割引特典が相次ぎ縮小──キャリアが提供する「会員カード」の光と影韓国携帯事情

» 2006年07月04日 10時05分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 携帯電話キャリア各社がユーザーに提供している「会員カード」は、映画館やレストランでの割引、会員限定施設への出入りなど、さまざまな場所で恩恵を受けられることから、韓国ユーザーの必須アイテムとなっている。しかし最大の恩恵であるはずの割引サービスが、ここに来て中断/縮小される事態が相次いでおり、波紋を呼んでいる。大きな魅力だった会員カードだが、ここに来て壁にぶつかった格好だ。

最も魅力的だった映画の割引が中止に

 韓国で映画を観賞する際の料金は、たいていの場合7000ウォン(約840円)だ。ただし携帯電話の会員カードに加入している人の多くは、ここから1500〜2000ウォン(約180〜240円)程度割引してもらえる。映画代が約2〜3割程度安くなるこの割引は小さいようで大きく、会員カードによる恩恵の中でも特に利用者が多い。

 ところが、ここに来て一部の映画館で割引が受けられなくなってしまった。韓SK Telecom(以下、SKT)、韓KTF、韓LG Telecom(以下、LGT)の3社が、7月からソウル地域の大型映画館(シネマコンプレックス)での会員カード割引を中止すると発表したのだ。

 それは「ソウル特別市劇場協会およびそれに所属している劇場が、会員カードでの映画割引の中断を伝えたため」とSKTなどでは説明している。同協会ではキャリアに対し、これまで1500〜2000ウォンだった割引料金を1000ウォンに縮小すること、その割引料金はキャリアが全額負担することを要求してきた。これに対しSKTでは、映画館以外の提携会社の割引をキャリアが全額負担していないことから、これを受け入れがたいとし、対立状態が続いていた。

 結局話し合いが決裂したため、映画の割引は7月1日から適用されないこととなった。キャリアはWebサイトやダイレクトメールなどを通じて加入者に告知し、謝罪する予定だ。ここまでしなければならないほど、映画の割引というのは会員カードサービスの中でも人気が高く利用者も多かったわけだ。

 それだけに、キャリアも今後一切映画割引をやめるというわけにもいかない。スクリーンが複数ある大型のシネコンでは割引を提供できなくなったものの、そのほかの劇場と個別に契約を交わすことで1000ウォンの割引を行っていく予定だ。最も人が多く集まる大型劇場で割引が提供されなくなったというのは痛い話だが、それでもまったく割引がなくなるよりはましというわけだ。

Photo LG Telecomによる映画割引中止の告知。

会員カードが町のパン屋の経営を圧迫

 昨年10月、中小のパン屋が結束した「移動通信社提携カード廃止および生存権保護製菓人非常対策委員会」が、SKTの会員カードを利用した場合に受けられる、特定のパン屋チェーンでの割引が、不公正行為にあたるとして公正取引委員会に提訴した。

 SKTと会員カード割引で提携しているパン屋チェーンが、市場占有率50%を超えているにも関わらず、会員カードさえ提示すれば20%程度の割引をしていたことが、公正取引法に違反するというのだ。しかもパン屋だけでなくSKTも市場占有率50%を超える韓国最大のキャリア。割引を受けようとパン屋チェーンの常連となる会員の数も自然と多くなる。

 こうした状況が、チェーン店ではない個人経営のパン屋を深刻な経営難に陥れたと同委員会は主張する。「顧客確保の名目の下に利用される会員カードが、携帯電話市場と関係のない製菓市場にまで影響を及ぼしている」と現状を訴えた。

 パン屋での割引も映画館と同様、広く普及しているサービスだ。映画館よりも利用場所が多く、日常的に使うサービスとして定着しているため、大型チェーンが割引をするということは大変大きな意味を持つ。

 今年3月、SKTはパン屋での割引率を10%に引き下げると同時に、中堅クラスのパン屋との提携も進めた。1位のSKTがパン屋チェーンに対する割引率を下げたことからKTFとLGTもこれに続き、現在の割引率は3社とも10%に変わっている。これと同時に前出の個人経営のパン屋からなる団体は、公正取引委員会への提訴を撤回した。

見え始めた「便利さの裏にある問題」

 会員カードはSKTが1999年に、20代前半の若者を対象にした会員制度である「TTL」会員を対象として最初に始めたものだ。顧客囲い込み策の一環だったが、カードさえ見せれば割引となる「革新的なサービス」は人気と話題を集め、そのうちほかのキャリアもこれに追随。次第に提携店の幅も広がっていった。

 会員カードは、加入者獲得という当初の目的を達成させたという意味では、十分に成功例と言える。しかし一方で、こうした人気に乗じて、キャリアと店舗側で負担し合っていた割引額の、店舗負担分が次第に増えていったのも事実だ。

 確かに1人1人への割引額は微々たるものでも、それを大勢の人に対して適用しなければならないとなれば、割引する店舗にとっては苦しいサービスにもなり得る。例えば映画の場合、通常は7000ウォンだが、朝一番の映画はもともと4000ウォン(約480円)で観賞できる「早朝割引」サービスが大部分の映画館で実施されている。これに加え会員カードを提示すれば、なんと2000ウォン(約240円)で観賞できてしまうのだ。ここから収益を上げるのは難しい。

 そのためシネコンの中には、昨年から会員カードによる割引の提供をやめるところが出ていた。映画館だけでなく、各企業と会員カード割引に関する契約を更新するたび割引幅を小さくしたり、あるいは提携を中断するなど、必ずしも割引幅や加盟店舗が拡大しているとは言えない状態になってきている。

 キャリアの会員カードサービスを以前のそれと比較すると、若干恩恵にあずかれる場が少なくなったというのが現在の印象だ。それでも割引が会員カードの一番の魅力となってしまった今、キャリアとしてはこれを縮小したり中断したりするわけにもいかない。店舗とキャリア、両者が利益を得られるようにするにはどうしたらいいのか、対策を考えていく必要がありそうだ。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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