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これぞイノベーション、“音のバリアフリー”を実現する「ミライスピーカー」の仕組みと未来(2/2 ページ)

» 2017年04月18日 06時01分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]
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 一般的に加齢性難聴は、加齢や生活習慣などにより、言葉の聞き分けに重要な役割を果たす“高い音を感じ取る細胞”が減ってくるために起きる。このため、聞こえにくくなる高音が遠くまで届くという特徴は大きなメリットになる。そして倍音は、音の音色を決め、聞き取りやすさを左右する重要な要素。倍音が少ない楽器は「輪郭のぼけた音」で、倍音を多く発する楽器は「はっきりした、よく通る音」といわれている。例えば“良く通る音”とされるサックスやヴァイオリンは、倍音を多く出す楽器だ。さらに加齢性難聴には、鼓膜には音が届いているにも関わらず、脳への伝達に障害が生じて言葉などを理解しにくい“感音性難聴”と呼ばれる症状もあり、複雑な倍音や高調波振動による“時間的な音の厚み”が音を認知しやすくしている可能性も否定できない。

Curvyの試作機

 同社が老人ホームなどで実証実験を繰り返したところ、難聴者の約8割が「聞こえやすい」と回答。「自分の耳で聞こえた」「補聴器を外しても聞こえる」といった喜びの声を聞くことができたという。

 また、200〜300人が入るようなセミナー会場にミライスピーカー(20W出力1台)を設置した結果、スピーカーの近くでは従来のスピーカーとあまり差は出ないものの、後列に行くほどミライスピーカーのほうが明瞭に聞こえるという結果が出た。通常のスピーカーでは、遠くの人に声を届けようと思えば音量を上げることになるが、それでは近くの人はうるさいと感じてしまう。しかしミライスピーカーなら音量を抑えても遠くの人まで声を届けることができる。これは、健聴者に対しても有効であるということだ。

音のバリアフリーを目指す

 このような特徴を持つミライスピーカーは、既にビジネス分野でいくつもの成果を上げている。例えば羽田空港、銀行や証券会社といった大手金融機関、介護施設などではミライスピーカーを常設しているケースが増えてきた。2016年4月に施行された、いわゆる「障害者差別解消法」(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)により、官民共にバリアフリーへの対応が求められる状況となったことも後押しした。今後は、シーリングスピーカー(天井埋め込み型)やATM機器への組み込みを想定した小型・軽量化への技術開発にも取り組み、適用範囲を拡大する方針だ。「小型化に向けた技術開発のメドは立っている」(佐藤氏)

次世代モデルとして紹介された「Filmo」(フィルモ)。圧電フィルムを採用した製品で、バックパネルにフレキシブルな有機ELパネルを組み込めば音だけではなく視覚情報も同時に伝達できる仕組み

 一方で民生用として普及させるには価格がネックだ。新製品のCurvyも税別で22万円と気軽に手を出せる価格ではない。「今は(開発と製造が)手探りに近い状況なので高コストになっています。現在とは異なる構造の検討、あるいは量産体制を整えることで価格も下げられるとは思いますが、公共性の高い場所への導入を進めているため、同時に進めることは難しいです」

 その代わり、ミライスピーカーの技術を部材の形(スピーカーユニット)で他社に供給するプランも検討中。実現すれば、スピーカーシステムとしての低価格化やバリエーションの拡大にも期待できるだろう。「サウンドファンの理念は『音で世界の人を幸せにする』こと。そのために1つずつ解決していこうと考えています」(佐藤氏)

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