「多機能ながらコンパクトに」「ほかとは違う個性的なデザインに」──携帯電話に求められる要求は高くなる一方だ。
そんな中、開発現場の話を聞いていてよく話題に上るのが、デザイナーと機構設計者との攻防。高い要求を満たすために尽力しているのは両者とも同じだが、「どこで折り合いをつけるか」が問題だ。開発期間やコストが限られている携帯電話では、それも重要な要素になる。
日立製作所の「W22H」(11月16日の記事参照)もこの例に漏れず、現場では激しい攻防が繰り広げられたという。しかし、当時の様子を話す開発陣のやりとりはいたって和やか。デザイナーがツッコミを入れ、機構設計者がぼやくという、漫才のような流れで話が進んだ。
「どこまでやれば気が済むのか」と、機構設計者をぼやかせたW22Hのこだわりを、順に見ていこう。
まずこだわったのは、着信ランプの光り方だ。最初にリリースした「W11H」(10月22日の記事参照)は背面のカバーの下からライトを光らせ、「優しくやわらかい光」を演出。W22Hはスライド部分を光らせることで、間接照明のような効果を狙った。
LEDは上面の方向キーの裏側に1個装備され、導光板で光が広がるようにしている。「最初に取り付けたときは(光が)点みたいに小さかった。もっときれいに光らせてほしいと頼んだ」(日立製作所ホームソリューションデザイン部の専門デザイナー、岩間徳浩氏)。
しかし「導光板を付けても、なかなかうまく広がってくれなかった」とカシオ日立モバイルコミュニケーションズ開発設計本部の下山田和郎氏。そこで導光板にギザギザを付けて光が広がるようにした。「乱反射させながらも、光を下側に集めなければならない。そうしないと余計な光が周りに拡散してきれいに光らない。反射のさじ加減が難しい」(カシオ日立モバイルコミュニケーションズ開発設計本部の下山田和郎氏)。
きれいに光らせるための工夫はほかの部分にも及ぶ。ダイヤルキーを取り囲むUの字の部分は、スライドの滑りをよくしたり、滑らせたときにキズがつかないようにするためのものだが、ここにも光を反射させる処理を施した。「鏡面のような処理をしている。この部分もうまくデザインの一部にして光を効果的に拡散させた。これがなかったら、隙間の黒い部分がきれいに光ってくれない」(岩間氏)
W22Hはバネを使った「スライドアシスト」機構を備えているが、さらにスライド部分の見映えや手触りにも配慮している。「折りたたみ型と変わらないダイヤルキー面のレイアウトとハンドリングには気をつかった」(岩間氏)。
多くのスライド端末は、側面からくわえ込むような形でスライドさせているが、「この機構では側面にレールが来てしまい、ハンドリングするときに違和感を覚える。脇にレールがあるのは避けたい」(岩間氏)。
「“指にレールが触るのはやめて”といわれても……どうするのかというところで、悩みが始まった」(下山田氏)
下山田チームは裏面にスライド用のレールを持っていき、そこで端末をくわえる仕組みにすることで解決。金属のレールとジュラコンというすべりのいい素材を組み合わせることで、滑り具合も改良した。
しかしデザインチームからは、さらなる指示が。
「最初は金属のレールがむき出しになっていた。これは人でいえば内臓が見えているのと同じ。裏面は使っているときに外に見える部分なので、色を変えてほしいと」(岩間氏)
「注文が多いんです……」(下山田氏)
ボディを斜めにカットする「スラントスライディング」機構がW22Hの大きな特徴。開いたときに重なる部分が薄くなり、文字入力操作がしやすくなるというものだ。
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