一番つらくて難しいのは“根回し”目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(21)(5/5 ページ)

» 2012年10月29日 06時00分 公開
[那須結城(シスアド達人倶楽部),@IT]
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佐藤専務、最後の逆襲

 そのころ、海外出張から帰国した佐藤は、坂口・名間瀬の新体制において、西田副社長の思い通りの動きが進められていることに、心静かではなかった。

 佐藤は成田空港の到着ロビーで荷物を受け取ると、すぐさま携帯電話で営業企画部の天海部長に電話をかけた。

佐藤 「天海くん、IT企画推進室の坂口くんだが、営業企画部で欲しくないか?」

天海 「私は大歓迎です。坂口くんは現場向きなので、いずれ営業に来てもらおうと思っていましたから。でも、佐藤専務、突然どうしたんですか?」

佐藤 「いや、特に深い意味はないんだが、君の意向を確認しておきたかっただけだよ。では」

 天海は、佐藤からの突然の電話に本音で答えてしまったものの、果たして、それでよかったのかとその後もずっと考えていた。佐藤専務のことだから、何か深い意味があるだろう。もっと慎重に回答を選べばよかったと反省していた。

 佐藤は翌日出社後、秘書に人事部長を専務室に来させるように指示した。しばらくして、比留間人事部長が佐藤専務室に現れた。

比留間 「佐藤専務、お呼びでしょうか?」

佐藤 「実は来期の異動の件で、ちょっと相談したいのだが」

比留間 「どういうことでしょうか?」

佐藤 「新生産管理システムも、今期中にほぼ完成のめども付くので、IT企画推進室長の坂口くんを営業企画部に異動させたいと考えている。実は、天海部長にも意向を確認したら、大歓迎ということなので、特に問題はないかと思うんだが……。どうかね」

比留間 「それで、IT企画推進室長の後任はどう考えられているのですか?」

佐藤 「IT企画推進室の機能は、情報システム部に引き取り、解散させるつもりだ」

比留間 「佐藤専務。僭越(せんえつ)ですが、IT企画推進室は西田副社長が昨年新設された部署なので、そう簡単になくすことは許されないのではないでしょうか?」

佐藤 「だからこそ、君に相談しているんだ。人事部でうまく理由付けをして実現してくれないか」

比留間 「そういわれましても、人事部では副社長の意向に逆らうような動きはできかねます」

佐藤 「ここだけの話だが、西田副社長のポジションは、いずれ私がもらうことになるのだから、私の意向を尊重しておいた方が君のためだよ」

比留間 「……。といいますと?」

佐藤 「時期はまだ流動的だが、社長もそういう意向のはずだ」

比留間 「でも確定しないと、やはり副社長の意向に背く提案はいまはできかねます」

佐藤 「だから、営業企画部の天海部長の意向も確認しておいたんだ。営業企画部の意向で坂口を異動させたことにすればよい。そして、名間瀬くんもああいうことがあったから、IT企画推進室長に復帰させることもできないし、後任も難しい。とすると、情報システム部に引き取るというのが素直じゃないか」

比留間 「西田副社長のことを考えなければ、そういうことになりますが……」

佐藤 「その通りだ。西田副社長のことは考えなくていいのだ」

比留間 「で、でも……」

佐藤 「分かったな。それでは、人事異動案の作成よろしくな。もう、下がってくれ」

 比留間は、納得できない状態のまま、自席に戻っていった。

 既存システムの不整合を指摘された佐藤は、このままではその立場が危うくなるのではと考え、CIOとしての面目を保ち、かつ社内での地位をゆるぎないものにするための画策を始めていたのだ。

 人事部に手を回してIT企画推進室を解体し、CIO管轄の組織である情報システム部へ実質的に統合させることで、新生産管理システムの実権を自分が握ることにより、システム成功の手柄が自分に転がり込む算段にしたのだ。

 坂口らは、このような佐藤の水面下での画策を知る由もなく、修正した計画に沿って社内調整に奔走するのだった。

 一方、営業企画部の天海部長も佐藤専務からの突然の打診に戸惑いはあったが、この機会を利用して以前から目を付けていた坂口を引き抜けるかもしれないと、思案し始めていた。ただ、天海には心のどこかに引っ掛かるものがあった。

天海 「彼が営業のポジションに戻ることが、本当に彼のためになるのかしら……」


◆次回予告◆

 経営幹部の根回しを終え、システム開発の検討も終盤に入った。商品納期短縮を確実なものとするために、坂口らは再度ホテイドリンクを訪問し、新たなアイデアを手に入れる。

 一方、加藤は松嶋、谷田と女性3人で新宿で夕食会をとることに。話は弾み、そこで加藤と伊東の意外な出会いが明らかになる。また、谷田は坂口の力になれないかと悩んでいたものの、自分ができることが身近にあることに気付くのだった……。

「目指せ!シスアドの達人-第2部」の登場人物関係図

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IT企画推進室

室長 名間瀬 勝也(なませ かつや) 46歳


主任 坂口 啓二(さかぐち けいじ) 31歳


社員 伊東 敦史(いとう あつし) 24歳


今回登場メンバー
(注:SD=サンドラフト、SDS=サンドラフトサポート)

SDS アシスタント 谷田 亜紀子(たにだ あきこ) 27歳


SDS 総務部 深田 祐子(ふかだ ゆうこ) 24歳


SD 副社長 西田 義行(にしだ よしゆき) 59歳


SD 専務取締役兼CIO IT企画部長 佐藤 光一(さとう こういち) 52歳


SD 営業企画部長 天海 有紀(あまみ ゆうき) 39歳


配送センター副センター長 岸谷 小五郎(きしたに こごろう) 42歳


製造部主任 藤木 直哉(ふじき なおや) 34歳


情報システム部主任 八島 秀樹(やしま ひでき) 36歳


マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 豊若 越司(とよわか えつし) 39歳


マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 松嶋 七海(まつしま ななみ) 38歳


松嶋七海の娘 松嶋 真鈴(まつしま まりん) 10歳


ホテイドリンク 社長 布袋 泰博(ほてい やすひろ) 45歳


ホテイドリンク システムセンター長 園村 純(そのむら じゅん) 51歳


ホテイビール 社長 布袋 四郎(ほてい しろう) 70歳


情報システム部 生産管理システム担当 谷橋 章介(たにはし しょうすけ) 35歳


情報システム部 営業支援システム担当 小田切 要(おだぎり かなめ) 31歳


西東京物流センター 配送計画担当 小沢 隆夫(おざわ たかお) 39歳


松嶋七海の夫。教師 松嶋 隆史(まつしま たかし) 39歳


SD 広報室主任 加藤 三咲(かとう みさき) 27歳


SD 工場長 角野 孝三(かどの こうぞう)59歳


SD 専務取締役 松本 健(まつもと けん) 55歳


筆者プロフィール

シスアド達人倶楽部

「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者9名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。

執筆メンバー9名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。


那須 結城(なす ゆうき)

上級システムアドミニストレータ連絡会正会員。製造業勤務


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