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目指したのは“神の領域”の高画質――ソニーの4K/HDRテレビ向け新技術「Backlight Master Drive」開発者に聞く(2/2 ページ)

» 2016年01月07日 20時06分 公開
[山本敦ITmedia]
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 一般の液晶テレビは全画面でLEDバックライトのレベルは固定されているが、ソニーが2年前に発表し、以降ブラビアの上位機種に搭載してきた高画質技術「X-tended Dynamic Range PRO」(XDR)では、映像の暗部レベルをローカルディミングにより下げ、そこで稼いだ電力を映像の明部に集約させて輝度を高めるという手法を既に完成させていた。新しい技術の「Backlight Master Drive」では、このXDRの技術を足がかりとして消費電力のバランスを制御しながら、さらに人間の視覚特性を逆手に取って、パネルの分割数を“Pixel by Pixel”の精度にまで持っていかなくても、それと同等の高い輝度感、コントラスト感をが得られるレベルにまで到達させることに成功した。

ブースでは左側の従来の4K/HDR対応液晶テレビと映像の比較デモを行っている

 今回CESで発表されたデモンストレーション用の実機は、パネルの輝度が約4000nits。小倉氏は「ハリウッドでいま、4K/HDRのコンテンツを4000nitsを1つのターゲットに設定して作り始めているので、当社もこれを目標とした」と語っている。実際に今後、同技術を搭載したテレビを市販化する際、同じ4000nitsに落とし込むことができるのか、あるいはそれが必要なのかという議論について、長尾氏は「一方では4000nitsのピーク輝度はまぶしすぎるという見解もあるため、これから商品化を検討していく中で判断したい」と答えた。

液晶をスルーして、ほぼバックライトをそのまま視聴している状態に近くしたデモンストレーションの映像(写真=左)。実際の映像と比べてみると、驚くほど緻密なバックライトコントロールを行っていることが分かる

 なお、今後の商品化のロードマップについて、CESの会場で具体的なプランが示されることはなかったものの、小倉氏は「今回の技術を開発したのは当社の商品設計チーム。だから商品化を忘れて、単に技術で遊んだというショーケースでない」と強調。「あくまで現実のテレビとしての商品化線を念頭に置きながら、液晶テレビとして、ソニーの業務用マスターモニターである『BVM-X300』が実現した“神の領域”の映像に近づけることを狙っている」とコメントしている。続けて長尾氏は「ハイエンドの商品化をベースに検討しているが、今回のCESで出展したことによって得た反応も見ながら、リリース時期は熟考したい」とし、具体的な時期については明言を避けた。

高画質で知られるソニーの業務用4K有機ELマスターモニター「BVM-X300」

 なお、今回ブースに展示された試作機は85インチの4Kパネルを搭載している。画面サイズのフレキシビリティについてもある程度は確保されているようだが、例えばこれよりもさらに画面を小型化すると、バックライトLEDの密度がさらに上がるので、熱処理の問題が発生する可能性も出てくる。また「コントラスト感や輝度感において、現サイズのプロトタイプと同じ効果が得られるかについても検証が必要になるだろう」と長尾氏は説明している。

 ソニーのブースでは新技術の「Backlight Master Drive」を搭載する試作機と、同じサイズの従来技術を採用した4K/HDR対応テレビとの映像比較も公開されている。その画を見比べると違いは歴然。明暗の鮮烈なコントラスト感だけでなく、色合いの正確さとリアリティーは従来のテレビの常識を覆すレベルに到達していると評価して差し支えのない出来映えだった。本技術が搭載されるブラビアの商品化に関するアナウンスも待ち遠しいところではあるが、まずはこの映像が日本国内で多くの人々の目に触れる機会が一日も早く実現してほしいものだ。今年のCESはまだ始まったばかりだが、後から振り返って最も記憶に残るトピックスになることは間違いないだろう。

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