なぜ、名古屋の地下鉄で携帯は禁止になったか(2/2 ページ)

» 2004年04月06日 15時35分 公開
[杉浦正武,ITmedia]
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 同報告書は、今回問題視されている「携帯電話が、心臓ペースメーカーにどの程度悪影響をおよぼすか」を実験したもの。800MHz/1.5GHzのPDC、W-CDMA携帯電話が、“どれほどの距離でペースメーカーに干渉するか”を割り出している(具体的な数値は、総務省の報道発表参照)。

 それによると、800MHz帯PDCの最大干渉距離は、実機を利用した場合で11.5センチ。1.5GHzPDCでは、実機で4センチという結果だった。安全マージンなども考慮すると、総務省が従来から通告している「(携帯電話は)植込み型心臓ペースメーカから22センチ以上離すこと」という指針が、適切と確認された。

 同じ報告書で、W-CDMAはどうだったか。「最大干渉距離は、(中略)実機で1センチであった」(報告書より抜粋)。つまり、ペースメーカーを装着するユーザーの肉厚程度の距離があれば、干渉はうけないことになる。これなら、混雑した電車で利用しても(マナーの問題はさておき)安全面の問題はない。

 このため、「2GHzのW-CDMAは改札、ホームともにOKとなり、工事もかなり進んでいる」(吉原氏)とのことだった。

「携帯とペースメーカー」〜めぐり分かれる意見

 今回の名古屋市交通局の要請をめぐっては、意見が分かれるところだろう。地下鉄ホームでPDC方式の携帯利用を禁止することは、ユーザーの利便性を損なうことは間違いがない。

 とはいえ、「密着した車内で、万一のことがあったらどうするのか」という名古屋市交通局の主張も、もっともだ。トンネル協会の吉原氏も、「『地下鉄では携帯を禁止するのが当たり前。ペースメーカー利用者にとっては、不安でしかたがない』という意見も、しばしばいただく」と話す。

 この議論の難しさは、各地域の道路交通局でも判断が分かれているところにも現れている。現時点で東京、大阪の道路交通局は、すぐにもPDC方式の携帯利用をホームで禁止させようとする措置はとっていない。ただ、関東の17事業者は共通の利用ルールを作成し、「優先席付近では携帯電話の電源を切る」よう、利用マナーに協力するよう呼びかけている(2003年8月の記事参照)。

 携帯電話とペースメーカーの問題をめぐっては、医療機関でも対応が分かれている。

 福岡市の九州大学病院では、昨年10月に院内での携帯電話利用を認めた。入院患者の心情や外来患者の利便性などを考慮し、メリットが大きいとして「使ってもいい、という消極的解禁」(同病院)を行ったという。

 「循環器内科や心臓外科の医師に確認し、ほかの大学病院へのアンケート調査なども実施した結果、ペースメーカーと携帯の距離が30センチ離れていれば、まず問題ないと確認できた」(九州大学病院、患者サービス部患者係)

 集中治療室(ICU)や手術室ではさすがに利用を禁じたままだが、そのほかの場所では利用されている状況。今のところ、特に問題は生じていないという。

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