実現するためのスカウトアプリケーションも新たに開発した。

 SAPは2012年7月にNBAとも業務提携している。その一環として、HANAを基盤に公式サイト「NBA.com」を構築。過去すべての公式スコアを含むNBAの統計分析データを誰でも自由に閲覧できるようにした。「SAPのおかげでNBA.com上のあらゆるデータにアクセス可能になっただけでなく、プレイヤーのデータ項目を容易に組み替えたり、さまざまな角度から瞬時に分析したりできるようになった。これまでレガシーシステムに入っていたデータは取り出すことすら困難だった」とシルバー氏は喜びを隠しきれない様子で語った。

 Under Armourは古くからのSAPユーザーだ。2005年にERPシステムを導入し、その後もSAPのさまざまなソフトウェアやテクノロジーを利用しているという。「企業が大きく成長するためにはイノベーションが不可欠だ。スポーツウェア会社の我々がテクノロジーをどう活用してビジネスを伸ばしていくべきかを検討していた際に、SAPからいろいろなベストプラクティスを提供してもらった。次のレベルに上がるためには何をすればいいかが明確になった」とプランク氏は振り返る。

 また最近の事例として、HANAと米IBMのシステムを連携させたデータ分析エンジンを構築したことで、あるデータ処理に有する時間が9時間から数秒に縮まったという。

「SAPのテクノロジーを最大限活用することで、より身体パフォーマンスを高められるウェア製品を、アスリートだけはなく、すべての消費者たちに提供していきたい」(プランク氏)

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ