ドコモの「プッシュトーク」、そしてKDDIの「Hello Messenger」。この冬の携帯新機能の目玉が“プッシュ・ツー・トーク”(PTT)だ。携帯電話のパケット通信を使い、音声を送信する(VoIP)。パケット通信を使うため、定額への対応が容易だったり、複数人数での通話が可能だったりといったメリットがある。一方で、回線をつなぎっぱなしにする通常の音声通話と違い、1〜2秒の遅延が発生したり、同時には話せない半二重通信であったりという特徴がある。
プッシュトークが音声を中心とした機能なのに対し、Hello Messengerは文字チャットが中心だという違いはある。ただし、トランシーバー的なPTT機能については似たところが多い。両者のPTT部分を比較しつつ、それぞれの特徴を探ってみよう。
2社のPTT機能のみを取り出してまとめたのが下の表だ。料金体系やプレゼンスなどの違いはあるが、参加人数や遅延秒数などはほとんど変わらない。
実はここで注目したいのは割り込み処理だ。つまり、PTT動作中に、メールが届いたり、電話がかかったりするとどうなるか。ここに大きな違いがある。
サービス | Hello Messenger | プッシュトーク |
電話着信 | 着信しユーザーが選択 | 着信か着信拒否かユーザーが選択 |
メール着信 | WIN端末では画面上部にメールアイコンが表示される。ただしバックグラウンド受信はしない | 圏外と同じ扱い。メールは受信できない |
切れるまでの時間 | 60秒 | 30秒 |
参加人数 | 5人 | 5人(プラスでは最大20人) |
音声料金 | 2秒/1.05円 | 1回(最大30秒)/5.25円 |
音声定額制 | 非対応 | 1050円/月(プラスのみ) |
遅延 | 1〜2秒 | 1〜2秒 |
専用ボタン | なし | あり |
音声以外 | 文字、写真 | なし |
プレゼンス | なし | あり(プラスのみ) |
うまく割り込みを処理しているのはKDDIのHello Messenger。電話が着信した場合、着信が画面に表示されユーザーが電話に出るかどうかを選べる。出た場合、Hello Messengerは終了するが、ほかのメンバーが会話を続けていれば戻ることもできる。受けなければHello Messengerはそのままだ。
一方ドコモのプッシュトークのほうは、あらかじめ設定しておいた「留守番電話」「転送電話」「着信拒否」「通常着信」からの選択となる。
メールについても、WIN端末であれば画面上部にメールアイコンが表示されるHello Messengerに対し、「圏外と同じ扱い。メールは受信できない」(ドコモ)と、プッシュトークは厳しい状況だ。
割り込みが柔軟なKDDIだが、ことPTT単体の使いやすさでいうと、ドコモのプッシュトークに軍配が上がる。
プッシュトークは、
というように、普通の電話に近い使い方が可能。通常の音声通話であれば発話ボタンを押して発信したり着信を取ったりするところを、側面のプッシュトークボタンを押せばいい印象だ。
一方KDDIのHello Messengerは、まずHello Messengerアプリを立ち上げないとPTTが利用できない。携帯電話内のアドレス帳から直接、また発着信履歴から直接──といったかけ方はできない。アプリを立ち上げずに利用できるのは、唯一「ペア機能」からだけだ。文字ベースのチャットサービス「おしゃべりモード」(サービス終了)が、さまざまなメニュー内の電話番号から自在に呼び出せたのに比べると、使い方は限定される。
プッシュトークのようなPTTサービスで、課題として挙げられるのが「誰がどんな状況で使うのか」といったニーズの見極めだろう。ドコモが発表会で挙げたのは、「スキー場で……みんなで別々に行動していても、一度に連絡できるから便利」「旅行先で……別々の車に乗った仲間とも同時に話すことができる」というものだ。
トランシーバーであれば常に接続された状態であり、ボタンを押しさえすれば通話が可能になる。受けるほうは何もしなくても相手の声が聞こえてくる。ところがプッシュトークのようなPTTの場合、まず呼び出し音が鳴って、接続してからでないと通話は無理だ。いったん切れてしまったPTTは、環境にもよるが再び呼び出してつなぐまでに数秒の時間がかかる。発表会場などで試したところでは、普通に電話したほうが早かった。つまり、いったん切れてしまえば、電話をかけるのと手間や時間的にあまり違いはない。
ここで気になるのはいったん接続してから切れるまでの時間だ。KDDIのHello Messengerは無通信60秒で接続が切れる。ドコモのプッシュトークは30秒だ。つなぎ続けるには、割と頻繁に通話する必要があることが分かる。
両キャリアによると、この接続が切れるまでの時間もPTTを実装する上で微妙に調整した点だという。接続中はパケットこそほとんど流れないものの通信はつながっており、ある程度の無線帯域を占有する。技術的には1時間つながり続けるといったことも可能だが、電波の余裕などとのバランスを見たということだった。
今後、PTTが法人向けに利用される際には、タクシー無線や工事現場の無線、また要人警護のシークレットサービスがイヤフォンマイクで会話するようなシーンが想像される。この場合も接続時間がどう設定されるかは気になるところだ。
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