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“勝っても赤字”の市場では戦わない、シャープが液晶事業の構造改革亀山モデルはスマホに?

» 2011年06月03日 18時09分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
シャープの片山幹雄社長

 シャープは6月3日、液晶事業の構造改革に関する説明会を開催し、価格下落が著しい20〜40インチ台のテレビ用大型液晶パネル生産からの脱却を図る方針を示した。今後はテレビやデジタルサイネージなどで成長が見込める60インチ以上の大型パネルおよびスマートフォンやタブレット向けの中小型高精細液晶パネルに注力する。「われわれの液晶事業は成長率の高い事業分野にシフトする。“勝っても赤字”の市場では戦わない」(同社の片山幹雄社長)。

 同時に発表された2011年度第1四半期の連結業績予想では、大型液晶工場の稼働停止などにより、純利益で500億円の赤字を予想。第2四半期にはスマートフォン向けなど中小型液晶の収益が改善する見通しだが、2011年度に150億円をかけて液晶事業構造を改革する。その1つの柱が、テレビ用大型液晶パネルの生産拠点としてブランドを確立している亀山第1、第2工場を中小型液晶の生産拠点に切り替えることだ。


亀山工場でモバイル向け液晶生産

 亀山第1工場では、精細度が高く、軽量という特長のあるCGシリコン液晶を生産する。シャープは三重第3工場と天理工場で同パネルを生産しているが、スマートフォンの高精細化を背景に需要が急増しており、「両工場で増産しているが、これ以上(生産量を)上げられない。亀山第1工場に第6世代マザーガラス導入のめどが立ったこともあり、来春の本格稼働を目指して生産体制を整える」。亀山第1工場では、300ppiという超高精細液晶パネルを生産する計画だ。

 一方の亀山第2工場では、新素材「IGZO」(イグゾー)を採用した液晶を生産する。IGZO液晶は、高精細かつ従来の数分の1という超低消費電力が特長で、主にタブレット端末に使用することを想定している。「これまでは大きなマザーガラスで生産できるかが課題だったが、第8世代で製造するめどが立った。2011年度後半から段階的にテレビ用液晶からIGZOへの転換を図っていく」。亀山第2工場における40インチ以下のテレビ用液晶パネル生産は、2011年度中に従来の約6割、2012年度には約2割にまで引き下げる予定だが、「AQUOSの需要が増えればフレキシブルに対応する」としている。


30〜40インチ台は海外メーカーから調達

 構造改革のもう1つの柱となるのが、60インチ以上の大型液晶パネルの増産だ。シャープは世界で唯一となる2880(幅)×3130(高さ)ミリの第10世代マザーガラスを採用した堺工場を持っているが、「ここ数年、40インチをメインに製造してきた。しかし18枚取りでも赤字になり、割が合わない」(片山氏)という。

 一方、60インチ以上の液晶パネルは、北米を中心とする大型テレビ需要にくわえ、デジタルサイネージや電子黒板といった“ノンTV市場”が形成されつつあり、2011年度は全世界で1400万台に達する見通し(DisplaySearchによる50インチ以上FPDの需要予測)。「第10世代マザーガラスを用いれば、60インチで8枚、70インチは6枚と効率よく生産できる」。


 生産体制のシフトによって足りなくなる30〜40インチ台の液晶パネルについては、技術供与した中国や台湾のメーカーから調達する構えだ。「南京のG6工場は7月からテレビ用液晶パネルの生産を始める。また台湾の一部メーカーにはUV2A技術を含め技術移転を行っており、夏ごろには供給が始まる見通し」(片山氏)。海外企業とのアライアンスにより、新興国市場にコスト競争力のある製品を投入する戦略だ。


 成長分野にリソースを集中投下し、オンリーワン技術を作り続ける。一方でコスト競争の激しい分野では技術的な強みを維持できる海外企業との提携を模索する。液晶事業の構造改革は、同社が提唱する“スパイラル戦略”をなぞったものだが、片山氏は「ここ数年、それができていなかった」と振り返った。

 「大震災や原発事故など、事業環境は予断を許さない状況だが、スマートフォンなどポジティブな動きも顕在化している。事業環境の変化を的確に捉えて事業拡大につなげていきたい」(片山氏)。

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