ミッドレンジモデルにも「S60」を──NokiaのUI戦略Nokia World 2006

» 2006年12月04日 16時58分 公開
[末岡洋子,ITmedia]
Photo Nokia ソフトウェアプラットフォーム マーケティング ディレクター、マウリ・メッツェランタ氏

 スマートフォンに求められる機能が、ハイエンドモデルだけでなくミッドレンジにも求められるようになる中、Symbian OSを採用するNokiaが重要なプラットフォームと位置づけているのがインタフェース技術の「S60」だ。Nokiaでソフトウェアプラットフォームのマーケティングを統括するマウリ・メッツェランタ氏に今後のS60の展開と戦略について聞いた。

ITmedia 「S60」の現状を教えてください。

メッツェランタ氏 S60は、オープンな開発環境を持ち、マルチタスキング対応というスマートフォンカテゴリで、最多のシェアを誇ります。英Canalysの調査では、シェアが56%といわれています。Symbian OSのインタフェース技術には、S60のほか、NTTドコモのFOMAが採用する「MOAP」、英Sony Ericssonがよく採用する「UIQ」などがあります。

 S60はNokiaが開発していますが、完全にオープンにしており、韓国のSamsung、LG電子、中国のLenovoなどベンダーにライセンスしています。

 最新バージョンは「S60 Platform 3rd Edition, Feature Pack 1」で、9月に発表したマルチメディア端末「Nokia N95」が最初に対応しました。その後10月には、SamsungとLGが対応端末を投入しています。ライセンシーの実装とNokiaの実装にタイムラグがないのは重要な点で、ライセンシーでもNokiaと同じタイミングで対応端末をリリースできます。「S60 Platform 3rd Edition」をサポートする端末はすでに18機種を数えます。

Photo 最新の「S60 Platform 3rd Edition, Feature Pack 1」を採用した「Nokia N95」

ITmedia ミッドレンジ市場へ向けた戦略は?

メッツェランタ氏 S60では、あらゆる市場への対応を目指しています。これはエリアとコンシューマーセグメントの両方を意味しており、複数言語への対応を進め、またビジネスユーザーから若者まで幅広くカバーすることを目標にしています。そのためにはビジネス向け機能の電子メールやWebブラウザ、マルチメディア機能の動画撮影や音楽再生のいずれもサポートすることが重要で、「Nokia N95」にはこれに加えてGPSも内蔵しました。N95は、5Mピクセルカメラ、音楽/メディアプレイヤーとさまざまな顔を持つハイエンド志向の強いユーザー向けの端末です。スクリーンセーバー、3D表示など、UIも大きな特徴になります。

 日本では、ミッドレンジモデルもスマートフォンの機能を備えていますが、世界的に見るとスマートフォンはまだまだハイエンドです。Symbian/S60端末はハイエンドカテゴリに入りますが、現在ミッドレンジのボリュームマーケットに拡大しようとしています。

 取り組みとしては次のようなものがあります。アプリケーションプロセッサと通信プロセッサをシングルコアチップに載せることで、小型化、消費電力の低下、価格の低下を実現できます。このような分野での研究開発も行っています。また、UIをモジュラー化し、容易に実装できるようにすれば、マス市場に向けてシンプルな端末を設計できます。

ITmedia 携帯端末からインターネットにアクセスするニーズが増えていますが、携帯端末のプラットフォームの分断化が課題となっています。

メッツェランタ氏 いくつかの角度から見ることができます。

 このところ、市場はプラットフォーム製品にシフトしています。たとえば英Vodafoneや仏Orangeは、S60をプラットフォームの1つとしています。

 S60そのものとしては、インターネットサービスプロバイダがアプリケーションを開発する環境をオープンにしています。C++、Java、Perl、Pythonなどで開発できます。

 また、ブラウザエンジンがサービス開発のランタイムとして用いられる傾向が強まっていますが、ここでNokiaはオープンソースにすることで一般化を図っています(5月25日の記事参照)。Nokiaのブラウザは、Apple Computerの「Safari」と同じオープンソースのブラウザエンジンを採用しており(2005年6月の記事参照)、これに電源管理など携帯電話特有の機能を付加して最適化したものです。今回、これをオープンソースコミュニティに還元しました。これが幅広く採用されれば、開発者にとっては一貫性のある環境となり、分断化は緩和されます。

 コアの部分は共通にして、エンジンの上の使い勝手の部分で差別化できるよう工夫しています。Feature Pack 1ではFlashプラグイン、パスワードマネージャなどのユーザーインタフェース機能を追加しています(2005年11月の記事参照)。また、HTMLなどのマークアップ言語を1つに統合しました。

ITmedia そのVodafoneは、Windows MobileとLinuxもプラットフォームに採用しています。Windows MobileやLinuxとの競合をどのように見ていますか?

メッツェランタ氏 Linuxと比較すると、S60では一貫性のある環境を提供できます。アプリケーションをS60向けに開発すれば、あらゆるS60端末で動かすことができます。一方、Linuxプラットフォームは分断化しており、アプリケーションのポータビリティがありません。すぐには完全なスタックにならないでしょう。

 Windowsとの比較では、S60の開発者コミュニティが強みとなります。Nokiaだけでも、S60端末を7000万台出荷しています。開発者は、多く出荷されている端末に向けてアプリケーションを開発し、開発者のフィードバックを受けてプラットフォームは常に改善しています。

 S60のもう1つの強みは携帯電話としてのインタフェースの使いやすさです。SymbianおよびS60は最初から携帯電話向けに最適化されています。例えば「ギャラリー」からある画像を選択すると、「MMSで送る」「壁紙にする」などさまざまな展開を用意しています。アプリケーション間のインターワーキングを改善することで、クリックの数が少なくなるよう工夫しているためです。S60とあるプラットフォームを比較した場合、クリックの数は年間にして1週間の生活時間に相当する差があったと報告されています。

ITmedia 英Sony Ericssonが英SymbianからUIQを買収すると発表しました。これをどう見ていますか?

メッツェランタ氏 SymbianがUIQを手放すことは、OSにフォーカスできることを意味するので、良いことだと思っています。SymbianのインタフェースとしてはUIQとは競合関係にありますが、協業する部分もあります。

ITmedia 今後S60でどのような強化を行っていく予定ですか?

メッツェランタ氏 ユーザビリティとシンプルさにフォーカスした強化を行う予定です。Nokiaの携帯電話は使いやすさで知られています。さらに直感的に使えるよう、ソフトウェアの面から強化を図っていきます。

 アジアでは特に、タッチ入力機能へのニーズが高く、現在研究開発分野となっています。将来この機能を統合する見込みです。

 このほか、インターネットサービスのサポートと統合のための機能にも取り組んでいます。インターネット企業が、Java、C++、Flash、ブラウザ技術とさまざまな技術を利用してモバイル上でアプリケーションを提供できるようにしていきます。

 もう1つ、トレンドとなりそうなのが位置情報をベースとしたサービスです。位置情報・ナビゲーションサービスとコミュニケーション機能を組み合わせられるリッチなプラットフォームがあれば、さまざまなサービスが生まれます。ゲーム、セキュリティ、スポーツ、コンテキストを認識したコミュニティのやりとりなど、さまざまなカテゴリが出てくることでしょう。

 また、S60をプラットフォームに選んだVodafone、Orangeなど、オペレータとの協業も重要視しています。

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