インタビュー
» 2007年02月27日 20時00分 公開

“厚さ11.4ミリ”の意味とは?――0.1ミリのせめぎ合いから生まれた「N703iμ」「N703iμ」開発陣インタビュー(2/2 ページ)

[房野麻子(聞き手:平賀洋一),ITmedia]
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“ディンプル”デザインは0.1ミリのせめぎ合いの場

photo 先行開発チームとして、11.04ミリという薄さの試作機を開発した、NEC モバイルターミナル技術本部の近藤氏

 デザイン面でも、薄型モデルならではの苦労がある。一見、デザインの自由度が高そうに見える携帯電話だが、自由にできる範囲は限られていると有田氏はいう。特に薄型になると、制限が増す。

 「“デザイン”というと、デザイナーが格好よく絵を描いたらそのイメージ通りに製品化する――と思う方が多いと思います。しかし、携帯電話の場合は難しくて、デザイナーはかなり製品版に近いイメージで描く必要がある。そして量産チームは、いかにその形を実現するか、というところに力を注ぎこみます。

 携帯電話は、中身を詰められるマージン(隙間)が非常に狭いので、デザイナーには、どんな部品で構成されているのか、それぞれをどう配置しなくてはいけないのかを知ってもらう必要があります。図面を引く設計者ほどではないにしても、エンジニアとして最低限の知識がないと、現実的なデザインを自由に描くことができません。

 一方エンジニア側としても、今までは以上に攻めていかなくては、そのデザインが実現できないことになります。デザイナーがおこすのは、現実的であっても“理想”に近いものですから。現にN703iμにしても、デバイスを積んでいくと、カメラの位置はココ、液晶の位置はココ……というように、ほとんどレイアウトは決められてしまっていて、デザインワークに制限がでました。そこを何とか乗り越えなくてはいけないと、デザイナーとエンジニアがお互いに最適なところを考えていって出来上がった商品なのです」(有田氏)

 通常は0.5ミリくらいの単位でデザインを描いていくが、薄型モデルは“0.1ミリ”のデザインをしなくてはならない、と有田氏はいう。例えばN703iμには背面パネル一面にディンプル加工が施されているが、この穴の深さを決める際にも、薄さとデザイン性との間で0.1ミリのせめぎ合いがあった。

 「ディンプル加工は端末に表情をつけ、LEDを隠すために施しています。この穴を“穴”として見てもうらには、半球状の凹みをつけなくてはいけません。最初のコンセプトモックでは0.2ミリの深さで穴を作りました。そうすると穴ははっきり見えるのですが、本体の厚さ11.4ミリが11.5ミリになってしまったのです」(有田氏)

photo NEC埼玉 技術部の白石氏ら商用化チームは、試作機を元にデザインや量産性を考慮し、製品版端末を開発した

 普通、穴を作るときには素材を下に掘り下げていくものだが、N703iμの場合はギリギリの厚みで作られているので、掘るための空間がない。凹みを付けるために、一度厚くし、そこから半球状に加工する必要がある。しかし、最終的に11.4ミリは死守したい。そのため「0.1ミリの深さでいかに半球状に見せるかというところで、デザイナーが何度もトライアルして、商用化チームが実現を検討していきました」(有田氏)

 超薄型のため、深いディンプルを作るには本体の厚みを増す必要がある――開発チームは、この難関を「半球」という形状から脱することで解決した。N703iμのディンプルはただの半球形状ではない。「奥行き感を見せるために、一度まっすぐ下がってから、丸くしています。ただの半球状ではないのです。たかがコンマ1ですが、そのコンマ1の中でどう奥行き感を見せるのか。ということを工夫しました」(白石氏)

 「先行チームで作った試作機は、コンマ1でもコンマ01でも薄くということから、ディンプル加工をせずに11.04ミリまで薄くしたのですが、商用化のデザインとなると量産性を高める必要も出てきます。その中で、0.2ミリでは薄くならないのか? 0.15ミリではどうか? 0.1ミリでは? というせめぎ合いをしているのです」(近藤氏)

 N703iμは、技術者たちの0.1ミリのせめぎ合いが随所に散りばめられている製品だ。「ある意味、デザイナーがエンジニアになったモデルですね。エンジニアもデザイナーが描いたものを共有し、良いものを作るために本当にがんばった商品なのです」(有田氏)

試作機から商用化端末へ

 生産性を考慮しない先行試作機が形になったのは2006年春のことだ。強度の評価も含めて課題を確認し、商用化に向けフィードバックしていった。当然、試作機の中身をそのまま製品版で使うわけではない。製品化までに使われている部品が進化していくのだ。

 商用化端末の開発は、将来登場する部品のサイズや性能を予想した形で進められた。そのため、量産に近づくにつれ、予想がズレていくこともあった。思ったよりスペックがあがらなかった、サイズが小さくならなかった、などの理由で調整が必要になったところは少なくないという。

 逆に、従来機と同じにした部品がある。それは電池パックだ。商用化の時点であえて変更し、容量の大きなものに変えた。

 「(薄さを目的とした)試作機では若干割り切っていたのですが、商用化チームが“従来容量と同じにしたい”と、ものすごくこだわりました。だから電池の持ちが他のものに比べて落ちていません。つまり、機能は落とさないというこだわりです。先行チームは、通常の機能は全部入れるという意識でやってきたのですが、商用チームはそれにプラスして電池までフォローしてがんばってくれました」(近藤氏)

 「N703iμのポリシーとして持ちたかったのは、“薄いけれど機能は割り切らない”ということ。薄型化が進む中で、外部メモリに対応していないとか、カメラがないとか、電池が少し小さいとか、機能をある程度割り切っているモデルもありますが、N703iμでは全部割り切らずに、そのままダウンサイズしようと努力しました。電池カバーを外してもらうと分かりますが、電池のサイズは、ほぼそのまま本体の横幅になっているんですよ」(有田氏)

 激しさを増すメーカー間の薄型競争だけでなく、2つの開発チームとデザイナーらのせめぎ合いから生まれたN703iμ。11.4ミリという薄さを達成したN703iμだが、ただ“薄くなっただけ”の端末ではない。次回のインタビューでは、薄さに+アルファされた魅力について聞いていく。

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