え? もう新車?──JR東日本が急ぐ、「新・山手線」投入のワケ杉山淳一の時事日想(5/5 ページ)

» 2014年07月11日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]
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メンテナンス性と静粛性の向上

 しかし、この程度の変更なら、E235系という新形式ではなく、E233系の改良版、製造番号○○番台としてもよさそうだ。例えば相模線の205系。山手線の205系とは顔つきも違うし、半自動扉を設置するなど、かなり異なるのだが「205系5000番台」である。南武線には2014年7月からE233系8000番台が導入される。

 もっとも、E233系は番号を使い尽くしたという印象もある。あるいは、もとよりこれ以上派生版を作るつもりはなく、もっと早くから山手線でデビューさせる次世代車両の設計を始めたといえる。

 そして、E235系という新形式が与えられた理由は、外見では分からないところにありそうだ。JR東日本のプレスリリースを読むと、技術的な点で、あと二つ興味深いところがあった。

photo JR東日本のプレスリリース(http://www.jreast.co.jp/press/2014/20140701.pdf)からE235系の改良ポイントに赤線を引いてみた。乗客から見えないところに改良点が多い

 一つは、モーターが外気冷却方式から熱交換方式になった。モーターはかなり発熱するから、冷却が大切。従来のモーターは冷却のための空気を導入する開口部を設置していた。この方式は水滴やチリがモーター内部に入り込んでしまう課題がある。E235系は「全閉外扇型誘導電動機」を採用した。モーターを密閉し、外側に多数の扇形の板(ヒートシンク)を取り付けて、それで放熱する。モーターのメンテナンス性を向上させ、耐久性を上げるだけではなく、静粛性にも貢献しそうだ。E235系はE231系より静かだといえそうだけど、どうだろうか。

 また、空気圧縮機が潤滑油を使わないタイプになった。電車はブレーキ系統で圧縮空気を使っている。昔は停車中の電車が「コンコンコン……」と音を出していた。あれが空気圧縮機(コンプレッサー)の動作音だ。機械だから潤滑油が不可欠。また、油自体が油膜となり、空気の漏れを防いだ。ただし、注油タイプのコンプレッサーは圧縮空気を吐き出す時に、油の微粒子が混じってしまう。

 E235系の空気圧縮機は可動部分、軸受けに複合樹脂を使い、取り付け部の構造を工夫して気密性を高めた。潤滑油を使わないから、圧力を弱めたときに、油の粒子が混じった空気をまき散らさなくて済む。環境に優しいと言える。

 IT系技術では、現在の山手線のE231系にはない(E233系以降に搭載された)車両状態監視機能が追加され、電源系統や制御信号系統の二重化も実施された。さらに、地上設備状態監視機能が追加されている。そして上記の新型モーターと新型コンプレッサーが採用された。もしE231系を大事に使い続けたら、こうした新技術の搭載はもっと遅かった。

 電車は私たちの日常を支える乗り物だ。それゆえに、社会情勢や新技術に対応する必要がある。新型電車には鉄道会社から社会へのメッセージも感じられる。自動車の新車情報と同じように、新型電車登場のニュースから世相の変化を見通すのも、意外と楽しい。

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