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スマートテレビの本命? 「HybridCast」技研公開2012

» 2012年05月22日 23時41分 公開
[ITmedia]

 恒例の「NHK放送技術研究所一般公開」が5月24日(木)〜27日(日)に行われる。技研公開は、放送技術分野では国内唯一の研究機関であるNHK放送技術研究所が、1年間の研究成果を一般に公開するイベント。66回目を迎える今年は、先月発表した145インチのスーパーハイビジョン(SHV)用プラズマパネルや放送通信連携サービス「HybridCast」など、36の研究成果を披露する。

145インチのスーパーハイビジョン用プラズマパネル(右)

3カ年計画に開発ロードマップを明記

 開催に先だって行われたプレスプレビューでは、4月25日付けで所長に就任したばかりの藤沢秀一所長があいさつに立ち、完全デジタル化後の放送サービスの展望を語った。「3月末には(震災の影響で移行を延期していた)東北3県もデジタル化が完了した。完全デジタル化後の放送サービスの充実に向け、放送と通信が連携したサービスをはじめ、それに続く夢のある放送サービスを実現する技術、人にやさしい放送技術などの研究成果を紹介する」。

4月末に着任したばかりの藤沢秀一所長

 またNHKの3カ年計画に合わせて策定した「NHK技研3か年計画」に触れ、2013年頃の「HybridCast」、2020年頃に「スーパーハイビジョン」、2030年頃の「空間像再生型立体テレビ」という開発ロードマップを明らかにした。昨年までの「10年後、20年後」といった言い方に比べ、より具体性のある目標を掲げたことになる。藤沢氏は、「HybridCastやSHVを実用化する上で必要な技術は多岐にわたる。タイミングを誤ることなく、それぞれのフェーズを進めていくことが所長の役割」と意気込みを語った。なお、一般公開の初日となる24日には藤沢氏による講演会「2012〜2014年度NHK技研3か年計画」が行われる予定だ。

業界を巻き込んだ「HybridCast」の動き

 技研公開では、展示に3フロアを使用するが、このうち1階ロビーのもっとも目立つ場所に設けられていたのが放送と通信の融合を目指す「HybridCast」関連の展示だ。

「HybridCast」関連の展示

 HybridCastが初めて展示されたのは2010年。当時は「放送通信連携IPTVサービス」という名称で、デジタル放送を視聴しているときに「d」ボタンを押すと、関連するオンデマンドコンテンツのリストにアクセスできるというものだった。このコンセプトは、今年4月に「もっとTV」という形で実用化されている。

 昨年(2011年)は、テレビ放送とインターネット経由で取得したデータを同期できる技術を生かしたアプリケーションを展示。放送ではまかなえない多言語の字幕表示や、番組の進行に合わせた関連データの表示といった使い方をアピールした。また、急速に普及しているタブレット端末やスマートフォンをセカンドスクリーンとして、手元で操作や情報の取得を可能にしたことも特長だ。「テレビの弱点はユーザーインタフェース。それを補完してくれるのがタブレット」(担当者)。

 今年は、新たに端末(テレビやSTB)にHTML 5のブラウザを搭載することで、放送画面に重ねるグラフィックの表現力を格段に向上させた。さらに注目は、国内家電メーカー5社(ソニー、パナソニック、シャープ、東芝、三菱電機)が対応端末の試作機を開発し、WOWOWやフジテレビがHybridCastの試作コンテンツを展示していること。業界を巻き込んだ動きになったことが分かる。

 展示コンテンツもユニークだ。例えば番組の進行に合わせ、視聴者にタブレットで問題を出すインタラクティブな外国語講座。サッカー番組では、ロング(遠景)でとらえたフィールド上に選手の名前が表示され、個々の動きがよく分かる。ネットで取得した情報という点は同じでも、テレビ画面へのオーバーレイとタブレットへの表示を用途によって使い分けている。

語学学習番組の例。番組に連動してタブレット上にエクササイズが表示される

WOWOWはサッカーを素材に関連ツィートをテレビ画面に表示したり、直前の見どころをタブレット上で確認するといったデモを披露

 フジテレビは、CMの新しい試みとして視聴者向けのプレゼントクイズを試作した。一般的に1時間番組なら4回以上はCMが挟まれるもの。それを利用し、まず最初のCMでプレゼントクイズの告知を行い、手元のタブレット端末で“登録”してもらう。「登録できるのはCMが流れている中だけ。次のCMで問題を出し、次で“回答”を受け付ける。最後のCMで“応募”してもらう」(説明員)。

フジテレビのCM連携サービス

 回答は番組を見ていれば分かるため、プレゼントに応募したい視聴者は、ずっと同じチャンネルを見てくれるという仕組み。HybridCastのデータ部分は録画できないため、放送局としてはリアルタイムの視聴者を増やせるメリットがある(録画には残らないがVoDには対応する)。

 一気に動き出した感のあるHybridCast。現在はIPTVフォーラムで国内標準化の作業を進めており、今月中には概要をまとめる予定。年度内に仕様としての「Ver.1.0」策定を目指しており、順調に進めば技研のロードマップ通り、「2013年頃実用化」にもメドが立ちそうだ。「まだ機器認証や課金方式などの課題はある。なによりビジネスモデルの検討などに手間がかかるだろうが、しっかりと進めていきたい」(説明員)。

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