動画の音声は、本体のスピーカー以外にオプションのBluetoothイヤフォン「ワイヤレスイヤホンセットP01」でも出力可能。動画再生中に電話やメールの着信があった場合は、動画再生を停止して自動的に電話やメール機能に切り替わる仕組み。再開時は30件分の再生履歴を残す機能や、中断後にその続きから再生できる“しおり”機能が便利に使える。
マルチタスクには対応しないのが残念な部分だが、やはり「Windows Media Videoの再生は、プロセッサにかかる負荷が大きい」(常廣氏)。苦労は多かったようだ。
「HSDPA通信しながらWindows Media Video再生する。時にはBluetooth通信も行う……には相当な負荷がかかります。ただ、携帯電話なので着信できなければ話になりません。プロセッサパワーをどう効率的に使うかという調整は非常に大変な作業でした」(常廣氏)
最後の“2006年冬モデル”として登場することになってしまった理由が、なんとなくうかがい知れた。
2006年11月発売のP903iから、約5カ月を経て登場することになったP903iX HIGH-SEED。同一シリーズながら省電力化の取り組みも一歩進化している。
動画コンテンツの連続再生時間は(取材当時、最終試験中だったため明らかにされなかったが)「通勤時間がやや長い人でも“往復で電池切れしない”くらいを目指したい」(井端氏)という。2時間から3時間ほどというイメージだろうか。プレーヤーがプロセッサに与える負荷に加え、ストリーミング再生はさらにHSDPAで通信し続けるため、電力も余計に消費するようだ(なお、SDオーディオの連続再生時間はP903iの約70時間に対して約75時間に、着うたフルは同じく約17時間に対して約70時間に向上した)。
加えて、HSDPA電波の強弱の幅に関わらず、いかにスムーズにストリーミング再生を行うかというチューニングも大きな課題だった。ブロードバンド接続のPCでも状況によってストリーミング再生の途中で映像が止まってしまうことがあるが、携帯はさらに通信環境が厳しいことは容易に想像できる。「移動できる携帯は、より電波の強弱の幅、つまり通信状況の善し悪しの幅が大きくなります。どのくらい受信しバッファに貯めたら再生を始めるか、電波が途切れた場合にその復旧をいかに早く行うか、どう再生が途切れないようにするか。その調整にかなりの時間を費やしました」と、常廣氏は振り返る。
なお2007年4月現在、パケットあたりいくらという料金体系で成り立つ携帯で、データサイズの大きい動画データを気軽に楽しむには料金定額制サービスの加入が不可欠。「数分程度の動画を1本見て何千円という状況は現実的ではありません。せっかくの機能も生きません」(井端氏)。
そこで必要になったのが、フルブラウザでの通信も定額料金とする新たな定額制プランだ。NTTドコモが「パケ・ホーダイフル」プランを開始した理由の1つに、P903iX HIGH-SPEEDの存在があったことは想像に難くない。実際、同社はこの点についてドコモと何度も協議したという。
プロセッサへの負荷や消費電力という犠牲を払い、さらにストレスなく再生するためのチューニングに苦労しながらも“Windows Media Video対応”にこだわったのはなぜか。先行する他社HSDPA携帯との差別化もさることながら、「動画コンテンツを、PCと同じように携帯電話でも楽しめるようにしたい。それが当たり前になる時代も近い将来、きっと来る」(井端氏)という強い思いがあったからだ。
PC向けのWebサービスはブロードバンドの普及を軸に、動画共有サービスや動画を用いたブログなども人気を集めており、デジタルカメラにも動画撮影をメイン機能として打ち出す機種が続々登場。今や動画は、静止画に肉薄するほど身近なコンテンツになっている。HSDPAの普及、あるいはスーパー3Gないし4G時代が到来すれば、高速通信を生かすコンテンツとして“携帯でも動画”がPCのようにごく一般的になっていくのは自然な流れと言えるだろう。一足お先に近未来の携帯を──。P903iX HIGH-SPEEDが“携帯と動画の架け橋”になってくれることに期待したいところだ。
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