TD-CDMAの「帯域独占議論」イー・アクセスの答えは?Interview

» 2004年04月23日 14時46分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 TD-CDMAに割り当てられると見られる2010〜2025MHz帯で、通信事業者を2分した議論が行われている。アイピーモバイルとソフトバンクBBは、4月19日の情報通信審議会で「15MHz幅の帯域は、1社に独占させるべき」と主張した。一方、21日にTD-SCDMA(MC)方式の実験開始を発表したイー・アクセスにとって、TD-CDMAでのインフラ共通化は“飲めない話”のはず。これが新たな火種になりそうな雲行きだ。

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 この議論をイー・アクセス側はどうとらえ、どんな主張を展開するつもりなのか。同社のTD-CDMA技術のキーマンである、新規事業企画本部長 兼 技術部長、諸橋知雄氏に話を聞いた。

アイピーモバイルの資料は「精査する必要あり」

ITmedia 先日のIMT-2000技術調査方策作業班(技術作業班)、第4回会合ではアイピーモバイルが「1社独占の方が周波数の利用効率がいい」との調査結果を公開しました。この会合には諸橋さんも出席されていましたが、これをどう見ましたか。

諸橋 実は、にわかには資料を理解できなかったため、あの場では質問を行わなかった。

 あの資料を見ると、3社が5MHz幅のサービスを提供すると、90万×3人しか収容できず、1社が15MHz幅のサービスを提供すると590万人を収容できることになっている(4月20日の記事参照)。しかし、同じ15MHz幅の周波数を、3社に分割するだけで収容人数に2倍以上もの開きが生じるのは、いかにも不思議な話だ。

 アイピーモバイルは「次世代移動通信方式委員会」が1999年9月27日に行った答申を元に算出したようだが、こちらでもその文献を調べて、計算したいと思っている。先方の主張は、精査する必要がある。

ITmedia そもそも“1社に独占させる”という発想自体、どういう印象を持ちますか。1社がインフラ運営を任され、ほかの企業にMNVOなりホールセールなりのかたちで帯域を提供してはどうかとの提案もありますが。

諸橋 その場合は、健全な市場形成のために(独占事業者に対して)規制をかけていくことになるが……。そういう形態になる可能性が全くない、とはいえないが、考えにくい。

 NTTのように100年の伝統ある企業が(電話回線のインフラを)独占するのは別として、新規で複数企業が参入しようというときに1社にインフラをまかせるのは、私の知る限りかつて聞いたことがない。

ITmedia 仮に「1社が独占する」ことに決まり、TD-CDMAでインフラ基盤を共通化することになると、イー・アクセスが提唱する“より進化した方式”(*下囲み参照)であるTD-SCDMA(MC)は排除されることになる、と考えてよいでしょうか。

諸橋 そうなるだろう。逆にTD-SCDMA(MC)で共通化すると、通常のTD-CDMAサービスは提供できない。技術作業班は本来、技術の検証を行うためだけに開催されるもののはず。なぜ今の段階でそういった(片方の排除につながるような)議論になるのか分からない。

周波数利用効率から見た、TD-SCDMA(MC)

 イー・アクセスは過去の技術作業班で、TD-SCDMA(MC)の技術上の優位性を発表している。


スループットのシミュレーション結果。TD-CDMAのHSDPA版と比較しても、TD-SCDMA(MC)の方が優れた値になる(クリックで拡大)

 それによると、実環境に近いマルチセル/マルチパス環境下でTD-CDMAとTD-SCDMA(MC)を比較した場合、1基地局あたりのカバーエリアあたりのスループット(いわゆるセクタースループット)は上りで4.4倍、下りで2.3倍の開きが出た。

 1ユーザーが月間1Gバイトのデータ通信を行うと考えた場合、TD-SCDMA(MC)では5MHz幅あれば1000万ユーザーを収容できるのに対し、TD-CDMAでは20MHz幅が必要になる。この結果をそのまま認めれば、イー・アクセスとして“インフラ基盤を共通化するなら、周波数利用効率のよいTD-SCDMA(MC)で”という主張もできそうだ。

 なお、上記のシミュレーション結果では、TD-CDMA側ではスマートアンテナの影響を考慮していないという違いがある。「技術作業班で、TD-CDMAのメーカーがスマートアンテナの技術をインプリメントする予定がないといっている」(諸橋氏)のがその理由。一方、TD-SCDMA(MC)は技術仕様として当初からスマートアンテナ導入を想定していることもあり、その影響を考慮している。

 ただし、「TD-CDMAにスマートアンテナ技術を加えてシミュレーションをやり直しても、TD-SCDMA(MC)の結果には及ばなかった」(同)。

ITmedia 「1社独占」にするか否かを議論する以前に、そもそもそうした議論を行うべきでないということでしょうか。

諸橋 周波数を1社独占にするかどうかを取りざたする前に、まずどういうサービス・アプリケーションを提供するか考え、それに周波数の議論が付随してくるべきだ。

 たとえば、仮にTD-CDMAで携帯電話のようなサービスを提供するなら、そのサービスはどのくらいの市場規模があって、どのくらいのユーザー数が見込めるのか、競争条件を確保するには、何社が競争するのが望ましいか。世界各国で、どのくらいの事業者が携帯電話サービスを提供するのが適当と思われているかも、重要なファクターだろう。

 こうしたことを多角的に検討して、事業者数を決めるべきで、最初から「周波数帯の利用効率」を追い求めて1社に絞るべきでない。

 何よりも、まだソフトバンクBBもイー・アクセスも技術調査をしているところ。興味は持っているが、お互い「TD-CDMAの商用サービスを提供する」と明言したことは一度もないはずだ。この段階で周波数帯の議論をするのは、時期尚早といえるだろう。

(文中敬称略)

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