毎週3分、情シスドリル コレ1枚で分かる「ビジネストレンド」(2)即席!3分で分かるITトレンド(2/2 ページ)

» 2015年08月10日 07時00分 公開
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IoTとビックデータ

 私たちの日常はさまざまな「モノ」に囲まれています。PCやスマートフォン、ウェアラブルと呼ばれる身に付けるデバイス、家電製品や住宅、自動車や鉄道などの生活に欠かせない設備、道路に設置された機器や気象・環境観測機器、工場で働く産業用ロボットや工作機械などが、私たちの日常を支えています。これらがすべて、いまインターネットにつながろうとしています。

 インターネットにつながるモノの数は、2009年時点で25億個あったそうですが、2020年には300億個以上、もしくは500億個になるとまでいわれています。いずれにしても、膨大な数のデバイスやモノが、インターネットにつながることになります。

 すでに私たちは、PCやスマートフォンで文字や写真、音声といったデータを生み出し、それらに組み込まれたGPSやセンサーによって、動作や行動をもデータ化しています。また、モノに組み込まれたセンサーが、その動きや周辺の状況をデータ化しています。私たちの日常生活や社会活動が広範にデータ化され、インターネットを介して集められる時代を迎えようとしています。このような仕組みは、「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」と呼ばれています。

 IoTによって膨大に生み出され、急速な勢いで増え続けるデータは「ビッグデータ」と呼ばれ、そこには現実世界に関わるさまざまなデータが集約されています。これを統計手法や人工知能を使って分析し、分かりやすい表現で「見える化」することで、さまざまな知見やノウハウを取り出すことができます。

 このような一連の仕組みは、もはや一企業が所有できるものではありません。クラウドサービスの中に組み込まれ、サービスとして提供されていくでしょう。また、それを支えるテクノロジーはOSS(Open Source Software:オープンソースソフトウェア)に牽引されています。データの一部はオープンデータとして提供されるようになります。

PaaS

 ソフトウェアやデータは、今後サービスとして利用されるようになります。当然、それらを使用する開発、実行基盤もまたサービスとして提供されるようになります。それが、PaaS(Platform as a Service)です。IaaSが価格競争で利益を確保できなくなりつつある中、主要なクラウドサービスプロバイダーは、PaaSに収益基盤を移しつつあります。AWS Elastic Beanstalk、Google App Engine、IBM Blue Mix、HP Helion、Microsoft Azure App Serviceなどがこれに相当します。クラウドサービスは、開発、実行基盤としての利便性や機能の充実を競う時代へと移り始めています。

SaaS

 IaaSからPaaSへと、クラウドサービスの収益基盤は、より上位のレイヤーにシフトしつつあります。この傾向は、さらに上位のSaaS(Software as a Service)へとシフトすることになるでしょう。上位のビジネスプロセスにて差別化を進めることで、競争優位を継続的、固定的に維持しようという戦略をとるものと考えられます。

 主要なクラウドサービスプロバイダが、マーケットプレイスに積極的なのはこのような背景があります。Salesforce.comAppExchange、AmazonのAWS Marketplace、MicrosoftのMicrosoft Azure Marketplace、IBMのCloud Marketplaceなどがこの動きに対応しています。また、OracleのSaaSビジネスの拡大、SAPのSuccess Factors、Concurなどの一連のSaaSサービス事業者の買収も、また同様です。

 SaaSによって、PaaSも含めた上位レイヤーにおいてエコシステムを働かせ、サービス全体の魅力を高め、顧客を囲い込もうという戦略が可能になりました。今後はこの領域での各社の競争は激しさを増すことになるでしょう。

ソーシャルとウェアラブルモバイル

 TwitterFacebookなどのソーシャルメディアが、人のつながりを大きく変えることになりました。面識のあるなしにかかわらず、関心や興味、感性で共感し合う人たちが、ソーシャルメディアで知り合い、つながり、地域を越えて、言葉や写真、動画を共有し、連絡をとり合える仕組みが出現したのです。すでに、Twitterのユーザー数は2億5千万人、Facebookは13億人を越えています。これまでの人類史上初の、このような世界規模での人のつながりは、ビジネスばかりでなく、価値観や文化、思想や政治、経済に大きな影響力を持つようになりました。

 これは、別のとらえ方をすれば、人のつながり、世の中の話題や関心事、商品やサービスの評価や批判などをデジタルデータ化するプラットフォームであるといえます。モバイルやウェアラブルは、さまざまなセンサーが組み込まれた、ネットワークにつながるデバイスであり、人間の行動をデジタルデータ化するプラットフォームです。さらにIoTの普及とともに、これらは現実社会をデジタルデータ化する仕組みとして、ますます大きな役割を担うことになるでしょう。

ロボットとスマートアシスタント

 ロボットやスマートアシスタントなどのスマートマシンは、人と機械とのかかわり方を大きく変えてしまいます。例えば、話しかけるだけで仕事をこなしてくれる。こちらの意向や行動を先読みして仕事をしてくれる。安全快適にヒトやモノを輸送してくれる。このような快適な未来を実現してくれます。

 一方、これまで人間にしかできないと考えられていたことを代替できるようになれば、雇用を奪ってしまうかもしれません。そうなれば、私たちの生活はどうなるのでしょうか。政治や経済にも大きな影響を与えることになるでしょう。

 ITの進化は、人間活動の生産性を高め、利便性をもたらすものとして、私たちに大きな恩恵をもたらしてきました。スマートマシンもまた、そういう常識の延長線上に生まれてきたものですが、その進化の行き着く先は、本来主体であるはずの人間をも代替してしまうかもしれないのです。

 18世紀半ばから19世紀にかけて起こった「産業革命」も、20世紀の「自動化」も、人間の労働のあり方を変えてきたことにおいては、変わりないという考えもあります。しかし、人間が主導権を握り、コントロールしてきたこれらと、スマートマシンが根本的に違うのは、人間にしかできなかったはずの知的な活動が機械に置き換え可能になった点です。これこそが、スマートマシンが画期的である所以ですが、反面、破壊的な面も秘めているといえます。

 SIビジネスに当てはめてみれば、システムの運用や開発の多くは、スマートマシンに置き換えられていくでしょう。そうなれば、これまでの人月積算を前提とした収益構造は成り立たなくなります。この進化の潮流に抗うことはできません。ならば、このスマートマシンをうまく使いこなし、より付加価値の高いビジネスへと自らの役割を変えていくしかないのです。

 このテクノロジーは、これからのビジネスに広く影響を与え、ビジネスのこれまでの常識を大きく変えていくことになるでしょう。

コンテキストテクノロジー

 「ドアノブに手をかけるとウェアラブルとの通信でロックが解除される。寒い冬の夜、帰宅時間に合わせて室温が自分好みに調整されていた。ドアを開けると明かりが灯り、お気に入りの曲が流れ始める。風呂も適温だ。帰宅時間は、スマートフォンのGPSや電車の運行情報などから予測されていた。お好みの室温や、帰宅したらすぐ風呂に入ることなどは、室温を調整するサーモスタットや給湯器がいつの間にか覚えてしまった。一息ついてテレビをつけると、自分の好みに合った番組が録画されていて、そのリストが表示される。さあ、どの番組から見ることにしようか……」

 これは、コンテキストテクノロジーが実現した未来です。コンテキストとは、「文脈」「背景」「脈絡」の意味。この例のように、コンピュータがユーザーの事情や背景を知り、必要とするサービスを的確に予測したり、判断したりできるようになっていくでしょう。

 この動きは、ウェアラブルやIoTの普及で加速していきます。コンピュータは、もはや受け身の機械ではなく、個人を識別し、その人が無意識に望んでいるものさえも予測し、手助けするアシスタントになろうとしています。同時に、ロボットやスマートアシスタントによって、機械は日常の中により深く組み込まれていきます。

 一方で、メールで打ち合わせ日程のやり取りをしていた相手が、予定を早めて前日のフライトでこちらに到着することまで、コンピュータが気を利かせて知らせてくれたとしたらどうでしょうか。もしかしたら、秘密の恋人と会うためにこっそりと日程を繰り上げてきているのかもしれません。

 コンテキストテクノロジーは、生活を便利にし、快適にしてくれそうです。しかし、その一方で、プライバシーをどこまで提供するかは、悩ましいことです。沈黙する権利、情報を削除する権利などが正しく行使され、自らの意志でプライバシーを管理できるリテラシーが求められるようになります。


 大きなパラダイムシフトが進んでいる今、もはや過去の延長線上に未来はないことを、しっかりと受け止めなくてはなりません。私たちは、そういう時代の流れを正しく読み取り、ビジネスとしての可能性を模索していくことが、求められています。

著者プロフィール:斎藤昌義

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 日本IBMで営業として大手電気・電子製造業の顧客を担当。1995年に日本IBMを退職し、次代のITビジネス開発と人材育成を支援するネットコマースを設立。代表取締役に就任し、現在に至る。詳しいプロフィールはこちら。最新テクノロジーやビジネスの動向をまとめたプレゼンテーションデータをロイヤリティフリーで提供する「ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA」はこちら


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