スライドボディ、スピードセレクター、ワンプッシュオープン──“D”端末のアイデンティティとも言えるこれらの特徴を踏襲しながら、新たにワンセグ機能を搭載するのが三菱電機製のワンセグ端末「D903iTV」だ。
D903iTVはワンセグを搭載しながら、本体サイズは同時期に発表された「D903i」とほぼ同等(D903iTVは幅48×高さ110×厚み19.8ミリ、D903iは幅48×高さ109×厚み18.2ミリ)。GPSと3Gローミングには対応せず、FMトランスミッター/FMラジオチューナーは非搭載なものの、そのほかはD903i相当の機能を備える。
三菱電機初のワンセグ端末はどのような苦労の末に生まれた端末なのか? 三菱電機 NTT事業部 NTT第三部 第二課 担当課長の永柄知之氏と同 情報システムデザイン部 情報第2グループ 専任の山名新二氏に話を聞いた。
「いずれはスライドモデルにテレビ機能を搭載したいと思っていた」
永柄氏はワンセグ搭載の経緯をこのように話す。三菱電機は「D901i」からスライド形状を採用するが、その大きな理由の1つに“スライドモデルにいずれはワンセグ(テレビ機能)を搭載したい”という思いがあったと振り返る。
「“携帯でテレビ”はいずれ必要不可欠になるだろうと考えていた。その利用シーンを想像した時、(折りたたみ型と異なり)すばやく見ることができて、使いやすいのがスライド形状だった。細かいところまで決まっていたわけではないが、親和性は高いという漠然とした思いを感じていた。三菱電機が携帯で実現したかったことの1つで、ようやく実現した」(永柄氏)
スライド形状を採用し続けたのはワンセグだけが理由ではないが、大きな要因の1つとなっていたのは間違いない。実際、スライド形状でワンセグに挑戦する端末メーカーは多く、三菱電機の先見性は確かなものであったことが分かる。
意外性を狙って、ワンセグではスライド形状をやめようといった意見はなかったのだろうか。永柄氏は「開発スタッフからそういった意見は一切聞かなかった」と振り返る。“スライド形状のワンセグ対応機”は開発スタッフの間でも共通認識だったようだ。そしてもうひとつ、共通認識には“厚さ20ミリを切る”があったという。
「ワンセグには厚いものが多い。ただ昨今、薄さは重要なポイントで、“ワンセグが入ったから厚くていい”という理屈は通らない。ワンセグが付いていながら、とにかくスリムな端末を目指した。それと大画面。D903iでも特徴にしているスリム&大画面をベースに、より男性向けに仕上げた」(永柄氏)
「薄さをアピールするなら、ワンセグ端末とはいえ何とか20ミリは切りたいと考えた。アンテナを外付けにしたのはそのため。完全に内蔵にすることもできたが、20ミリを超えてしまうため外付けにした。ワンセグがアピールポイントであるのは事実だが、“携帯”であることも大切。使い勝手を考えると、なおさら薄さは譲れなかった」(山名氏)
D903iTVの厚さは19.8ミリ。20ミリは下回ったものの、コンマ2ミリほどしか違わない。それほどこだわるべきポイントだったのか。永柄氏は「想像以上に大きなものがある」と力説する。
「カタログに載せた場合や言葉の響きを考えた時、20ミリという数字は絶対に切りたかった。日本人が好きな“イチキュッパ”という言葉があるように、2か1かはかなり重要になる。ちなみにD903iTVの厚さは19.8ミリだが、結果としてそうなっただけ。決して狙ったわけではありません(笑)」(永柄氏)
D903iTVでは厚さ19.8ミリを実現するため、アンテナが外付けになっている。外付けアンテナは形状の異なる2種類(イヤフォンがアンテナを兼ねるタイプと専用外部アンテナ)を同梱するが、これは利用シーンを考えてのことだと永柄氏は述べる。
「ワンセグの利用シーンとして、通勤途中の電車など移動時がある。公共の場ではイヤフォンが必要なので、まずイヤフォンがアンテナを兼ねるタイプの採用が決まった。ただ、これはコネクタ部分が太くなってしまい、みんなで視聴する時にはアンテナが垂れてしまう。見た目にもよくないということで、通常のアンテナも必要だと考えた」(永柄氏)
D903iTVには内蔵アンテナもあり、受信感度のよい場所であれば外付けアンテナを使用せずにワンセグを楽しむことができるが、どこでも受信できるわけではない。特に住宅街などではやはりつらいものがあるという。
ワンセグ利用中は、スピードセレクターと決定キーでチャンネルを切り替えられ、スライドのオープン/クローズが縦表示/横表示と連動。十字キーとしてスピードセレクターを使う場合の左右は音量調整に対応するなど、“D”の特徴を生かしている。ただし、視聴予約はできても予約録画はできないなど、いま一歩と感じる部分もある。
「予約録画に関しては、録画時にユーザーがどういう電波状況にいるか分からないというのがあった。録画ができても電波状況が悪ければ意味がない。視聴予約でお知らせをして問題なければそのまま録画してもらう。こういった使い方を考え、見送った経緯もある」(永柄氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.