またジョンソン氏は、他の携帯電話向け放送サービスと比べたMediaFLOの強みの紹介にも時間を割いた。
ワンセグ放送などと比べた場合のMediaFLOの利点としては、ベースとなるインフラ価格の安さ、そして1つの局で全国放送と地域放送を両方とも管理/提供できるという強さに加え、チャンネル単位での画質とデータ量の最適化の機能などを挙げた。例えばカーレースの番組などでは、動きが激しいため、動画のビットレートを上げないと映像が乱れてしまうが、MediaFLOではこうした一時的なデータ量の追加割り当てを動的に行なえる。
また6MHz幅で多数の番組が配信できる電波利用効率の高さや消費電力の低さ、レイヤードモジュレーションを利用し、建物が密集した都市部でも優れた受信可能範囲を実現する点などもMediaFLOの強みの1つだ。さらに、約2秒程度でチャンネルが切り替えられることも特筆に値する。
たくさんの端末に同時に大量の情報を送れる「放送」というしくみの強さを生かして、「クリップキャスティング」や「データキャスティング」という、いわゆるテレビ放送とは異なるデータサービスを提供できるのもポイントだ。
クリップキャスティングとは、番組コンテンツをデータとしてあらかじめ配信する技術だ。番組の放映時間前に、放送波を使ってあらかじめ番組データを配信しておき、放映開始時間から再生可能にする。事前にデータをキャッシュさせておくので、ユーザーは好きな時間に再生できる。また、一度受信してしまえば、放送波の届かない地下鉄の中などでも番組が視聴できる。
一方、データキャスティングは番組ではなく、情報(データ)を配信するサービスだ。といっても、ワンセグのデータ放送のように、番組の関連情報や追加情報を表示するという使い方ではなく、テレビ放送とは独立した形で、例えば全米の天気やスポーツの試合の経過といった情報を流すのに使う。
携帯電話側では、そうした情報をただの文字情報として表示するのではなく、さまざまな形に加工して利用する。例えば天気であれば地図を使って地域を選ぶと、その地域の天気が図解で表示されるといった形で提示できるわけだ。あるいは野球の結果であれば、投手が投げた球のコースや打撃成績といった情報を、図解や簡単なアニメーションとして表示することで、テレビ放送が行われていない試合についても、より臨場感のある見せ方ができる。
3月からMediaFLO技術を使ったサービス「V CAST Mobile TV」を提供している米Verizon Wirelessでは、現在のところクリップキャスティングやデータキャスティングのサービスは行っていない。ただし、データキャスティングについては、Verizonに続いてMediaFLOの採用を表明したCingular Wireless(AT&T)が興味を示しており、年内にはサービスが利用可能になる見通しだ。
ジェイコブス氏とジョンソン氏に続いて、FLO ForumのCFO(最高財務責任者)、マリベス・セルビー氏によるプレゼンテーションも行なわれた。
FLO Forumは、MediaFLOの主要技術の1つであるFLO技術の標準化やITU勧告化および同技術に係わる製品・サービスの普及を図る非営利団体だ。現在、参加メンバーは78社に上り、15社が参加申請中だ。
日本では、KDDIとクアルコムジャパンが、MediaFLOを用いたサービス提供の可能性を検討する企画会社、メディアフロージャパン企画を立ち上げているが、これに加えソフトバンクモバイルがクアルコムからやや独立した形でMediaFLOの技術調査や新サービスの企画を行なう「モバイルメディア企画という名の会社を立ち上げている。
MediaFLOは、QUALCOMMの独占技術だと思われがちだが、実はこのモバイルメディア企画のように、クアルコムからは独立した形での事業化も可能なオープンなスタンダードとなっており、FLO Forumはそうした中での技術の標準化などを助ける役割を担っている。
続いて登壇したのは、MediaFLOの米国でのオペレーションを担当しているMediaFLO USAのシニアディレクター、マイク・ベイリー氏だ。
MediaFLO USAは、QUALCOMMの100%子会社で、コンテンツの調達・提供やオペレーションセンターの運営などを担当している。オペレーションセンターには、全国規模でのコンテンツ管理を行なうNational Operation Center(NOC)と、地域単位での管理を行なうLocal Operation Center(LOC)があり、2種類の運用形態に対応する。MediaFLOサービスの運用が開始しているのがVerizon Wireless 1社しかない現状では、1カ所のNOCですべての管理を行っている。
今後、同社はVerizonと協力し、約5900万人のVerizon Wireless利用者に向けてサービスの提供地域などを順次拡大していく予定だが、今年後半には6100万人が利用するCingular Wireless(AT&T)によるサービスもスタートする。
ベイリー氏は「テレビと違い、いつでもどこでも番組を視聴できる携帯電話にあわせて、常にゴールデンタイム級の番組が見れるように番組提供会社と協力して番組を編成している」とその工夫を紹介した。
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